第1話 そして少年は始まりの村を出る
0話目から時間は遡っています。
0話目の時間にたどり着くまでそれなりに時間がかかる=聖女様が出てくるまでちょっとかかります。
「今までお世話になりました」
約5年の間、僕の面倒を見てくれたバーラさんに最後の挨拶をして村を出た。
季節は春。天候は快晴。絶好の出立日和だ。
「よし、行こう」
空を見上げて目を細めた僕は、自分に言い聞かせるように言って前へと進む。
目指すはこの街道を5日行った先にあるという、大きな街だ。
これまで村の周囲の森にしか行っていなかった僕としては初めての旅だ。
『いいかい、カイ。
私はお前が10歳になるまで面倒を見てあげよう。
だがそこからは自分の力で生きていくんだ。
だから早くこれくらい出来るようになりな』
村一番の薬草師のバーラさん。
そのバーラさんの元に預けられた翌朝、そう少し突き放すようにバーラさんは言った。
でも面倒を見るというのも本当だったらしく、毎日様々な事を教えてくれた。
特に野営やサバイバル技術、そして薬に関する知識を中心に。
お陰で今では街なんて行かなくても生き抜くだけなら、それこそ森の中でも生きていけるだろう。
まぁ、それでも流石に昨夜『明日の朝ここを出ていきな』と突然言われたときはびっくりしたけど。
ぶっきらぼうなその言葉は、同時に僕がもう一人でも生きていけると太鼓判を押してもらったようにも感じた。
バーラさんの信頼を裏切らない為にもしっかりと生きていかないと。
ガタゴトガタゴトッ
「ん?」
街道の先から馬車の走る音が聞こえてくる。
……おかしいな。今日は月に1度の行商の日じゃないはずなんだけど。
街道は馬車が通るギリギリの幅くらいしかない。だから僕は脇の林に入って馬車の一団をやり過ごす事にした。
僕に気付かず通り過ぎていく馬車を見るとしっかりした造りな上に護衛が4人。
明らかに行商人の馬車ではない。
(偉い人?まぁ僕には関係ないか)
僕は気にせず先を急ぐ事にした。
………………
「村長は居るか」
カイと入れ違うように村に入ってきた馬車が広場に止まると、中から出てきた壮年の男性が周りに集まってきていた村人たちに声をかけた。
それを受けて村人の中から老人が一人前に出た。
「こちらに。ようこそいらっしゃいました、司教様」
「うむ。ふふっ」
司教と呼ばれた男性は内心、司教がこんな村に来るわけないだろうがと思いつつも、若干にやついていた。
それに気づかないふりをしつつ村長は愛想笑いを浮かべた。
「ささ、お疲れでしょう。何もありませんが私めの家でお寛ぎください」
「いや、先を急ぐのでな。用を済ませたらすぐに出ねばならん。
(こんな危険な場所にある村なんぞに長居はしたくないからな)」
「畏まりました。それでご用と言いますと神託の儀でしょうか。
あいにくこの村には10歳になる子供は居りませんが」
「む?去年9歳になる子供が居ると報告を受けていたが?」
「その子でしたら先月、魔物に襲われ女神様の元へと還りました」
つまり亡くなったと言うことだ。
それを聞いた男は不機嫌な顔を隠しもせずに舌打ちをした。
「そうか、なら用は無い。邪魔をしたな。(ちっ、無駄足を踏ませおって)
おい、次に行くぞ」
そうして馬車は慌ただしく村を出ていった。
馬車が見えなくなったところで村長のそばに白髪の女性が近寄ってきた。
「……これで良かったのかい?バーラさん」
「ああ。これから一人立ちしようっていうあの子の進む道を、神託なんぞに変えられたくはなかったからね」
「それでも10歳で一人立ちさせるのは些か早すぎる気もするがね」
「なに。あの子はしっかりしてる。きっと大丈夫さ」
「そうだな……」
そうしてふたりは街へと続く先に居るであろう彼の姿を思い描いた。




