予期せぬ来客 中
アルヴィン王子というのはこの国の第二王子だ。
整った顔立ちに、色素の薄い金髪に青い瞳をした少年で、歳はノエルと同じ十八歳。
身体があまり強い方ではないため室内で過ごす方が多く、肌も健康的ではない意味合いで白い。
物腰は穏やかで落ち着いた性格――というのがノエルが知っているアルヴィンの情報だ。
誓言の仕事の関係でノエルも何度か会った事があるし、その度に彼に誓言を使った事もある。
(ただ、完全には健康な体に治す事は出来なかったんだよな……)
以前に頼まれた誓言の事を思い出しながら、ノエルは独り言ちた。
頼まれた以上はやってみたものの、生まれ持ったものはノエルの誓言ではどうにもならなかった。
誓言は祈れば何でも叶うものではない。後天的なものならば何とかなるが、先天的なものは難しかった。
ただ、健康な体にする事は出来なかったが、具合の悪さや病などは何とか出来るので、その方面でノエルはアルヴィンに誓言を使っていたのである。
そういうわけで多少の交流はある。
ただノエルとしては親しいと思った事はない。相手は王族だし、基本的には仕事上の関係だ。
今回もその関係かな、なんてノエルが思っていると、
「どうやらアルヴィン王子は、聖女様のお見舞いに来たらしいのです」
と知らせてくれた騎士は言った。
その内容にカウフマンは難しい顔になった。この様子を見る限り、アルヴィンは彼の計画の範囲に入っていないようである。
まぁ相手は王族だ。聖女関係で色々するのに、王族が関わるの厄介だというのはノエルにも分かる。
「そう言えば疲れて寝込んだ事にしていましたね」
「ええ、もう少し別の理由にするべきでした」
「例えば?」
「ミートパイの食べ過ぎとかですかねぇ」
「本当にあり得る奴じゃないですか」
もちろんノエルだって食べ過ぎで寝込んだ事はない。せいぜい食べ過ぎて動けなくなったくらいだ。
あまりに美味しいミートパイだったので、ついついもう一つ、あと一つと手を伸ばしている内に、気が付いたらそんな事になっていた。
あの時のカウフマンの心底呆れた顔は、今もよく覚えている。
まぁ、それはともかく。
「どうしましょうかね、カウフマン様」
「会わないというわけにはいきませんね。聖女様は余計な事は言わぬよう、慎重にお口を開いてください」
「大丈夫です、私の口は意外と、人とのおしゃべりが上手です」
「見栄」
「一言で切り捨てられた……」
まぁ見栄である。
ノエルは人と話す事は好きだが、上手いかどうかと言われると微妙だ。
他人の手の平で――例えばカウフマンのような――コロコロ転がされる事はわりとある。
あまりにも残念な事になる場合は、大体の時間一緒にいるカウフマンがそれとなく軌道修正してくれるので、何とかなっているのだが。
それはともかくアルヴィンだ。
いつも当たり障りのない会話しかしないので、大丈夫だろうとノエルは思うが、それにしても。
「どうしました、聖女様。形容しがたい顔をして」
「何を仰るカウフマン様、これは私のめいっぱいの真面目な顔です」
「これが真面目……普段の真面目に見える顔は一体……?」
軽く衝撃だったらしいカウフマンは目を丸くしている。
そこまで酷い顔ではないと思うのだが、何だかヤブヘビのような気がしてきて、言うんじゃなかったとノエルは若干後悔した。
「私の顔の事は良いのです。ええとですね、実は心配してお見舞いに来てくださるくらいには、友好的に思われていた事が意外だなと思って」
「ああ……なるほど」
ノエルの疑問を理解したらしく、カウフマンは数回頷いた。
「友好的と言いますか、あれは少々違う方向性ですね」
「違う方向性ですか? ま、まさか……やはり嫌悪!?」
「聖女様はご自分の事になると本当に卑屈になりますね」
呆れた目を向けられて、ノエルは「うっ」と軽く仰け反る。
しかし友好的とは違う方向性と言われても、ノエルの頭に浮かぶのはそのくらいしかない。
ノエルが目をぐるぐるしていると、カウフマンは軽く息を吐いて、
「仮に嫌悪感を抱いていたとして。そんな相手のお見舞いに来るとお思いですか?」
「何分にも、私はお見舞いするような相手がいないので」
「ふむ……では聖女様は嫌いな相手のお見舞いに行きたいですか? 例えば私とか」
「カウフマン様はそこまで嫌いではないなと気付きましたので、たぶん行きますね」
例題として挙げられたので素直にそう答えると、カウフマンは目を丸くした。
そんなに驚いた顔をされるような事を言っただろうかと、ノエルは首を傾げる。
そんなノエルにカウフマンは、
「そ、そう……ですか」
と珍しく慌てた様子でそう答えた。それから彼はコホンと咳払いした。
何となく少し機嫌が良さそうにも見えるカウフマンは、
「まぁ、アルヴィン王子に限っては、嫌悪感はないと思いますよ」
と言った。
ノエルより人間関係の荒波に飲まれているカウフマンが言うならばそうなのだろう。
とりあえず嫌われていないなら良いか、とノエルは少し安堵する。
「でしたら、ひとまず当たり障りなく対応して事なきを得ましょうかねぇ」
「それが一番ですが……何というか、聖女様は本当に聖女様ですね」
ノエルの言葉にカウフマンはそう言って小さく笑う。
どこに聖女要素があっただろうか。そんな疑問をノエルは抱きながら、アルヴィンが待つ部屋へ向かった。




