幕間(4)
……父上、どこにいるの?僕はここにいるよ……早く迎えに来て……。
… … …
遠駆けから戻ってきたリュウレイが静かに工房の客間の戸を開き中の様子をうかがうと、リュウフォンたちはまだ寝台の上でなかよく眠っていた。足音を立てないように部屋に入るリュウレイの目の前でリュウフォンの横で眠っていたリュウオウの瞼から一滴の涙がこぼれ落ちた。
それに気が付いたリュウレイは、その近くに腰を下ろして小さなリュウオウの手を握りしめた。するとリュウオウはその手を固く握り返してくる。いつものことだ、小さい頃からリュウオウは誰かの手を握りながら眠る癖があった。いつもは義姉や妹のリュウサンの手を握る。
そして今のようにリュウレイやフォンがいるときは、こうしてその手を握りしめてやるのだった。子供心に寂しさをにじませたリュウオウの寝顔を見る度に、リュウレイの心は締め付けられる。そして、あの日見送った大きな背中を思い起こし、決意を新たにする。
あの日からリュウレイは強くなろうと心に決めた。はっきり意識したといってもいい。
それは姉のリュウシュンも同じ気持ちだろう。血を分けた実の姉妹だ、考えていることは嫌でも伝わってきた。
リュウオウが待ち続けるその人が誰なのか、考えなくてもわかる。それは人前で気丈に振舞う義姉も同じことだろう。義母や大先生、村長や親方たち村の人々。誰もがその帰りを待ち続け、そして諦めてしまったはずだ。
自分はどうなのだろう。まだ、待っているのだろうか。その答えはいつもはっきりしなかった。
「レイ? 帰ってきたの……??」
寝ぼけ眼のリュウオウがこちらを見て声を上げた。
「ああ、みんなぐっすり寝てたから遠駆けにひとっ走りしてきたよ。もう夕焼けの時間だし、そろそろうちに帰ろうか。義姉さんも寂しがるといけないしな」
「うん、そうだね……。ねえ、レイ」
「ん? どうした」
リュウオウはうれしそうな顔をこちらに向けている。
「僕ね、父上と母上の夢を見たの。父上の顔、はっきりしないけどメイおばさんに似てたんだよ」
「そうか、よかったな」
微笑むリュウレイにリュウオウは躊躇いがちに尋ねた。
「……いつか、父上は僕たちを迎えに来てくれるかな?」
「それは私にもわからないな。でもあの人ならきっとそうすると思う。それまでみんなで待っていような」
「うん、わかった!」
リュウオウの元気な声にリュウフォンやリュウサンたちも目を覚ました。まだ眠気の抜けきらないリュウフォンがリュウレイの方を見て笑顔を浮かべる。
「あれ、リュウレイ。帰ってきたんだ。遅かったね」
「待たせて悪かったな。早いところ家に帰ろうってリュウオウと話してたんだ。義姉さんも待っているだろうしな」
「うん、そうだね」
また眠り始めたリュウサンを抱き上げて、リュウフォンが頷いた。リュウオウは自分で歩こうとしたがそれをリュウレイが抱き上げた。
「恥ずかしいよ、レイ」
「アハハ、子供が遠慮するなって。私から見れば、リュウオウはまだまだチビだしな」
とはいえ、赤ん坊のころに比べて大きくなったリュウオウは大分重くなった。月日の流れの速さを噛みしめつつ、リュウレイたちは工房を後にした。
その先では、炊事の煙がリュウ家の母屋から上がりリュウレイたちの帰りを待ちわびているようでもあった。その夜、夕食を食べたリュウレイたちは母屋に泊まり、子供たちと楽しいひと時を過ごした。




