■Epilogue:祭後の歌姫/ The diva after a festival
マリィは街の中心地にある公園で、歌を歌っていた。
クロエと喧嘩別れした後に、夜通し三日月型の弦楽器を弾いて居たので疲れてヘロヘロだった。マリィは気持ちが落ち着かない時や落ち込む時は、気が晴れるまで演奏する様にしていた。出来るだけ好きな曲を、可能な限り明るく、歌を添えて。
しかし今回はなかなか気分が落ち着かず、気が付けば空は明らんで、歌い過ぎて声はガラガラになった。足元に置かれた楽器の収納ケースには、御捻りと思しき貨幣や硬貨が山積みになっていた。しかしそれでもマリィは止めようとはしなかった。
今歌う事を止めたら、次に何をしたらいいか分からないからか。まだ心が落ち着いて居ないからか。誰かを待っているからか。
もはや演奏は酷く乱れて、声も出ていなくて、それでも歌わずにはいられなかった。彼女にはそれくらいしか、出来る事は無かったから。
すると不意に、背後に慣れ親しんだ長髪長身の女性の気配がして振り返った。
「ニャー」
其処に居たのはただの黒猫で、マリィはがっくりと肩を落とした。
そして振り払う様に首を振る。クロエはもう魔導船で何処かへと行ってしまったんだと自分に言い聞かせるように。
「お、そう言えば貴方も黒猫なんですね」
何故か懐くように近寄ってくる猫の背中を撫でて、マリィは声を掛ける。
「……似てる――まさかクロエ(1号)!? な訳ないですよねー、死んだ者を生き返すなんて誰も成し得なかった奇跡です」
マリィは面影を振り切るように、自分の頬を叩いた。
「ニャー」
「しかしお前似ていますねー。何? 一緒に行きますか? 今丁度私フリーなんですよ?」
抱きかかえても逃げようとしない猫を、どうやらマリィは飼う事に決めたらしい。
「お前の名前は……そうですね。1号は永久欠番として。2号は昨夜親が見つかったって報告に来てどっかいっちゃったし、3号は……」
ふと考えて。
「ってか全員居なくなってるから、普通にクロエでいいじゃないですか……」
お決まりの名前を付けた。
そして先ほど感じた気配を探す様に周囲を見渡す。
溜息を吐いて、目を輝かせて猫に告げた。
「決めました! 私もっと魔術医として色んな街をまわって、そんで上位魔術医になって、シスタークロエを探す事にします! 旅を続けてたら絶対何処かで会えるはずですからね!」
そう心に決めて、少女は旅の為に歩き出した。
その日は、目が眩むような青空が空に広がっていて、叶わぬ再会を胸に抱いて、マリィは救いの少ない世界を照らす様に歌い始めた。
小さな一匹の奇跡を連れて。
[END]




