一緒に
「増渕さん。一緒にお弁当食べない?」
リカが麻衣に声をかけた。
「いいの?」
「うん」
麻衣はリカの隣に座った。
泉はなんとなく気まずい思いだった。
「あっ。増渕さんのお弁当可愛い」
リカが多少大げさに言った。
「あんまり見ないで…」
麻衣は慌てて弁当を両手で隠すような仕草を見せた。
「自分で作ったの?」
明日香が興味深そうに聞いた。
「うん。一応…」
麻衣は恥ずかしそうに下を向いた。
「すごーい。女子力高っ」
リカは目を丸くした。
しかし、泉はそんな他愛ない会話にも入れずにいた。
「泉、どうかしたの?さっきからなんか変だよ」
明日香は、ずっと泉の様子が気になっていた。
「なんでもない…」
「ほんとに?言いたいことあるなら言いなさいよ」
「なんでもないって言ってるでしょ」
泉は声を荒らげた。
ハッとして思わず麻衣を見る。
麻衣は心配そうに泉を見ていた。
「なんか、ごめんなさい…私…」
麻衣が申し訳なさそうに言った。
違う―
そうじゃない。
泉の目から涙が溢れた。
「泉?」
明日香が泉の顔を覗き込む。
「ごめん…」
泉は人目をはばからず、泣いた。
泉は、さっきの麻衣に対する態度や、心無い言動を謝った。
麻衣は気にしてないと言ってくれたが、泉の心は晴れなかった。
もっとちゃんと謝りたい。
泉はそればかり考えていた。
「ねぇ、バスケの入部届どうする?」
帰りのホームルームが終わり、教科書をカバンに入れながらリカが言った。
そういえば、そんなことすっかり忘れていた。
「明日でいいんじゃない?」
やっぱり明日香はめんどくさがり屋だ。
泉は麻衣の方に目を向けた。
麻衣は笑顔を見せると、カバンを持って泉たちの方にやってきた。
「私、高校でもバスケ部のマネージャーすることにした」
そういえば蒼井くんとそんな会話してたけど、やっぱりマネージャーするんだ。
「増渕さんはもう入部届出したの?」
泉は勇気を出して聞いてみた。
「ううん、これから」
「ねぇ、私たちも今日入部届出そうよ」
泉は明日香とリカに言った。
なぜだかわからないが、泉は麻衣と一緒に入部届を出したいと思った。
「えーっ?ちょっと待ってよ」
めんどくさがり屋の明日香が言った。
リカは嬉しそうだ。
「増渕さん、ちょっと待ってて」
「うん」
三人は、その場で入部届に記名した。
四人で部室に向かう途中、泉は小声で麻衣に言った。
「ほんとにごめんね」
「もう。全然気にしてないって」
今度は本当の笑顔に見えた。
泉は、胸のつかえが少しだけ取れたような気がした。




