第0話 ひとり少年は歩き続ける
目を通していただきありがとうございます。
初めましての方、ようこそ。
いつも読んでくださっている方、いつもありがとうございます。
ファンタジー系の連載では5作目となります。
元々読み専の自分がまさかこうして執筆を続けられるとは。
ひとえに読んでくださる皆様のお陰です。m(_ _)m
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
朦朧とし始めた意識の中、僕は街に向かってただひたすら森の中を歩き続けていた。
全身の至る所から血が滲み、一歩足を踏み出すたびに鈍い痛みが体を駆け巡る。
それでもなお『足を出せ。進み続けろ』と何度も自分に言い聞かせながら、ただただ足を前に出す。
『覚えておけ。
生きて帰ってこれるやつと途中で倒れて帰ってこれない奴の違いはな。足を動かし続けたかどうかだけだ。
途中で立ち止まったり座り込んだりした瞬間、そいつは帰ってこれなくなる。
いいか、生きて帰ってきたければ止まるな。歩き続けろ。
そうすればいつか必ず街まで帰ってこれる。
少なくとも僕はそうして何度も死地から生還してきた』
そう語ったのは全身に傷跡を残した先輩冒険者だった。
その誇らしげな顔がちらりと頭を過ぎる。
そうだ。僕はまだ死ねない。少なくとも街に戻ってこの薬を届けるまでは。
……どれくらい時間が過ぎただろうか。
既に周囲の音を聞く余裕すらなくなった頃、視界が明るくなった。
足から伝わる感触がよく踏み固められたものへと変わる。
森を抜けたんだ。
でも、ここはまだ街じゃない。気を抜くな。帰るべき街は右手だ。さあ一歩を踏み出せ。
「――」
ん?なんだ。
ガタゴトと振動が後ろのほうから伝わってきた。
これは、馬車だろうか。
一瞬頭を過ぎるが、すぐに霧散した。僕は足を動かさないといけないのだから。
「っ」
ここに来て石か窪みか、何かに足を取られて転倒した。
受け身の一つも取れなかったので、全身に鈍い痛みが走り顔面を地面に打ち付けた。
慌てて背嚢を確認する。薬は、多分大丈夫だ。
さぁ立て。進め。明日までに街に帰らないといけないのだから。
そう思うも、腕にも足にも力は入ってくれない。
ズルズルと匍匐前進のように進むのが精いっぱいだ。
それでも『止まるな、進め』と言い聞かせて動き続ける。
「――、――!」
何かが聞こえる。
同時に何かが僕に触れた。
温かい。
これは、人の手だろうか。
誰かが僕を助け起こしながら声を掛けてくれているらしい。
さっきの馬車か?いや、何でも、いいか。
わざわざ僕に声を掛けてくれたんだ。きっといい人だろう。
「たの…む。くすりを。職人、通りの……シェリスさんに」
「――?、――!」
それだけ何とか言葉にすると、僕の意識は闇の中に落ちていった。
この0話は本編のすこーし先のお話です。
目下最大の課題は、ちゃんと本編がこの話に繋げられるかどうかという。
本当は1月31日までに目星を付けたかったんですが、いつも通り、登場人物たちがどんどん走って行ってしまうので私としては嬉しい悲鳴が止まりません。