エピローグ:巡る足音
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
物語の締めくくりとなるエピローグです。
季節は巡り、また金沢に春が訪れます。
土手のベンチ、響く鈴の音、そして交わされる言葉。
受け取ったバトンが次の誰かへと手渡される、静かで温かな光景を描きました。
この物語の「足音」が、読者の皆様の心にも優しく響きますように。
やがて、季節と年月は静かに過ぎ去った。
金沢の厳しい冬が溶け、犀川のほとりには、また淡い桃色の桜が咲き誇る季節が巡ってきた。
春の陽光が水面に跳ねる土手を、一人の学生が歩いてくる。
詰襟の制服を少し着崩し、視線を地面に落としたまま、元気なさげにとぼとぼと。
かつての僕がそうであったように、彼は自分の居場所を見失い、何かをあきらめたような顔をしていた。
その時、ベンチの傍らを通り過ぎようとした少年の耳に、低く、けれど透き通った声が届く。
「……けふもあなたは、何をさがしにとぼとぼと歩いてゐるのです。……」
そこには、いつからそこにいたのか、ハンチング帽を深く被った一人の老人が座っていた。
老人は、少年の横を通りすがりに、独り言のようにそう呟いた。
少年は驚いたように足を止め、顔を上げた。
そのリュックの片隅で、春風に揺られた小さな金色の鈴が、チリリ、と心細げな合図を鳴らした。
「……何、落としたんですか?」
気づけば、僕は声をかけていた。
少年は、僕の顔を不思議そうに見つめた。
僕は自分のリュックに付いた、あの日からずっと鳴り続けている鈴にそっと手を添える。
かつておじいさんが僕を見つけてくれたように。
安藤先生が言葉を、母が温もりを、左官屋さんが馴染むことを教えてくれたように。
今度は僕が、この少年の新しい設計図の、最初の一本を引き始める番だった。
(完)
これにて完結となります。
全十章とエピローグを通して、金沢の街と詩の世界を旅してくださり、本当にありがとうございました。
孤独は決して消えるものではありませんが、誰かの孤独と共鳴したとき、それは自分を生かす「設計図」の一部に変わる。そんな想いが、少しでも伝わっていれば幸いです。
もしこの物語が心に残りましたら、ブックマークや評価、感想などをいただけますと、作者としてこれ以上の喜びはありません。
またいつか、別の物語の「足音」でお会いしましょう。
ありがとうございました!




