予期せぬ来客 上
誓言の館に到着したのは空が橙色に染まり始めた頃だった。
ちなみに不在の間は、ノエルは寝込んでいたという事になっているらしい。
ここ最近、誓言の数も多かったので無理をしたのだろう、という理由付きだ。数に関しては嘘ではないので、話が合わせやすいのは有難かった。
さて、そんな話をしながら誓言の館へ入ると、意外な事が起きた。
騎士や館で働く使用人達がノエルの元へやって来て「大丈夫でした!?」「お怪我していませんか!?」等々、とても心配してくれたのだ。
もちろん普段でもノエルに何かあった時には心配してくれるが、それでも一定の距離がある。
なのに一体何があったのかとノエルが目を白黒させていると、
「計画を実行するのに、協力者は必要でしょう?」
なんてカウフマンがくつくつ笑ってそう言った。
どうやら誓言の館で働く者達は全員、彼の考えに賛同しているらしい。
おやまぁなんて思っていると、騎士や使用人達からは、
「本当はもっとこう聖女様とおしゃべりとかしたかったんですけど……」
「どんな顔をして気楽に話をして良いのかと……」
と申し訳なさそうに言われた。彼女達も聖女の人生について知っているそうだ。
聖女が窮屈な人生を強いられる事を知っていて、平気な顔で話をするなんて出来ないと彼女達も罪悪感に苛まれていたらしい。
それにあまり親しくなりすぎると「情が移っておかしな行動を取るかもしれない」と、国から配置換えをされる恐れもあって、敢えて距離を取っていたというのが理由の半分なのだそうだ。
ノエルは知らされていなかったが、実際に過去に聖女の境遇を憐れんで連れ出そうとした者達がいたのだとカウフマンは教えてくれた。
(いやまぁ、だとしても、お話してくれた方が嬉しかったんだけどなぁ)
話を聞いて、言葉にはしなかったもののノエルはそう思った。
ただ嫌われているわけでも、苦手意識を持たれているわけでもない事を知れたのは嬉しい収穫である。
今後は普通におしゃべり出来そうだなとノエルはウキウキした。
さて、それはそれとして。どうして彼女達が親し気に話しかけてくれる気になったかと言うと、そこはやはりカウフマンの言葉が大きかった。
彼が考えていた計画を実行に移すと話したとたんに、ならばもう我慢しなくて良いのだと、彼女達は偽っていた態度を投げ捨てたのである。
そんなわけでノエルの人間関係は劇的に変化した。
ノエルも未だに戸惑う部分はあるものの、彼女達と仲良く話が出来るのは純粋に楽しかった。
ただこれも自由時間――主に聖女の仕事が終わった時間のみだ。外にバレないためにもノエル達は慎重に仲良くしている。
「……って言葉にすると不思議ですよねぇ」
「まぁ、人間関係というものは、基本的に慎重に積み重ねてくものですからねぇ。私もそうですよ」
「カウフマン様が……? 慎重……?」
「聖女様は本当に私を何だと思っているのか」
聖女の仕事が終わった後、ノエルはカウフマンは夕食を取っていた。
たまにこうして夕食を一緒にする事はあったが、今日は少し意味合いが違う。
計画について相談するためだ。
カウフマンの話では意外と協力者は多いらしい。
歴代の聖女と騎士団長の関係を知っている者達や当事者、その家族達。彼らからの協力はすでに得られているとカウフマンは言った。
身近であればあるほど、真実を知ってやるせなさや憤りを感じていたようで、カウフマンが話を持ち掛ければ「自分達も変えたい」と賛同してくれたらしい。
他にもカウフマンの部下達や一部の貴族、ノエルが誓言を使った者達の中にも、協力してくれる者達がいるそうだ。
思ったよりも人数が多くてノエルが驚いていると、
「誓言の聖女がどうしようもない人間ばかりだったら、こうは行きませんよ。皆、あなたみたいにお人好しだったんです」
とカウフマンは微笑んだ。
これはたぶん褒められているのだなとノエルは思って「い、いやぁ、えへ、えへへ……」と照れた。
「聖女様、照れるとそんな感じなんですねぇ。初めて見ました」
「そうでしたっけ?」
「ええ。締まりのない顔で良いと思います」
「褒められていない気がしますね!」
相変わらず口が悪いとノエルが軽く睨むと、カウフマンは「冗談ですよ」と言った。
「感情が素直に表情に出るのが、聖女様の良いところです」
「褒めてます?」
「もちろん褒めていますよ。この世界にいると嫌と言うほど、そうじゃない方々の相手をしますからね」
そう言ってカウフマンは肩をすくめる。それを見て「ああそれは分かるなぁ」とノエルは呟いた。
騎士団長であるカウフマンは、国のお偉いさんや貴族の護衛や相手をする事が多い。そういう相手は基本的には顔で笑って、心の中では何を考えているか分からない。
ノエルもそういう立場の人間と誓言の関係で会う事はあるが、幸いな事にごくごく短い時間だけだ。そういう相手と長時間やり取りしなければならないカウフマンは、たぶんとても大変なのだろう。
そんな事を考えていると部屋のドアがノックされた。
カウフマンが許可を出すと、騎士の一人が中へ入って来る。何だか顔色が悪い。
「カウフマン騎士団長、緊急事態です」
「どうした?」
カウフマンが聞き返すと、騎士は困った顔で、
「アルヴィン王子がいらっしゃいました。その……聖女様のお見舞いにと……」
と言った。




