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リュウレイの誓い  作者: ミニトマト
リュウレイの誓い~後編~
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鍛冶師リュウレイ(50)

「フィ――ッ! 今日もお疲れ――!!」


 払暁の空を前にたまには自分で自分をねぎらってみる。いつも以上に気合を入れた今朝の遠駆けは最近、この村に来た妹分カンショウに刺激を受けたからだ。常に自分を高める努力を続けないと不安になることもある。結局、最後に頼れるのは鍛え上げた自分への信頼、つまりは自信だけなのをリュウレイはよく知っていた。


 何のために努力するかはあまり重要ではない、要は必要とされる一瞬一瞬のために今があるのだとリュウレイは思っている。もちろん、目標は重要だ。意識をそこに集中することで、自然と力が湧いてくる。それは義母の背を負うことであったり、日々の仕事を続けることでもあるし、リュウフォンやリュウオウ達、義姉ら家族への思いでもある。


 ともかくである、明日の朝にはこの東の頂のさらに真東。橙の隧道の先にある禁足地に赴くことになる。今日は明日の納品に向けた最後の積み込みと個数の確認、整理などかなり忙しい。それも午前中だけで、お昼過ぎには自由な時間がある程度確保できるだろう。


 それに夜にはかわいい妹分のお泊りもある。いろいろ目白押しの一日になるのだ。


 緊張とは違うが、禁足地探索を前に英気を養うには十分すぎる一日になるだろう。心なしか、いつもより心が躍動するのがわかる。とうとう自分の目的のために動き時が来たのだ。


 これで心が高ぶらなければ、その方がどうかしているだろう。


 まぶしい朝日を前に、リュウレイは人知れず笑みを浮かべていた。


「今日の日の出は目に染みるな――」


 独り言を言うリュウレイを前に、彼女を待ち受けていたカンショウとリュウフォンは腕組みをしながら、近くの石に右足を載せて雰囲気に浸るその雄姿を眺めていた。


「今日のリュウレイ姐さん、決まってますね……」


 思わず惚れ直してしまいそうな初心なカンショウがつぶやくと、リュウフォンもまた思うところがあるのか、そうだねと答えていた。


 明日の禁足地探索はまだ手のかかるカンショウを連れていくこともあり、以前に見つけた遺跡の眠る深い森の手前までリュウフォンの力で跳ぶことになっている。それはいつものように空を飛ぶのではなく、自分の思い描く地点に跳ぶことを意味するものだ。


 ちなみに大陸を股にかける女商人ナルタセオはその力を用いて、各地を移動して歩いている。この五年も間、リュウフォンが鍛冶師の村の奥に広がる古木の上で風詠みを続ける理由はそこにある。


 この世界を流れる偉大な古の風は常に大気を循環し続けている。その世界を吹き抜ける風の精を自分の歌声に共振させ、空を巡らせる。そうすることで、この世界の至る処。自分の望む場所に瞬時に移動することができるようになる。


 それこそが姫巫女の眼であり耳である暁の歌姫リュウフォン本来の役目でもあった。古来より彼女の一族は強い風と共に生き、死することが宿命であったという。風はよいことも悪いことももたらす、それらすべてを受け入れ風と共に生きるのが風守りの一族の役目。


 既に滅びたリュウフォンの一族は風を従え、風を武器として辺境に住まう風の民の末裔たちに崇め奉られていた。


 無論、風の力を用いれば無垢なる獣たちと心を通わせ、彼らを従えることさえできる。しかし、神より賜りし愛し子らを戦の道具とすることを良しとしなかった風守りの祭祀は一族の裏切り者の手引きを受けた獣使いの戦士団ラグナザレフの奇襲を受けて、皆殺しとなった。わずかに生き延びたのは一族の中でも、歌姫と呼ばれる特別な力を継承した乙女たち十数人だけであったという。


 これらの悲劇を乗り越えて中原に生きる彼女たちは今どんな思いを抱えているのだろうか。いつか、一族の者たちのために自分ができることをみつけて報いたい。それもまたリュウフォンの心の中にある強い思いの一つであった。


 朝日を背に、こちらを見るリュウレイに向かいリュウフォンはほほ笑む。


「お疲れ様、今日はいつも以上に痛々しかったね――」


 それを聞いたリュウレイは恥ずかしそうに笑いながら、反論する。


「たまにはカッコつけたくなる年頃なんだよ! それくらい大目に見ろって!!」


「姐さん、そういうの好きそうですもんね――」


 早速リュウレイに抱き着いたカンショウも笑顔で彼女を見上げた。そんなカンショウの頭を撫でながら、リュウレイも声をかける。


「明日は朝から禁足地だ。二三日は村に戻ってこれない、だから今日は気合を入れたんだ。カンショウも頑張れよ」


「はい! できるところまで頑張ります!!」


「それなら、最後まで自力で降りてくれよ……」


 まだ体力に劣るカンショウにそれを求めるのは酷なのだが、さすがに調子よすぎるだろとリュウレイは破顔する。まあ、自分の限界に挑むのはいいことだ。けれど無理と無謀は問題外だ。そのことだけをカンショウに約束させて、三人はそろって腰を下ろし朝もやに包まれた鍛冶師の村を眺める。


「はい、今日のお菓子は特別製だってリュウシュンが言ってたよ」


「中身は何でしょうね? ちょっと楽しみ――」


 リュウフォンから焼き菓子の包みを受け取ったカンショウは大喜びでそれにかじりつく。それを見たリュウレイはまだ子供だなと思いながら、それに倣った。


「ん、なかなかうまいな。中身はいつもと変わらないけど、味付けを変えたみたいだな」


「これ、おいしいです! でもなんだか懐かしい味ですね?」


 首をかしげるカンショウにリュウフォンが答えを教えてあげた。それは中原の人々が好んだ、甘辛い味付けなのだという。最近、この村に来た行商から買い付けた新しい調味料を試していたリュウシュンが旅人向けに料理を考案中に生まれたものらしい。


 この村にいる住民の半分以上は元中原の民だ。彼女たちからもいろいろと助言を受けることの多いリュウシュンならではの創意工夫といえるだろう。


「あいつも商魂たくましいな。本気でいつかこの村に旅籠でも作りそうな勢いだな」


 いつか本気でそうなりそうだとリュウレイは心中で半ば呆れ、もう半分は称賛していた。それが姉であるセラ、今のリュウシュンの夢なのだから。


 ――この村にも温泉が湧き出れば、観光客でも呼べるのにのう。


 以前、共同浴場を家族で楽しんでいた時に義姉の姫長メイシャンが何気なく言ったことがすべての始まりだったような気がする。それ以前からリュウシュンはこの村に来る旅人が以前より増えたことに商売のにおいを感じ取っていたらしく、それには大乗り気だったのだ。


 ――いつかこの村に酒家や旅籠を作って商売したいですね、義姉さん。


 ――そうすれば、姉上様も大喜びじゃな。


 大酒飲みの義母リュウメイを姉上様と呼び慕うメイシャンは上機嫌でそれに答えていた。それがリュウシュンなりの恩返しなのだろうと思う。結局のところ、母が大好きなのは姉も自分も変わりない。


 なら自分は自分の道を進むだけだ、リュウレイは朝日に照らされてゆく雄大な白の山嶺を目に焼き付けながら、静かに微笑んでいた――。



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