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第13話 赤鬼の青年

その瞬間。


フェリクが後ろを振り返った。


走り出したい衝動が足から這い上がってきた。


身体が勝手に動こうとしていた。


逃げたい、と思った。


このままここにいては巻き込まれる。


俺は何の役にも立たない。


それなら、ここから消えた方がいい。


身体が走り出した。


「フェリク?」


レイの声が後ろから聞こえた。


しかし、フェリクは振り返らなかった。


走り続けた。


人混みの中に飛び込んで路地に隠れた。


息が上がっていた。


心臓がばくばくと鳴っていた。


しかし、これでよかった。


これで安全だ。


そう、思おうとした。


路地の隅から、そっと様子を見た。


アシェが地面に押さえつけられていた。


レイがそれでも立ち向かっていた。


「彼女を放せ」


「うるさい子供だ」


供の者がレイに手を上げた。


その瞬間。


「おい」


別の声がした。


低い、唸るような声だった。


人垣の向こうから、一人の男が現れた。


初めて見る赤鬼の青年だった。


身体は大きく、燃えるような赤い髪を短く荒々しく整えていた。

頭には赤い角。やや日焼けした肌に戦士らしい筋肉質の体。


その赤鬼が貴族の男を見下ろしていた。


「面倒なことになる前にやめとけよ、貴族のおっさん」


貴族の男の顔が青くなった。


赤鬼。


サングラディアの戦士。


ここでトラブルを起こせば、国際問題になりかねない。


「……行くぞ」


男が供の者に合図した。


馬車に戻り、走り去っていった。


赤鬼がアシェを助け起こした。


「大丈夫か」


アシェが頷いた。


レイも、無事だった。


赤鬼はレイをじろりと見た。


「お前、無茶するな」


「世話になったな」


「考えて動けよ」


赤鬼がぶっきらぼうに言った。


「まったく、面倒な貴族のガキだ」


そう言いながら、去っていった。


レイとアシェだけが残された。


フェリクはまだ路地に隠れていた。


レイがアシェに散らばった木の実を拾うのを手伝った。


アシェは何も言わなかった。


ただ、無言で拾っていた。


「アシェ」


レイが声をかけた。


「すまない」


「何が」


「私は木の実を守れなかった」


アシェがレイを見た。


それから、ふっと笑った。


少しだけ。


「あんたはいつもの調子でバカであたしを守ってくれたわよ」


「そうか」


それから、少し間を置いて、アシェがぽつりと言った。


「あたしのせいよ」


「うむ?」


「気を緩めていた」


「あんたとフェリクと、楽しすぎて」


「貴族の馬車にもっと早く気づくべきだった」


「あたしがぼうっとしていただけ」


レイが首を傾げた。


「ぼうっとしていたのか」


「そうよ」


「だが、それは楽しかったということだろう」


「……うん」


「楽しんで悪いことはない」


「悪いことはあるのよ」


アシェが少し苦笑した。


「あたしたちには悪いことなのよ」


レイがしばらく黙った。


それから、静かに言った。


「楽しんで悪いことがあるのはおかしいな」


アシェがレイを見た。


「あんた、本当に変な子よね」


「そう言われるな」


「でも」


アシェが少し笑った。


「ありがとう」


「うむ」


「フェリクは……」


アシェが少し言葉を濁した。


「逃げたな」


「うむ」


「……まあ、いいわ」


アシェの声には責める色はなかった。


ただ、少しだけ、寂しそうだった。

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