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リュウレイの誓い  作者: ミニトマト
幕間
13/329

幕間(3)

「……全くフェリナの奴め、あれほどリュウレイを甘やかすでないと言っておるに! 結局わらわが後で苦労する羽目になったではないか!!」


「まあまあ、義姉さんももうそのくらいで」


 森に近いリュウ家の母屋に通じる村の畦道を二人の女が歩いている。一人は黒髪黒眼のリュウレイの姉、リュウシュン。子供は手の空いた旦那に任せている。義姉の相手をしたらすぐに戻るつもりでいるがそう簡単に収まりそうもない。いつものことなのだが。


 そして、リュウシュンの前を不機嫌そうに進む銀髪の女性。鍛冶師の村に伝わる装束の中でも一際色鮮やかで豪勢な布地を使ったそれを身に着けるのはリュウレイとリュウシュンが義姉と呼ぶ人物だ。その見た目は二十歳前後だろうが、リュウシュンより少し高い背丈の彼女はリュウオウとリュウサンの母親であり、リュウ家の現在の当主であり、村の長も兼ねている。


 装束の上からもそれとわかるほどの豊満で肉付きのいい女性らしい魅力的な肢体を持ち、何よりリュウオウと同じ深緑色の瞳を持つその美貌は見るものを惹きつけてやまない。

 この世で最も高貴な血筋に生まれ、数奇な運命を辿りこの鍛冶師の村に落ち着いたリュウ家の主の怒りはまだ当分収まりそうにはなかった。


 それはふもとの町の領主であり、血縁上の姪に当たるフェリナいう女性に向けられていた。年が近い叔母と姪は顔を合わせる度にくだらないことで意地の張り合いとケンカを繰り返していた。

 それも毎回飽きるほど何度もやり合うために今ではほとんどの者たちが仲裁をあきらめ、直接両者を合わせないようにすることで、事なきを得ていた。もっともそうなると今度は余計にお互いのことが気になるらしく、その近況を尋ねるようになるので痛しかゆしの様相を呈している。


「悪いのはいつも調子に乗るリュウレイです。あの子がもう少し、遠慮というものを覚えてくれれば、フェリナ様もお考えを改めてくれるでしょう。それに今回は少しきつめにお灸を据えておきましたから、今よりはましになると思いますよ」


「わらわが言いたいのはそういうことではないぞ、シュンよ! リュウレイは少し手に余るくらいがちょうどいいのじゃ! そうでなくてはわらわも子供たちも張り合いがない! ……もうよい、フェリナめ!今度はわらわが直接懲らしめてやるのじゃ!!」


「……義姉さんにも少し大人になっていただきたいのですが」


 懲らしめる内容に思い至り、そっと頬を赤らめるリュウシュン。大方、直接文句を言いあった後は村の共同浴場で毎回恒例の酒の飲み比べになるに違いない。その準備のほとんどをリュウシュンがすることを考えれば、少しは自重してほしくもなる。もっともそれがなければ義姉らしくない。それに妹のリュウレイが絡むと話がややこしくなるので、またリュウフォンに妹の相手を頼んでおくしかなさそうだ。



 ――出来れば私も参加してみたいけど、今はまだ無理ね……。



 小さなあどけない娘の顔を思い浮かべ、リュウシュンは首を横に振る。


 考えてみれば、義姉と領主、妹のリュウレイと義妹のリュウフォン。それぞれに気を許せる相手がいるのに、自分にはそれがいない。それもあって早めに嫁いだわけでもないが、誰からも選ばれなかった不満は今でも心の奥底に渦巻いていた。以前、少しリュウフォンと自分が親しくしていただけで、リュウレイがあからさまに不満を顔に出す時期があった。そんなリュウレイをリュウフォンは陰でうれしそうに見ていたのを知っている。


 結局、この世で二人だけの姉妹はリュウフォンという存在を間に挟み、いつの間にか大きな溝ができてしまっていた。もっとも、それ以前にリュウレイは姉である自分に対して大きな不満を抱いていたのだろう。いつも自分の力で何とかしようと試みる直情径行なレイに対して、シュンは目上の者や周囲の人の知恵や力を借りて学ぶことを怠らなかった。


 少しでも義姉のため、妹のためと努力した結果だが、その結末は皮肉なものでしかなかった。しかし、リュウシュンは初めから妹と自分は違う人間だと理解していた。むしろ、自分より活発で体力もあり、愛嬌もあった妹のことをうらやましく思っていたのだ。

 体力で叶わない分、知恵を絞り工夫を凝らすことで、努力に努力を重ねた今の自分がある。そうして今の旦那と出会い、互いに惹かれ合って夫婦となり子供まで得た。今のリュウシュンは人生の中で一番充実しているといっていい。


 それに引き換え、鍛冶師見習いの妹リュウレイは姉の眼から見てもまだまだ子供だった。仮にもリュウ家の名を名乗る以上もう少ししっかりしてもらわなければ、皆の手前示しがつかない。

 まだまだリュウシュンの気が休まるときは来そうにない。まだ怒りが収まらない義姉の後を追いかけながら、リュウシュンは微笑んでいた。


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