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第17話 儂もだ

王都が見えてきた。


馬車の窓から、巨大な城壁が見えた。


その向こうに王城の尖塔が見えた。


アシェが目を輝かせた。


「すごい……」


帽子の下から、興奮した声が漏れた。


レイも、窓の外を見ていた。


百年前の記憶の中の、サングラディアの王都とは全く違う街並みだった。


古い石造りの街。


しかし、その至る所に新しい技術が混ざっていた。


通りには魔石ランプの街灯が並んでいた。


夕暮れに灯り始めた光が淡く街を照らしていた。


店々の看板も、薄く光っていた。


百年前の王国にはなかった、新しい技術。


市場では商人たちが声を張り上げていた。


「サングラディア産の最新魔石!」


「冒険者が採取した森の素材、新鮮ですよ!」


レイはそれを聞きながら、少し首を傾げた。


百年前の王国はもっと閉ざされた国だった。


他種族との関わりを極力避けていた。


それが百年経って、こうなっていた。


魔石なしには王国の暮らしも回らない。


冒険者なしには街の安全も守れない。


だが、街を歩いている人々は見える限り、人間ばかりだった。


時々、エルフやドワーフの姿は見えた。


しかし、獣人の姿はほとんどなかった。


矛盾していた。


他種族の力に依存しながら、他種族を街から遠ざけている。


アシェがそれに気づいたようだった。


帽子を深く、かぶり直した。


レイの目の奥がわずかに細くなった。


馬車が公爵家の屋敷に到着した。


立派な、石造りの屋敷だった。


ヴィクターが三人を中へ案内した。


執務室の前でヴィクターが立ち止まった。


「公爵様はこちらにいらっしゃいます」


「うむ」


レイが扉をノックした。


「入りなさい」


低い、頑固そうな声が中から聞こえた。


レイが扉を開けた。


執務室の中は本に囲まれていた。


壁一面の本棚。


机の上にも、書類が積み上がっていた。


そして、机の奥に一人の老人が座っていた。


短く整えられた白髪に白い髭。鋭い灰色の目でレイをじっと見ていた。

年配で少し縮んだ体だが、背筋は伸びていた。頑固そうな顔だった。


ベルナード公爵だった。


レイの祖父。


ベルナードがレイを見た。


そして、しばらく動かなかった。


レイの顔をじっと見ていた。


「……」


ベルナードが深く息を吐いた。


「全く……アルテナの息子か」


「うむ」


「うむ、ではない」


ベルナードが不機嫌そうに言った。


「公爵に対する礼儀は知らんのか」


「知らない」


「……」


ベルナードがまた深く息を吐いた。


「アルテナは何を教えていたのだ」


「今を生きる」


「種族なんて関係ない。助けたいと思ったら、助けると教わった」


「あと、差別主義は損ともいっていたな」


「……」


ベルナードが固まった。


それは若い頃のアルテナの言葉だった。


家を飛び出す前にベルナードに何度も言っていた言葉。


そして、その後、サングラディアから帰ってきたアルテナがもっと強い意志を持って言うようになった言葉。


「母上の言葉だ」


レイが淡々と続けた。


「私は母に助けられて生きている」


ベルナードがしばらく目を閉じた。


それから、ゆっくりと、目を開けた。


「……アルテナのやつめ」


声がわずかに震えていた。


「儂の孫に馬鹿な教育をしおって」


しかし、その目には何かが滲んでいた。


レイはそれに気づいた。


しかし、何も言わなかった。


ただ、頭を深く下げた。


「母上のお父上にお会いできて、嬉しくおもう」


ベルナードがレイをじっと見た。


そして、ぽつりと言った。


「……儂もだ」


それだけだった。


しかし、レイの目の奥がわずかに和らいだ。


ベルナードも、それに気づいた。


そして、無表情のまま、椅子に深く座り直した。


「明日、優秀な魔法教師を呼ぶ」


「うむ」


「お前の魔法を見せろ」


「うむ」


「期待はせん」


「うむ」


ベルナードがまた深く息を吐いた。


「……アルテナの息子だな、本当に」


レイは何も言わなかった。

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