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第15話 王都へ

それから、しばらくが経った。


三人の関係は前よりも、深まっていた。


フェリクは相変わらずビビリで口だけ達者で文句が多かった。


アシェの店に届け物がある時はフェリクが先に荷物を持った。


「お前は重いの持つな。スラムを歩きにくいだろ」


そう言って、アシェの代わりに荷物を抱えた。


アシェが少し驚いた顔をした。


それから、ふっと笑った。


「あんた、変わったわね」


「そんなことない」


フェリクが顔を背けた。


しかし、その耳がほんの少しだけ赤くなっていた。


レイは無表情のまま、目の奥がわずかに和らいでいた。


ある日のことだった。


男爵家に見慣れない男が訪ねてきた。


ヴィクターだった。


レイは玄関でヴィクターを迎えた。


「ヴィクター、久しぶりだな」


「はい」


ヴィクターが深く頭を下げた。


「公爵様より、伝言を預かって参りました」


レイが頷いた。


「あなた様を王都にお呼びしたいとのことです」


レイが首を傾げた。


「お祖父様が私を?」


「はい」


ヴィクターが頷いた。


「あなた様の魔法のことがお祖父様の耳に入ったようでして」


「魔法?」


「四属性すべてをお使いになる、と」


レイは黙って聞いていた。


「お祖父様は優秀な魔法教師にあなた様を見せたいとお考えのようです」


レイがしばらく考えた。


「私の魔法は弱いが」


「お祖父様は可能性を見ておられるのです」


「いかがでしょうか」


レイは即答した。


「行こう」


新しい場所は面白い。


「ありがとうございます」


「ただし、フェリクとアシェも一緒に連れて行きたい」


ヴィクターが少し驚いた顔をした。


「アシェ、というのは……」


「獣人の友人だ」


ヴィクターの表情がわずかに変わった。


しかし、すぐに頷いた。


「かしこまりました。お祖父様にお伝えいたします」


その夜、レイはフェリクとアシェを呼んだ。


「王都に行くことになった」


フェリクが目を見開いた。


「王都だと?」


「うむ」


「なぜだ」


「お祖父様が私の魔法を見たいと」


「お祖父様って……お前、誰だよ」


レイが少し考えた。


そして、淡々と答えた。


「ベルナード公爵だ」


フェリクが固まった。


「公爵?」


「うむ」


「公爵って、王国の三大公爵の?」


「らしい」


「らしい、じゃない!」


フェリクが頭を抱えた。


「公爵は王族にも意見できる権力者なんだぞ。王国で王族の次に強い力を持つ家系の一つだ」


「そうなのか」


「そうなのか、じゃない!」


フェリクがレイをじっと見た。


「お前、本当に何者なんだ」


「私はレイだ」


「そうじゃない!」


その時、アシェがけろっとした顔で言った。


「まぁ、あんたが男爵なのか、公爵なのかなんていまさら大した問題じゃないわよね」


フェリクが振り返った。


「いや、大した問題だろ!」


「だってあんたが何者でも、あんたはあんたじゃない」


「いや、それはそうだが——」


「ねえ?」


アシェがレイを見た。


レイが頷いた。


「うむ」


「ほら見なさい」


「いやだから——」


フェリクが何か言いかけて、諦めた。


深く息を吐いた。


「……お前らの感覚、本当におかしい」


レイが少しだけ、口角を上げた。


それから、アシェを見た。


「アシェも、一緒に行かないか」


アシェが目を見開いた。


「あたし?」


「うむ」


「王都に?」


「以前、王都の市場を見てみたいと言っていただろう」


「いや、言ってたけど……」


アシェが戸惑った顔をした。


「あたしみたいな獣人が行ける場所じゃないでしょ?」


「行ってはいけない理由はないだろう」


「いや、あるでしょ。普通は」


「では、帽子を被ろう、外套でもいい」


「は?」


「耳を隠せば、目立たない」


アシェがしばらく考えた。


それから、ふっと笑った。


「……あんた、本当にバカね」


「そう言われるな」


「でも」


アシェの尻尾がふさっと動いた。


「行きたい」


レイが頷いた。


「お父さんとお母さんに話してから」


「わかった」


フェリクは何か言いたそうだったが、何も言わなかった。




数日後、レイとフェリクはアシェのお父さんとお母さんに会いに行った。


スラムの一角の、小さな露店。


店番をしている、狼の耳を持つ中年の男女がいた。


アシェのお父さんは大柄で無口そうだった。


アシェのお母さんは小柄で優しい目をしていた。


アシェが二人にレイとフェリクを紹介した。


「この子たちがあたしの友達」


お父さんがレイをじっと見た。


「お前がレイか」


レイは頷いた。


「アシェがよく話している」


「変な口調の少年だと」


「うむ。よく言われる」


お父さんが少しだけ、口角を上げた。


「アシェを王都に連れて行きたいと?」


レイがもう一度頷いた。


「危険だぞ」


「危険なのは私もわかっている」


「だから、護衛もつける。公爵家の馬車で行く」


「ふむ」


お父さんがしばらく、レイを見ていた。


それから、頷いた。


「アシェ」


「何?」


「行きたいか」


「……うん」


アシェが頷いた。


お父さんがもう一度、頷いた。


「行ってこい」


お母さんも、頷いた。


「アシェの夢だものね」


「気をつけて行ってきなさい」


アシェがお母さんに抱きついた。


「……ありがとう」


お母さんがアシェの頭を撫でた。


「気をつけて」


「うん」


レイが深く、頭を下げた。


「アシェは必ず、無事に連れて帰る」


お父さんがレイを見た。


「変な少年だが」


「信用できそうだ」


レイは頷いた。


それだけだった。


しかし、レイは確かにアシェの家族の信頼を受け取っていた。


数日後。


三人と、ヴィクターを乗せた馬車が王都へ向かった。


道中、フェリクがずっとぶつぶつ言っていた。


「公爵家の血筋をなぜ今まで言わなかった」


「言う必要がなかった」


「いや、あるだろ」


「フェリクと友達になるのに、血筋は関係ないだろう」


「……」


フェリクが口を閉じた。


それから、目を背けて言った。


「……まあ、それはそうだな」


アシェがそれを見て笑った。

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