舞踏会 二
さて、そうしてカウフマンのスパルタダンスレッスンを経てやって来た、舞踏会当日。
今日はいつもの聖女用の装いではなく、舞踏会用にとカウフマンが用意してくれたドレスを身に纏っている。
綺麗な青色のドレスは派手過ぎず、露出も少なく、ノエルの好みにちょうど良い感じである。
くるりと回ってみるとドレスの裾がふわりと揺れて、これはなかなか楽しい。
クラナカンは「誰かと思ったぜ!」と褒め言葉なのか何なのか分からない事を言い、クロテッドは「ノエルさん、着いたら私と踊ろ!」と約束してくれた。
「カウフマン様、ありがとうございます。出世払いしますので、請求書をくださいね」
「それは構いませんが、ノエルさんはどう出世するおつもりなのか」
「聖女の仕事を完了した時、自伝でも出す予定です。つまり作家です、よろしくお願いします」
「検閲の厳しさで内容が薄くなりそうですねぇ」
なんてやり取りをしながらノエルとカウフマン、クロテッドとクラナカンは馬車に乗り込み、王城へと向かった。
今日は自動車ではない。聖女が出席するという事で、パフォーマンスとして馬車にするように、と言われたのだそうだ。
ノエルは車酔いをする方だと初めて乗った時に分かったので、そう言う意味でも馬車移動はありがたかった。
さて、そうして王城に到着したわけだが。
クラナカンとクロテッドは初めて見る王城の様子にポカンとした表情になっていた。
「すげー、観光名所に来た気分だわー」
「ここまで来る事あんまりないから、遠目でも見れないものねぇ」
すっかりお上りさんである。カウフマンから「二人共、気持ちは分かるが、気は抜かないように」と軽く注意が入った。
二人は「はーい!」と元気に返すと、キリッとした顔になり、ノエル達の後ろについた。
「ノエルさん、足は大丈夫ですか? ダンスの練習で疲れていたりは?」
「大丈夫です。カウフマン様が呼んでくださったマッサージ師の方がお上手で、むしろ元気な時より元気です。ありがとうございます」
「それは良かった。あいつも喜ぶでしょう」
ノエルがお礼を言うと、カウフマンはにこりと微笑む。
ダンスのレッスンは厳しかったが、カウフマンはアフターケアも万全だった。
彼の計画の仲間に腕の良いマッサージ師がいて、レッスンを終える度にノエル達は施術をして貰っていたのである。
至れり尽くせりだ。何とも申し訳ない気持ちにもなるので、今度何かでお礼をしたいとノエルは企んでいる。
自分に出来る事は誓言だが、他に何かこう、カウフマンの澄ました顔をアッと驚かせるような事を……。
とそこまで考えて、いや何か目的が変わってきているとノエルは我に返る。
そうしている内に会場に到着した。シャンデリアが輝く、煌びやかなホールだ。
ノエルも何度かは足を踏み入れた事がある。
「誓言の聖女様……!」
「カウフマン様も素敵ね……!」
四人が中へ入ると、そんな声があちこちから聞こえてきた。
お口の悪さと中身は置いておいても、聖女と騎士団長である。何だかんだで注目されやすい。
聖女らしく、聖女らしく、と頭の中で繰り返しながらノエルは笑顔を顔に張り付ける。さんざんカウフマンから「聖女らしく」と言われているので、慣れたものである。
「人気がすげぇ」
「注目もすごいわね」
こそこそと、後ろでクラナカンとクロテッド達が顔を前へ固定したまま話している。
まぁこの注目は一過性のものだ。ノエルもカウフマンもそれを理解しているので、視線についてはあまり気にならない。
ただ声は別だ。情報収集にもなるので、人の話し声にはなるべく耳を傾けるようにしている。
「お二人が並ぶと絵になりますわねぇ」
「そうですわね! やっぱりエミリア様が仰っていたあのウワサ、本当なのかしら?」
「ロマンですわ、とってもロマンですわ……! 私、そういうお話が大好物なんですのよ」
「三度のお食事より美味しい……!」
何か変な発言が混ざっている気がするが、ノエルとカウフマンが恋仲である、というウワサはかねがね好意的に受け取られているようだ。
それなら良かったな、と思っていると、カウフマンが少し身をかがめてノエルの耳に口を寄せた。
「カウフマン様?」
「左奥、妙な目を向けている者がいます。黒髪です。気を付けて」
微笑みを崩さず、カウフマンはそう言う。視線だけそちらへ向け、黒髪の人間を探すと直ぐに見つけた。一人、該当する人物がいる。艶やかな黒髪をした青年だ。女性と言われれば信じてしまうくらい中性的な容姿をしている。彼は何やら楽し気にノエル達の方を見ていた。
「分かりました。なるべく距離を置きますね」
「ええ、そうしてくださ……」
ノエルの返答にカウフマンがそう言いかけた時。複数の女性の黄色い悲鳴が上がった。
えっと思ってそちらを向くと、
「見まして!? 見まして、今の!」
「ええ! ええ! 見ましたわ! 最ッッッッ高!」
「素敵ですわ、ロマンですわ! 何をおしゃべりなさったのかしら! 見て、聖女様のお顔を! あんなに赤く染まって……!」
なんて彼女達は口を手で覆って、目をキラキラさせながらそんな事を言っていた。
赤く染まっているのはたぶん、光の当たり具合のせいではなかろうか。
そんな事を考えているノエルの隣では、カウフマンが小さく笑っている。
「聖女様が人気で何よりです。もう三人も倒しましたよ、素晴らしいですね」
「人気と言うか何と言うか。単純にトドメをさしたのはカウフマン様では?」
「おや、ではもっと頑張らないと」
「とんでもないジェノサイド発言なのですが、それは」
周りに聞こえないようにそう話していると、クロテッドが「理想と現実って残酷ね」なんて呟いていた。
そんなやり取りをしているとそこへ「ノエル!」と名前を呼ばれた。
顔を向けると嬉しそうに微笑むアルヴィンが、エミリアと一緒にこちらへやって来るところだった。
(――――来た)
なんて感想を敵意がたぶんない王族相手にするのもどうかと思うが、心境的にはそれである。
ノエル達はサッと顔に笑顔を貼り付け、挨拶をした。




