ごめんなさい
心室中隔欠損症―
麻衣の病名だ。
生まれながらに心臓に穴が開いている先天性の病気で、心臓の病気の中では比較的多く見られる。
発症しても約半数は自然に閉じるのだが、麻衣の場合はそうとはいかず、幼稚園のころに手術をした。
その後も定期的に検査を受け、経過を診てきた。
日常生活には支障はないが、もともと体の弱かった麻衣は、医師から負担の大きい運動は避けるよう言われていたため、運動会や体育の授業もほとんど参加したことがない。
麻衣が「運動はできない」と言っていたのは、そういうことだったのだ。
「ごめんなさい…」
麻衣は視線を落とした。
そんなことってあるんだ―
泉はショックだった。
さっき麻衣に思わず言ってしまった言葉を思い出した。
何も知らなかったとはいえ、結果として麻衣を傷つけるような言い方をしてしまった自分が情けなくて、悔しくて、涙が出そうになった。
「じゃあ、増渕さんは応援団ね」
リカが沈んだ空気を掃うように努めて明るく言った。
麻衣は下を向いたままだ。
「増渕さん。よろしくね」
明日香は麻衣の肩に手を添えて言った。
「うん…」
麻衣はようやく顔をあげて笑顔を見せた。
泉にはそれが無理に作った笑顔に見えて、よけいに辛かった。
その日の四時間目。
体育の授業だ。
内容はバレーボール。
早速、クラスマッチの練習が始まった。
麻衣は制服のまま、体育館の隅っこに座って見学している。
泉は麻衣の方を見た。
増渕さんに謝らなきゃ―
麻衣が笑顔で泉に手を振った。
泉は思わず目を逸らした。
「泉!」
明日香が叫んだ。
ボールが泉の足元で弾んだ。
「もう。何ボケッとしてんの?」
「ごめん…」
ボールは麻衣の方へ転がった。
「白川さん、頑張って」
麻衣は泉にボールを投げて返した。
「あの…」
泉が麻衣に話しかけようとしたとき、明日香が泉に駆け寄った。
「泉、どうかしたの?」
「ううん。なんでもない」
「そう。だったらいいけど…」
「うん…」
泉は再び麻衣の方を見た。
麻衣は泉に小さく手を振った。
謝るタイミングを逃した―
体育の授業が終わるまでの間、泉の頭から麻衣のことが離れることはなかった。




