表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リュウレイの誓い  作者: ミニトマト
幕間
16/329

幕間(6)

 それは今から一年ほど前のことだった、まだ空が明ける夜明け前。リュウレイは寝起きしているリュウ家の離れで目を覚ました。隣ではリュウフォンが生まれたままの姿ですやすやとかわいい寝顔を見せていた。

 暗い部屋の天井を見上げていたリュウレイは一言、ポツリとつぶやいた。


「『かじ』がしたい」


「ん……、なあに……?」


 リュウレイの呟きに目が覚めたのか、リュウフォンがもぞもぞと動き出す。彼女に向けてか、自分自身に対してかはわからないがリュウレイはもう一度はっきりと言った。


「だから、『かじ』がしたい」


「鍛冶なら、いつもお仕事でしてるじゃない。寝ぼけているの……?」


「そっちの鍛冶じゃなくて、掃除洗濯炊事の家事だ。私は今無性に家事がしたい」


「ならすればいいじゃない、もうお騒がせなリュウレイにはおしおき……」


「おいおい、くすぐったいよ! フォン!ハハハ!!」


 寝ぼけ眼のまま、リュウフォンは上掛けの中に頭を突っ込んでリュウレイの方に抱き着いてくすぐってきた。それに笑いを噛み殺しながら答えていたリュウレイははっきりと覚醒した意識で決めた。

 今日は早駆けして、料理や洗濯を自分がしようと。義姉は怒るだろうが、こればかりは譲れない。かつて姉のリュウシュンとこのリュウ家の家事を二分した自分の実力を今こそ示す時。


 ……単純に、ここ半年ほどの間工房でまともな仕事を任されるようになってからというもの、親方や先輩たちからきついお叱りや手厳しい指導を受けることが多くなって心が煮詰まっていた。正直、どこかで発散しないと気が狂いそうだった。


 いや、リュウフォンで可能な限り発散はしてる、けどな……。


 そうと決まれば、リュウレイの行動は早かった。こっそり、裏口から何も身に着けずにいつも通り奇麗な水路の水を数回被って、気合を入れると部屋に戻って衣服を身につけて通いなれた森の道を走りだしていた。


「さあて、今日も全力で行くぜ!」


 静かな森の中に鋭いリュウレイの叫びが木霊した。



 … … …



 朝、リュウ家の食卓にはいつもより豪勢で品数豊富な料理が所狭しと並んでいた。我ながらやりすぎからなとも思ったが、これくらいやらないと気が済まなかった。

 給仕をしていたリュウレイの向こう側で、自分の仕事を取られて呆然とする義姉とそんな母を気遣うリュウオウたちがいたたまれない様子でリュウレイの方を見ていた。


「かわいそうに……」


 先ほどまで料理を運ぶ手伝いをしていたリュウフォンは義姉や子供たちの味方に回っている。手際のいいリュウレイの調理を後ろで見ていたくせに、ひどい裏切りだと思う。おまけに味付けの際、味見と称して結構な量をつまみ食いしていたのはリュウフォンだ。


「さ、急がないと私も仕事に遅れるから、さっさと食べてよ!義姉さん!!」


 義姉は無言で料理を口に運ぶ、もとより食べることが生きがいな人なので躊躇いなく口に運んでいくが、悔しさのあまり途中で涙がこぼれていた。


「レイ、母上をいじめないで」


「いじめちゃ、ダメ――……」


 リュウオウたちのけなげな抗議は何でだろうか。ちなみに味は保証付き、料理を教えてくれた人は義姉の料理番だった人だ。義母とは別の意味でお世話になった人。ちなみにリュウシュンの旦那の父親で商いをしながらリュウ家の家宰のようなことも迄する苦労人だ。いろんな意味で頼りになる人なのだ。


「うう、おいしいのじゃ。けど、これは絶対にいじめなのじゃ……下剋上なのじゃ……」


 なんだかんだ言いながら、子供たちと一緒にすごい勢いで料理を平らげていく義姉の姿に微笑みながら、リュウレイの心はどこか晴れ晴れとしていた。


「いや――、朝から真面目に仕事すると気持ちがいいな!フォン!」


「……なんだか、リュウレイが怖い」


 その日一日、家族から距離を置かれたリュウレイだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ