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ハレルヤなんてさようなら  作者: 八兼信彦
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Scene10 巨人《ギガース》なんてさようなら その3

  ***


 聖堂に浮かぶネフィエルは、ティナとの距離を縮めてゆく。

天使ぼくにヒトは殺せない。だが、それに近いことならできる……」

 ネフィエルはティナに向けて小さなナイフを投げた。

「うっ……」

 しかしそれはマラルメが身を挺した。

 マラルメの腕にナイフが深く突き刺ささる。

「マメくん!」

「ティナ……逃げて……」

 マラルメは血を滴らせながらも、ティナを背後にかばう。

 ネフィエルはまたもナイフを取り出した。

「いつまで耐えられるかな。」

 ネフィエルはナイフを振りかぶった。そのとき――


「ミズカ!!」

 ノエルの声が響いた。


 聖堂の天井を突き破って、巨大な土竜の頭があらわれた。

 そして――ネフィエルをひと呑みにした。


「きゃあっ!」

 突如あらわれた巨大な頭に、ティナの悲鳴が上げる。

 土竜はもごもごと口を動かして、呑み込もうとした――が、できなかった。

 喉元がぷっくり膨れたかと思うと、爆散し――ネフィエルが飛び出してきた。

 すでに羽はなく、左腕がだらりと垂れている……それでもまだ飛行を続けていた。

 喉をかき切られた土竜は、怒りに目をたぎらせてネフィエルに襲いかかる。

 しかし首が思うように動かないので、うまく捕まえることができない。

「ちっ……」

 ネフィエルは穴の開いた天井から逃げていった。

 残された土竜は、さらに身体をうねらせて、教会を取り囲んでいた兵士たちを一掃した。

 そして教会を包み込むようにぐるりととぐろを巻くと……さらさらと姿を消していった。


 倒れているノエルの横に、少女姿のミズカもまた身体を横たえた。

 首からはだらだらと血を流している。

「油断しちゃった。少し休むね、おにいちゃん……」

 ミズカはゆっくりと目を閉じた。


  ***


 ティナは3階のギャラリーから、聖堂の惨状を眺めていた。

 自分を救おうとしてくれた人たちが、みな倒れている。

 その光景は、村が焼かれたあの夜の光景と、嫌でもフィードバックしてしまう。

 自分に関わるものには、みな不幸が訪れるのではないか、そんなことも考えてしまう。

 祖母の意志を継ぐために頑張ってきたが、それに意味があったのだろうか。

 自分が生きることは、他人の犠牲の上に成り立っているのではないだろうか。

 いや、自分が生きていることで、他人を不幸に巻き込んでいるのではないだろうか。

 だったら……いっそ、ここで死んでしまった方がいいのではないだろうか。

「う……うう……」

 マラルメは鱗化がはじまり、痛みに悶えている。

 ティナは震える手で、マラルメに刺さったナイフを引き抜いた。

 この刃を……自分に突き立てるだけで、楽になれる――

 そう考えると、それが容易いことのように思えてきた。

 震えながら、刃を首に近付けていくティナ。

 だかその手を、傷ついたマラルメが止めた。

「ティナ……だめだ……」

 ハッとして、ティナは手で頬に触れた。

 しっとりと濡れて、ようやく自分が泣いていることに気付いた。

 ティナはナイフを投げ捨てた。

「ティナ、まだだ……まだだ……」

 そうだ、自分がいまやることは泣くことではない。悲観することでもない。

 ティナはマラルメに手をかざして、祝詞の詠唱をはじめた――そこへ――

 ラッパの音が吹き荒れた。

 聖堂の外から聞こえてくるその音に、マラルメは顔を明るませる。

「〈緑の信奉者〉だ!」

 マラルメは重たい身体を支えて、よろよろと立ち上がり階下を見た。

 扉が開け放たれて、一人の青年が聖堂に入ってきた。


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