幕間(1)
久々に一人で夕暮れの空を眺めていた。隣にいてほしいリュウフォンもこんな時に限ってその姿はない。多分、まだ工房の客間でチビたちとゆっくりしているのに違いない。
大きな雲が北の山嶺の上を流れていく。いつも朝は東側の頂を目指し駆け上っていくが今日のように暇があるときは、こうして別の頂を上り違う景色を楽しむことにしている。
ある時、遠駆けを体力づくりの基本に課した理由を義母に尋ねたことがあった。義母にこれを仕込んだのは、今は亡き祖父リュウエンだったという。リュウ家の一族は村でも指折りの鍛冶師として昔から知られていた。中でも、この山々から産出される良質の鉄を見つけ出す才能に長けていた代々の当主は、常にこの険しい山々を渡り歩き、周辺の村々の衆を率いて鍛冶に使う鉄を含んだ石を扱ってきたのだという。
「あたしのじいちゃんのころには取れる鉄の量はもう大分少なくなっていたらしいんだけどね。それでもだましだまし、何とか鍛冶の技を受け継いできたのさ」
珍しくしんみりとした様子で、酒を飲む義母リュウメイの横顔が寂しげに見えた。いつも、言いたいことは山のようにあるのに、うまく言葉にはならなかった。気恥ずかしかったわけではない。血はつながっていなくても、リュウレイはリュウメイを実の母のように尊敬して、慕っている。自分にリュウレイの名前と鍛冶師として生きる道を与えてくれたことには感謝以上の感情を常に抱いていた。
私も義母さんのように強く生きたい、皆を守れる強さを身に着けたいと願って--。
少しいつもよりひんやりとした肌寒い風が頬を撫でていく。宴の後、義姉とともにリュウ家の母屋に引き上げていくほろ酔い気分の義母リュウメイはリュウレイの肩を軽く叩いて、去っていった。いつも、その大きな手とたくましい背中を見るとどこか安心していた。同時に、やり切れない寂しさが込み上げてくるのも同じだった。
気が付けば、リュウレイは涙を流していた。拭っても拭っても涙は止めどなく流れ続け、最後にはどうしたらいいのかわからなくなって、笑いながら泣いていた。
「義母さん、私どうしたいいのかわかんないよ……」
かすれ声でリュウレイはつぶやく。その横顔を強い西日が明々と照らし続けていた。
話の続きが空いてしまうので各キャラの心情を少しずつ幕間として書いていこうかなと思います。
掲載は不定期となります。ご了承ください。




