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ハレルヤなんてさようなら  作者: 八兼信彦
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Scene14 不具合《トラブル》なんてさようなら その4

  ***


「はぁ……はぁ……はぁ……」

 アンナは大の字に寝転び、息をついている。

「くそぉ……当たらねぇ……」

 アンナの銃撃も、体技も、すべて逸らされてしまうのであった。

 さらにラースは、『超遺物』によって、獣のごとき様相へと変貌している。

 人間離れしたラースの、素早く強靭な一撃一撃が、アンナの臓腑をえぐっていた。

「まったく……反則チートだよ……」

 といいながらアンナはまたゆっくりと立ち上がる。

「人間にしては、よくやるな。」

「なぜなら、それはアンナちゃんだから……」

 ぐっと力を込めて、またも拳銃をラースへ向けた。

 ラースは地面を蹴ると、まばたきのうちにアンナの眼前へとあらわれ、鋭い爪を突き立てた。

 だがそれも飛びのいて回避すると、かすり傷におさめるアンナ。

「おそろしい反射速度だ。わたしの術で鈍らせているというのに。」

「へへっ……まだまだ……」

「たしかに。まだまだ、こんなものではない。次元の壁を超えてゆけば、さらなる可能性へと行き当たる。」

 ラースは手中でキューブを転がした。

 それは指先で操作をしているというよりも、あらゆるイメージが脳内に浮かぶといったもののようであった。

「ほほう、こんな可能性があったのか!」

 ラースの身体が業火に包まれていく。

 やがてラースの肌は溶け落ちて、その下から淡く橙色にうごめくものが産まれた。

 それは人型ではあるものの、溶岩のように流動する光の塊であった。

 頭部の口元であるらしき場所が、もぞもぞと動いて声が響く。

『わたしは人間を超え……生命エネルギー体へと進化した。』

 アンナは銃撃を加えた。

 しかし銃弾はぬるぬると吸い込まれていくだけで、ダメージにはならない。

 ラースはそのスライムのような身体を動かしてアンナに迫った。

 アンナはこぶしを振り上げて躍りかかる。

 が――

「えっ」

 ふわり、とアンナの身体が浮き上がる。

 アンナが知覚するよりも速く、ラースの腕が伸びて(・・・)、アンナを空中に放り投げていた。さらにその視界からもラースは消えると、アンナは猛烈な勢いで地面へ叩きつけられていた。

「があっ!」

「アンナさん!」

 ティナの悲痛な叫びが聞こえる。

 ラースはその変幻自在の身体で剣山をこしらえ、容赦なくアンナに振り下ろした。

 無数の棘に、アンナは全身串刺しとなる。

「がああああああっ!!」

『まだまだ……』

 ラースの身を包む業火が、アンナへと燃え移った。

「アンナさん!」

 ティナが駆けよるが、

「来るなっ!」

 アンナはティナの足元へ撃った。

 さらに懲りせず、ラースへも撃ち込んだ。

 ラースはアンナを串刺しにしたまま高々と持ち上げ、また叩きつける。

 それでもアンナは銃撃を止めなかった。

『こざかしい――』

 ラースは剣山をアンナから引き抜くと、今度は十字架を造った。

 その十字架に――アンナを磔にする。

 手、腿、足と串刺しにして、アンナから完全に自由を奪った。

 アンナの両手から、拳銃がこぼれ落ちる。

 血が十字架を伝って大地に滴る。

 だが燃え盛る炎のなか、身動きすら取れないというのに――

 アンナの目は、ラースを睨みつけていた。

 ラースは目のようなくぼみを、やや細くする。

『わが血肉となるがいい。』

 顎をはずして蛇のように、大きく口を開いた。

 にじり寄るラースの前に――ティナが立ち塞がる。

「やめろ……ティナ……」

 アンナの静止も聞かず、ラースと対峙するティナ。

 その鬼気迫る睥睨は、命をかけても手出しはさせないという気勢があった。

『いいだろう。ならばティナから喰らってやろう。』

 ラースはにんまりと笑うと、ティナの頭に手を触れた。

 激しい炎がティナにも燃え移る。

 しかしティナは身じろぎひとつしなかった。

 ラースは大口を開け――ティナの首筋にかじりついた。


 しかし、その歯が噛みついたのは――

 ノエルの愛銃、H&G(ゴート・ホーリー)だった。


 ノエルが銃口を、ラースの口に突っ込んでいた。

『――!?』


贖罪の羊(スケープゴート)!」


 銃口が火を噴いた。

『あがっぁ!』

 奇声を上げてうめくラース。

 その衝撃でアンナの十字架も解かれた。

 どさり、と力なく地面に崩れ落ちるアンナ。

 そこへ空から(・・・)ユーリエルが降ってきた。

「その炎は幻術だよ。」

 ユーリエルが空中をつまんで、なにかを引っこ抜く動作をすると、火はまたたく間に消えた。

「の、ノエルさん……?」

 ノエルに抱き留められた腕の中で、ティナは呆然としていた。

「待ってろ。いま『願い』を叶えてやる。」

 ノエルはティナを背後へやると、ラースを睨みつけた。

「ノ……エル……」

 傷ついたアンナの声が聞こえてくる。

「ちょっと休んでろ。あとはおれがやる。」

「……交代……だね……」

 アンナは気が抜けたように、眠りへと落ちていった。

『天使め……冥魚はどうした……』

 うねうねと内部を流動させながら、ラースがのそりと立ち上がる。

「手品を使ったんだ。それより……あんたもひでえ恰好だな。」

『これもわたしの『可能性』のひとつだ。』

「よくわかんねえけど――賭けてみるか?」

『なんだ?』

「奇跡と可能性、どっちに未来があるかってな。」

 ノエルがにやりと笑うと、ラースも溶けた顔をさらに歪めて笑った。

『ハハハハハっ! 神など、この地球ほしのお飾りにすぎん!』

「じゃあ、賭けは成立だ。」

 ノエルはラースへ向けて引き金をひいた。

 残弾5発、すべてを撃ち尽くした。

 しかし弾丸はむなしくも、ラースの身体を突き抜けてしまう。

 ラースはその腕を燃え上がる長槍へと変形させて、ノエルを貫いた。

 その一撃は、ノエルの心臓をえぐった。

『わたしの勝ちだ。』

 ノエルの眼前で、勝利を告げるラース。しかし――

「どうかな?」

 ノエルは不敵に微笑み返した。

 と――ラースの身体に変化が生じた。

 肉体がぼこぼこと形を変えてゆく。膨らんではしぼみ、隆起しては沈降し、様々に変容しはじめた。

 まるで『可能性』のすべてを手繰るように、その肌や肉体を次々に異界のものに変えていく。

『があああっ!?』

 やがて強靭であったはずの肉体が、しぼみ、痩せこけ、異様にねじ曲がった。

 そこへ――すり鉢の底から、淡い光が降り注がれる。

 ラースが振り返ると、『超遺物』が光を発していた。

『ま、まさか――』

 長槍から解放されたノエルは、胸に大穴を開けたまま、朽ちていくラースへ近付いた。

「遺跡は、おまえの肉体が弱っている可能性を選んだらしい。」

『ば、ばかな!? キーキューブもなしにそんなこと――』

「誤作動を起こしたんだ――奇跡的(・・・)に。」

『ふざけるな!! それが神の奇跡だとでもいうのか!!』

「おまえが選ぶべきは――罪のない可能性だったな。」

 と、ラースの膝ががくりと曲がる。

 バランスを崩したラースは、ゴロゴロと転がって――

 『超遺物』へ沈んでいった。

“さすがに死んじゃった?”

 ミズカの声が響いた。

「死ぬことはないさ。それが天使のさがだからな。」

 ティナが駆け寄ってきて、ノエルに胸に手を当てる。

「ノエルさん! いま傷を塞ぎます!」

「ティナ、悪いんだが……おれはもう持たない……」

「そんなことありません!! わたしがなんとかします!!」

 ティナはすぐさま詠唱をはじめる。

 だがノエルの身体は、さらさらと砂粒のように消えてった。

「え? の、ノエルさんっ!?」

 愕然とするティナに、今度は背後からミズカが声をかけた。

「早くしてよね。おにいちゃんもう、限界みたい。」

 ミズカはその手に、キーキューブを持っていた。

「えっ? えっ?」

 なんだかわからずに混乱するティナだったが、

「ここからは、あなたの出番よ。ウリザネアウスの巫女!」

「は、はい!」

 とミズカに焚きつけられ、ティナはそっとキューブを受け取った。

 フィバーチェ家に受け継がれた神器レガリア――

 多元宇宙の果ての『可能性』を選ぶことのできる装置――

 いま、世界の『可能性』は、すべてティナの手の中にあった。

 幾重にも連なる、『無限』の『可能性』がここにある。

 だが……ティナには、選ぶ『可能性』などひとつしかなかった。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

次が最終章です。

よろしくお願いいたします!

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