間章
この白き峰々の遥か東方、大陸の中原に一つの王国が存在した――。神代の昔より数千年の長きにわたり、繁栄を謳歌した奇跡の王国はある日突如として現れた異世界よりの侵略者の手によって、あっけなく滅び去った。侵略者たちは、唯一残された北の地にその矛先を向け、五年の長き渡る戦いで多くの人が命を落とした。
誰もが大陸の終焉を予感していたその頃、大陸の西方にある荒野で王家の末の姫君に最後の時が近づいていた。従者を皆殺しにされ、ただ一人追手の魔の手に落ちようとした彼女を救ったのは一人の若者。
彼らは幾多の困難を乗り越えて、若者の故郷がある大陸の北方、白の山嶺にたどり着いた。そこで姫君は身に新たな命を宿していることを知り、この地に残ることを決めた。
僅かな安らぎの一時を終えた若者は、北の地の人々ともに王都奪還の戦いを開始する。それは長き復讐の旅路でもあった。宿敵ともいえる敵の首魁を倒し、王都を取り戻した若者は王となり、神に仕える姫巫女でもあった妻と生まれたばかりの我が子を王都に呼び寄せ、大陸の新たな覇者となった。
人々は新たな王を崇め、神代の終わりと人の時代の始まりを言祝いだという。
しかし、若き王はすぐに人々の前から消え失せた。異世界よりすべての災厄をもたらした禍々しき存在が攻め寄せたからだ。王は彼の者と激しい戦いを繰り広げたのちに姿を消した。あとに残されたのは荒れ果てた大地と、飢えに苦しむ民だけだった。
それから6年近くが過ぎ、大陸は動乱の時を迎えている。
旅立ちのあの日、姫巫女様とあのたくましくもどこか危うい大きな背中を見送った小娘はもう17になった。あれからもう6年……。
……――様、私は少しでもあなたに近づけましたか? こっちのことは心配要りません、みんな元気にやっています。ただ、みんなあなたのことを待っています。この声が聞こえたら、いつか必ずお戻りください。
それまでは、私が、リュウレイがみんなを守ります――……。




