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ハレルヤなんてさようなら  作者: 八兼信彦
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Scene15 神様《ハレルヤ》なんてさようなら その1

  ***


 目が覚めると、ラースは病室のベッドにいた。

 様々な管につながれていて、あまり身動きが取れない。が、

――生きている!!

 たしかにわたしは生きているようだ……

 天使に敗れ、『超遺物』に落ちたはずではなかったか?

 わたしの身体はいま、どうなっているのだ?

 そう思って、手足を軽く動かしてみるが、どうやらまだつながっているらしい。

 天使は人を殺すことができないとネフィエルから聞いてはいたが……

 まさかそれで自分が助かるとは……


 ふと室内に目を向けると、この部屋の妙な作りが気になった。

 窓も扉もない……あとは真っ白な壁と天井に囲まれている。

 さらにいえば、まわりにつながれている機器も、見たことがないものばかりだった。

「起きたか。」

 男の声が響いた。

 ひどくしわがれた、老人の声だった。

 機器の死角にいて気付かなかったが、ずっとそこに居たようである。

 男は杖をつきながら重たい足どりで歩み寄ってきた。

 厳めしい顔つきの老人である。

「君と話がしたくて、少しだけ待っていた。」

――待っていた?

 声が出ないうえに、首も固定されているので、視線を送ることしかできない。

「キミのいう『超遺物』は無事に消滅したよ。巫女がその『可能性』を選んでくれた。」

――!?

 いま、この老人はなんと言った!?

 遺跡が消滅だと!?

「だがね、あれはすでに廃棄されていたのだ。たいした『可能性』も呼び寄せられない、取るに足らなぬ代物だったのだよ。それなのに、キミのように哀れな夢を抱くものも多くてね、困っていたのだ。」

――この老人はいったい何を言っている……?

「困っていたのは――神も同じだったらしい。つまりキミたちは――利用されたのだ。いや、利用されたのはわたしも含め、といったところだな。」

――まさか……

「そもそも、『バグ』なんてものは、あってもなくても大差ないものでしかなかったのだ。だから神も見逃していた。手を出せなかったのではない。出さなかったのだ。」

――この男は……

「けれど、わたしとしても不愉快なことがあってね。聖マザーを手にかけたのを許すわけにはいかない。」

――この男は『超遺物』をもたらした異界の者もたちの末裔か……まだこの地球ほしに残っていたのか……!

「多元宇宙に落ちていったキミたち(・・)を探すのは面倒だったよ。天使は命まで奪えないからね。キミは、自分が生き残るいくつもの『可能性』のなかに分かれていったのだ。おかげでわたしは、キミたち(・・)の生き残る『可能性』をすべて(・・・)摘み取らなくてはならなくなった。まったく面倒なことをしてくれたよ、あの天使は。」

 そういうと男は、ナイフでさっとラースに傷をつけた。

「せめてその苦しみを少しでも味わってくれ。」

 傷口からみるみる鱗が広がっていった。

 あっという間に、ラースは全身を鱗で包まれた。

「ハレルヤ(神を讃えよ)」

 老人がうっすらと消えていく。

 いやそれは老人が消えていったのではなかった。 

 眼のなかに泳ぐ無数の魚に、視界がかき消されていたのだった……


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