第2話 なぜか少年は森をさ迷う
お読みいただきありがとうございます。
推敲から10日。ようやく物語の方向性が定まってきました。
念のため。
本作品は人の生き死にが普通に発生します。
スプラッター描写はなるべくしませんが、同じ人類でも敵は敵です。
村を出て6日。
本来ならそろそろ街にたどり着いてもおかしくない時間が経過しているが、俺はまだ森の中を歩いていた。
街道?3日前に逸れたっきりだな。
「べ、別に迷子じゃないぞ」
って誰に言い訳してるんだろう。
これがあれか。隣のトムじいさんが言ってた一人暮らしを始めると独り言が増えるって奴。
まぁ誰に聞かれる訳でもないし聞かれて困ることもないからいいか。
「っと。クリン草がこんなに生えてる。
この辺りは誰も採りに来ないから生え放題なんだな」
そう言いながら、せっせと採取していく。
バーラさんからは食べられる野草や薬草、はたまた毒草に至るまで様々な事を教えて貰った。
当然実地で採取しながらになるので、去年は毎日のように森に入っていた気がする。
そのお陰か希少な薬草なんかを見かけると今みたいにフラッと森の中に入ってしまうんだよね。
ただ、流石にそろそろ持ちきれなくなってきたし、いい加減切り上げるかな。
この辺りはもう街も近いはずだし、また来れば良いだろう。
「――!」
「――!!」
さて街はどっちかなと周りを見渡したところで、複数の人の声が聞こえてきた。
魔物に襲われているのかな?
今の僕でも魔物の気をそらすくらいなら出来るので、急ぎ足に、でも慎重に、声のした方に向かった。
「(いた!)」
男性3人と女性が2人。魔物は……あれ、居ないな。
その代わり、女性の一人が男性に捕まっていて、残りの一人も剣を構えている。
「あなた達、こんなことしてどうなるか分かっているの!?」
「あぁ分かっているさ。馬鹿な新人冒険者が無茶をして魔物に殺されるなんてよくある話だからな」
「そうそう。冒険者ギルドは冒険者同士のいざこざには早々首を突っ込まないしな」
「へへっ。あいつら金にならないことはしないからな」
そう言いながら手の空いている男性二人が下卑た笑いを浮かべながら前に出た。
……なるほど。喧嘩ではなく、盗賊の類だね。
もしかしたら仲間割れって可能性もある気がするけど、どっちみちあの男たちの雰囲気は盗賊のそれだ。
以前、僕の村にも何度か盗賊に襲われたことがある。
幸い村には弱っちい盗賊しか来なかったお陰で村人総出で撃退していた。
その時教えて貰ったのは『盗賊は魔物よりたちが悪い。だから生かして帰すな』だ。
今は僕以外に味方は居ないから慎重にやらないと。
僕は盗賊たちに気づかれないように風上へと回り込む。
今の手持ちで有効なアイテムはこれだな。
さっと背嚢から薬袋を3つ取り出して盗賊たちの頭に当たるようにポンっと投げる。
「あたっ」
「いてっ」
「なんだ?」
「(そよ風)」
「なにか当たった……ような……」
後ろを振り返ろうとした盗賊たちは、しかし薬袋から飛び散った粉を吸い込むとそのまま力なく倒れこんでいった。
よし、上手くいったみたいだ。
そんなに強い睡眠薬じゃなかったんだけど、耐性とかなくて助かった。
さて、残った女性2人は突然の事に周囲を警戒してる。
「なに?何が起きたの?」
「分かんない。けど、この人たち眠ってるみたい。今のうちに逃げよう」
「そ、そうね。でも気を付けて。もしかしたらそいつらを眠らせた魔物が潜んでるかもしれないから」
「うん!」
そうして周りを気にしつつ、街があるであろう方向に走り去っていった。
こちらに戻ってくる様子はないな。
僕も潜んでいた茂みから出ると倒れている男たちを観察した。
起きる気配は、ないか。
このまま森に放置しておけば、森の魔物たちが処分してくれるだろうけど、貰えるものは貰っておこう。
男たちの懐を探って銀貨と銅貨を幾らか回収した僕は、血の臭いに魔物が寄ってくる前にその場を後にした。