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6.幕開けの一手

あれじゃない、あれにしたら。えーっと……なんだっけ?

byメロカル

 クエストが始まってからゲーム内時間で半年が経過。ただでさえ自分たちのステータスを維持するだけでも日々労力を使っている状態で、サニーを治すためのアイテムの情報はなかなか入手出来ない状態だった。

 煮え切らない思いを七人は抱えていたが、手がかりを掴むことができなかった。

「おはようサニー」

 返事はあるわけがない。 グルーパーの焦燥感は日を増すばかりだった。寝室から外に出ると、冷たい風がグルーパーの頬を切りつける。

 ため息をついて住居スペースの側面に新設したボイラーに薪をくべる。このボイラーはシガレットとハードロック自慢の逸品だ。

「これで一日は持つかな……」

 白い息を吐きながら、顔を上げる。高い空は青色で透き通っており、喧噪はどこか遠く、他人事の様にさえ思えた。

 工房に向うと、最近出来上がった蒸気機関がけたたましい音を響かせながらあくせくピストン運動を続けている。鈍色の鉄は鏡のように磨き上げられ、油膜がそれらを覆っている。

 扉を開き、中に入ると紫煙が鼻腔をくすぐった。グルーパーも中に入るやいなや、細巻きの葉巻を取り出し、マッチに火を付ける。

「調子はどうだ?」

 グルーパーは作業中のシガレットに言葉を投げる。

「蒸気機関もなかなか悪くない」

 回転砥石から火花を散らせながらシガレットは言う。

「何を磨いている?」

「バレットがライフルのジャンクを持ってきてな、薬莢の排出時に動作不良するもんだからちょっと整備している」

「パーツの修理か」

「いや新規作成、中々骨が折れる」

「撃てそうなのか」

「今、仕上げだからすぐさ、ああでも試運転はバレットだな」

「やっとあいつも名実ともにスナイパーか」

「そうだな」

 喫煙所の様に充満した煙が部屋を漂う。

 シリンダーから蒸気が排出される音と、回転砥石に当たる金属音がグルーパーの耳の中に響く。ローグライクな気分も束の間に扉を叩く音が聞こえる。

「おつかれ」

 バレットがハット帽に積もった雪を払うと中に入る。

「おう、待っていた」

 そう言うと早速仕上がったパーツをライフルに組み込みボルトアクション式ライフルを組み上げる。

 マガジンに弾丸を装填するとライフルにセットする。安全装置が掛かった状態でバレットにライフルを渡す。

「おお! やっとスナイパーだ」

「おめでとう、俺はストライカーだから拳があれば充分よ」

 グルーパーは上腕二頭筋を誇示しながら笑う。

「俺なんかアウトローとメカトロニクスだぞ、バイクの直結でもやれって言ってんのかよ」

「お前さんほど火炎瓶が似合う男もいないぜ」

「そんなに言うなら、カクテルでも飲ませようか?」

「モトロフ?」

「その通り」

「ウイスキーにしてくれ」

「良く燃えた奴だな?」

「冗談きついぜ、俺はフランベされるステーキじゃねえよ」

 グルーパーはそう笑いながら葉巻を吸い終わり灰皿に吸い殻を落とす。

「さて、話を遮るが、色々情報が手に入った。食堂に来てくれないか?」

「オーケー!」

「わかった」

 二人は立ち上がり食堂に向う。

「ああ、そうだ、グルーパー」

 シガレットは黒い手袋を放り投げる。グルーパー見事にそれを取り損ねると、残念そうな顔をしながら手袋を拾い上げる。

「………………」

「ちゃんと取るところだろ……。それは防刃防弾機能の手袋、扶桑皇国産だ。格闘職ならあっても損はないだろ?」

「ありがとう!」

 グルーパーはほこりを払いながら新品の手袋を身につけるとバレットに続く。

 


「はい、全員集まるまでに五分かかりました」

 グルーパーが冗談交じりに言う。

「小学校の校長かよ」

 モラセスが笑いながら突っ込む。

「さて、情報を仕入れたので展開します」

 バレットはメモ書きを読み上げ始める。

「まず、クエスト『サニーが歌える世界になるまで』についてですが、達成条件、失敗条件が今まで明示されていない状態でした。それが今回の調査で判明しました」

「なんでわかったんだろ」

「商人の間で噂話になっていて、それを聞いたことで解除されたようだ」

「なるほど、続けて」

「今回の条件は、七つのアイテムの取得し儀式を行うことでサニーは元に戻りますこれが成功条件です。ただしそのアイテムが何かまでは残念ながらひとつしかわかっていません」

「逆に言えばひとつはわかっている。僥倖じゃねえか!」

「そのアイテムは『月白のマグメル』と呼ばれているそうです」

「どんなアイテムなんだ?」

「それが商人に聞いても訪ねてもわからない、何だったかなと言い換えされてお終いなので詳細は不明です。他のプレイヤーも、最近突然アップデートされて出てきたアイテムのため詳しくないそうです」

「そうか、それはどこにあるかわかるのかい?」

「フライト王国、NPCのみで構成された国ですね。ここからでもそう遠くではないです。空路ですけど」

「じゃあ、行きますか、フライト王国に」

「メロカルさん落ち着いて、失敗条件について話してません」

 シガレットがメロカルを座らせるとバレットに話をさせる。

「失敗条件についてですが、主に一つ、特定のキャラクターが死亡することですね」

「サニーのことか」

「失敗条件にサニーが記載されています。」

「だと良いんだがな」

 シガレットは訝しんだ。

「どういうことだ?」

「このクエスト、我々の方のウィンドウでも情報が展開されて同じように情報が開示されています。情報入手が開示の前提条件なら、サニーの情報が既にある状態で失敗の条件が完全にアンロックされていないのは不自然だなと。なにもサニーだけなら失敗条件にサニーの死亡とだけ記載するでしょう?」

「クエストクリアにあたり、死なれてはいけないキャラが他にもいるということか?」

「さぁ、そこまでは、ただまぁ、いかようにも解釈できる文脈だなと思っただので」

「一応、要注意ってことで」

 七人は条件を再確認して頷く。

「さて、早速フライト王国に調査と洒落込みますか」

はやくお前らはVRMMOらしく戦いに行きなさい

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