麻衣
この学校は、四月の中旬にクラスマッチ、五月の最終日曜日に運動会が行われる。
新学期早々、なかなかのハードスケジュールだ。
まずは、間近に控えたクラスマッチ。
普通科からは男子一チーム、女子三チームが参加する。
種目はバレーボール。
男子は九人しかいないので、自動的に決まった。
問題は女子だ。
二十七人を三チームに分けなければならないのだが、すんなり決まるわけがない。
「あと六人どうする?」
ぼちぼちグループができつつある教室の中を見渡して、明日香が言った。
「増渕さんに声かけてみようか?」
バスケ繋がりで、すでに麻衣と仲良くなっているリカが提案した。
「いいねぇ」
いつも面倒なことは早く終わらせたいのは明日香だ。
「うーん…」
泉はあまり乗り気ではなさそうだ。
「ダメ?」
リカは少し心配そうに泉に聞いた。
「そうじゃないけど…」
泉は優太と麻衣のことがなぜか気になっていた。
「何か気になることでもあるの?」
今度は明日香が聞いた。
「…」
そうだ。
私は何を気にしてんだろう。
蒼井くんと増渕さんが付き合っていようがいまいが、私には関係ないことだ。
「いいんじゃない?増渕さんで」
泉はリカに言った。
「わかった。私、増渕さんに聞いてくる」
リカが麻衣のもとへ向かっているとき、明日香が泉に小声で言った。
「いいの?本当に」
「何が?」
「ううん、別に…」
リカが麻衣を連れて戻ってきた。
「増渕さん、OKだって」
「あの、私、運動できないから役に立てないけど…」
麻衣は申し訳なさそうに言った。
「大丈夫よ。私も泉も運動音痴だから」
明日香はチラッと泉を見た。
泉は窓の外をぼんやりと眺めていた。
泉たちのチームは結局七人となった。
もともといくつかある仲良しグループを無理やり組み合わせただけなので、そんなに都合よくきれいに三等分できるわけもない。
「私、本当に試合出なくていいから…」
麻衣が消え入るような声で言った。
「何で?」
「大丈夫だよ。下手でも」
リカと明日香は麻衣を見た。
「でも…」
麻衣はうつむいた。
「ねぇ、最初からそういうのってないんじゃない?」
泉の言葉はいつになく冷たく聞こえた。
「泉…」
明日香が泉を見ると、泉は慌てて目を逸らして、大きくため息をついた。
「ちょっといいか?」
優太だ。
「フチ子は運動できないんだ」
「ちょっと、優ちゃん…」
三人は二人を見た。
「心臓の病気なんだ」
えっ?
三人は顔を見合わせた。
「もう、優ちゃんいいから…」
「だから、激しい運動は無理なんだよ」