Scene7 機密《ミスティリオン》なんてさようなら その3
「やめじゃ、やめじゃ。」
さきほどの気勢はどこへやら、シシカバは至極つまらなそうである。
「シシカバ、なにかわかった?」
「また妙なものを持ち込みおって。」
さらにシシカバは、ティナのジュースにも手を出そうとした。しかしそれはユーリエルによって止められる。ユーリエルがシシカバを睨んでいると、今度はユーリエルのジュールを奪って、またじゅるじゅると飲み干してしまった。
「――わからん。だから腹が立つんじゃ。」
シシカバはただ事実を告げるように、
「値の付けようがない――組成からなにから地上のものじゃない、ということだけはわかったが、それ以外がさっぱりじゃ。」
と言った。ユーリエルは飲み物の恨みでシシカバを睨みつけながら訊く。
「ってことは『神の遺物』ってこと?」
しかしそれにもシシカバは首を振った。
「『神の遺物』であれば値が付けられる。あれはいまでは既知のものじゃ。だがこれは――未知じゃ。まるでわからんし、わかりそうもない。」
シシカバはつらつらと言う。
「じゃあ『神の遺物』ですらないの?」
「そうだ。存在するはずのないもの。存在そのものが『不具合』みたいなもんじゃな。」
それだけいうとシシカバはまた研究室の奥へ戻っていった。
「そっか――」
アンナは匣を眺める。
電灯のもとにその造形がはっきり見てとれる。
立方体の匣。どこかが開閉するわけでも、蓋があるわけでもない――キューブ。
いくつも筋が入っていて、その一本一本がなにやらうごめいているようにも見える。
指先で触れると、熱をもっているように温かい、不思議な匣――
「ま、いっか。」
アンナは匣を指先でつまむと、ポーチへしまい込んだ。
「えっ!? いいんですか!?」
「専門家でもわかんないもんは、考えてもしょうがないっしょ。それに――追われることには変わりないんだし。まあ、慣れたものよね。」
アンナは相変わらず、あっけらかんとしている。
しかしティナは内心穏やかではなかった。
なぜならティナには、ノエルたちに打ち明けていないことがあった。
それは――アンナから『キューブ』を奪い返すという使命であった。




