第3話 やっと少年は街にたどり着く
10歳にしては利発な主人公ですが、親の教育のたまものです。きっと。
盗賊(仮)と遭遇した後、程なくして街道へと戻ってきた。
改めて街道を見渡すと村のそばとは違い幅も広くしっかりと均されているのが分かる。
この分なら直ぐに街が見えてくるんじゃないかな。
ただもう太陽が傾き始めているから急いだほうが良いかもしれない。
そうして息が切れない程度の速度で走って1時間ほどした頃、高さ5メートル程の壁と門が見えてきた。
門の前には衛兵と思われる揃いの鎧と槍を身に着けた人が4人。
他にもこれから街に入る人たちが何人か居て順番に衛兵のおじさんに何かを見せたり渡したりしている。
「あっ」
「え?」
「いえ、なんでも」
思わず声が出て、先に並んでいる人から訝しげに見られてしまった。
あぶないあぶない。
僕の前に並んでいる女の子2人組は森で盗賊に襲われていた女性だった。
よく見れば年齢は僕より少し上くらいみたいだ。
どうしよう。
向こうからは僕の事を気付いてなかったはずだから、ここで怪しまれたらまずいかもしれない。
まだ彼女たちと盗賊との関係も分からないんだし。
かといって突然距離を取ったら逆にあやしいだろうし。
そう思いながらぼんやりと門のほうを見ていたら、なんと女の子の方から声を掛けてきた。
「ねぇきみ、一人?どこから来たの?」
「え、はい。えっと、この道の先にある小さな村からです」
「村?この近くに村なんてあったかしら。
うーん、まぁいいや。この街は初めて?身分証とかは持ってないよね。お金は持ってる?」
どうやら、心配して声をかけてくれたみたいだ。
悪い人じゃ、ないみたいだな。ならさっきのも単純に盗賊に襲われていたと見ていいかな。
「えっと、お金は少しは持ってるので多分大丈夫です」
「なら良かったわ。私はカウラ。見ての通り剣士よ。で、こっちはララ」
「ララです。水の魔法士です。カウラとは幼馴染なの」
「僕はカイって言います。カウラさんとララさんですね。よろしくお願いします」
そうして自己紹介をしてると衛士の人に呼ばれた。
どうやら僕ら、正確にはカウラさん達の番みたいだ。
「おう、カウラとララか。よく無事で帰ってきたな。
ギートとグルダは一緒じゃないところを見ると入れ違いになったか」
「ギートさんとグルダさん?会ってないわよ?」
「そうか。で、あの3人組が居ないところを見ると何かはあったってところか」
「あったというか、あいつらに襲われたわ。何とか逃げてきたけど」
後ろで聞いてて違和感を覚えた僕は話に入ることにした。
「あの、今の話だと、カウラさん達が襲われることが分かってたみたいに聞こえるんですけど」
「ん?なんだ坊主。見ない顔だな」
「あ、はい。カイって言います。今日初めてこの街に来ました」
「そうか。ようこそ、グルーバルの街へ」
そう言ってビシッと右腕を胸に当てる。
どうやらお決まりのあいさつみたいだ。ってそれより。
「それよりさっきの話です」
「ん、ああ。そうだな。今朝がたこの2人と一緒に出て行った3人組の男なんだが、あまり良くない噂があってな。
本当ならカウラ達が一緒にに出るのを止めたかったんだが、俺らにその権利はねぇ。
だからせめて今日非番のやつらに見回りに行ってもらってたんだ。
ま、実際にはカウラ達は自分の身を守れる立派な冒険者だったってことだな。
まだ若いのに大したもんだ」
グシグシとカウラさんの頭をかき回す衛士さん。
こうして見てると大分仲がいい様に見える。
「ん?ああ。カウラは姪っ子なんだ。公私混同はしねえから安心してくれ」
「ああ、なるほど」
「それよりガルダさん。私たちもう入ってもいい?さすがに今日は疲れたから早く休みたいんだけど」
「そうだな。お前たちなら身元もハッキリしてるし、冒険者証も……あるな、よし。入っていいぞ」
「うん、ありがと。じゃあねカイ君」
そう言って手を振って街の中に入っていく2人を見送ると衛士のガルダさん?と向き合う形になった。
「さて。君はカイと言うのかい?私は衛士のガルダだ。
見たところ商人という訳でもなさそうだね」
「はい。先日村でお世話になっていたバーラさんから独り立ちしろと言われて出てきました」
「バーラ様が!?」
ん?バーラ様??
ガルダさん、バーラさんの事知ってるの?
「ごほん。事情は分かった。だが街に入るには大銅貨1枚必要だが持っているか?」
「はい、これで」
「ああ、確かに。この後はどうするんだ?」
「うーん、まずは冒険者ギルドに登録するように言われているので、そっちに。そのあとは今日の寝床探しですね」
「そうか。冒険者ギルドならまっすぐ行って大きな十字路を右に行けばすぐに2本の剣を交差させた看板が見つかるだろう。
宿は、西カラス通りの『春の水鳥亭』に行くといい。俺の名前、というよりバーラ様の名前を出せば悪いようにはされないだろう」
「はい、ありがとうございます」
ガルダさんにお礼を言って門をくぐる。
よし、ここからだ。