白月狼族の双子
皆さんどうも、ガクーンです。
では、お楽しみください。
~それから数日後~
「はぁ……また外れか」
蓮はかくれんぼ妖精が差し出してきたアイテムを手に取り、疲れたようなため息をつく。
これで何回目の攻略だろう。初日よりも攻略するペースは上がり、1日で5回は回れるようにはなったが……
既に何十回も攻略しているせいで、これが何回目の攻略か覚えていない蓮
そんな蓮はこれまでに妖精から貰ったアイテムたちを思い出す。
色んなアイテムがあったな……碌なアイテムなかったけど。
このダンジョンは運が良ければ金策も出来るのだが、俺は引きが悪く、高値で売れるアイテムで有名なスキルブックの1つすらまだ出てきていない。
また、このダンジョンはHP視認のスキルブックの他に、剣術レベル1、槍術レベル1というスキルブックが落ちる。もちろん、欲しいのはHP視認のスキルブックだが、どんなスキルブックでもいいから、出てくれればもうちょっとお金に余裕が持てるんだけどな。
危険度4以降のダンジョンはお金を湯水のごとく使うステージが多々ある。それまでには使っても使いきれないほどにお金をためておきたいところだ。
まだ時間はあるな……
「帰還ポータルを出してくれ」
こうして蓮は一度ダンジョンを後にし、周回を続けるのであった。
~~~
「あれから休みを取らずに周回し続けてきたから少し疲れて来たな……」
俺は飯を食うために近くの商店街へとやってきていた。
いつもはバックに常備してある携帯食料を食べているのだが、ここ何日もこればっかり食っていると飽きもくる。
蓮は腰に付けている小さなダンジョンバックの中へと手を伸ばす。
そして、中から長方形の携帯食を取り出す。
見た目はカロリー○イトで、生きていき上で必要な栄養素が全部含まれている万能食らしいんだが……
蓮は何かを想像し、嫌な顔をする。
こいつ……美味しくないんだよな。
蓮が手に持つ携帯食料は、冒険者たちの中で一番人気のあるものだ。かさばらないし、何より安く、腹持ちが良い。もちろん、味は劣るが駆け出しの冒険者にとってはこれほどありがたい物はないだろう。
ただ、前世の記憶がある蓮にとっては別の話だったようで。
パサパサしてるし、味も小麦粉を固めて焼いただけの様な不味さ。ほんのり甘さを感じられはするが、日本のあの味に慣れている俺にはキツイものがある。
今日ぐらいは屋台等で飯を食ってもばちは当たらないだろう。
蓮は美味しい物がやっと食えると、笑みを零しながらやや早歩きで目的の場所へと向かっていた時。
「あれは……」
とある看板に目を引かれて、立ち止まる。
「そこのお兄さん! どうですか! 冒険のお供や夜の熱いお相手にもなる奴隷なんかは」
看板に書かれていたのは、大きく一言。
奴隷店……か。
奴隷――犯罪や口減らし等で人間としての権利や自由をはく奪され、他人の所有物として取り扱われる者達。ブレイブダンジョンクエストでも存在したシステムであり、ゲームの中では決められた行動をするNPCだった為、仲間として奴隷を選ぶ者は少数であった。
ボチボチ仲間を探さないと、と思っていた所だ。丁度いい。
蓮は無言で店内へと入って行く。
意外と仲は綺麗なんだな。もっと衛生環境が悪いのを想像してた。
店内では小奇麗な奴隷たちがショーケースの中で手と足に枷を付けられながら椅子に座っている。
種族は人間以外見られないな。他の部屋に他種族がいるのか?
蓮は奴隷の健康状態なども見つつ、店内を見て回る。
「お客様! どんな奴隷をお探しでしょう? 戦闘奴隷だったり性奴隷だったり色々と取り扱っておりますが……」
すると、奴隷商人らしき人物が蓮へと声をかける。
しかし、蓮は奴隷商人を一瞥すると、店の奥へと進んでいく。
「あ、あの。お客様?」
商人が戸惑いながらも蓮に声をかけ続けると。
「――はいるか?」
「はい?」
「獣人はいるかと聞いているんだ」
獣人――人間の様な見た目をした獣の特徴を持つ者の総称。身体能力が他の種族と比べて非常に高く、前衛職に向いている。
商人は慌てながら蓮へと近づき。
「もちろんでございます! ささっ。こちらへどうぞ」
蓮は商人に言われるがまま後へと着いていく。
丁度見終えたし、出ていこうと思っていた矢先に声をかけられてしまった。だから、仕方なく獣人はいるかと聞いてしまったが……
この店、結構広いんだな。ショーケースの中にいたのは人間だけだったけど、予想通り、他の種族は奥に隠されてた。
蓮は周りに視線をやりながら、奥へと進む。
少しして突き当りに鍵がかかった部屋があり、その部屋の手前に椅子に座った監視目的であろう男がいた。
「て、店長!?」
「お客様だ。開けて差し上げろ」
「はっ」
固く閉ざされていた扉を開ける男。
「どうぞ」
「ささっ、こちらへ」
商人に誘導されながら、蓮は異様な雰囲気を感じ取りつつ中へと進んでいく。
これは……
すると、その中に広がっていたのは劣悪な環境下で鎖でつながれている奴隷の数々。
「お客様を見る限り、戦闘奴隷をお望みと思いまして……」
蓮は顔をしかめるが、すぐに平常を装い。
「そうだ。この中に狼族はいるか?」
俺は前々から前衛を狼族。すなわち、AGIが優れた種族を置こうと思っていた。AGIが優れている種族と言ったら、獣人やエルフが挙げられるが、エルフは見た目が良いせいで奴隷の中で高額な部類に属している。
なので獣人の中でも随一の速さを持つ、狼族がいないかを確認しにきたんだが。
「狼族ですか? おい、狼族はこの中にいるか?」
「狼族は確か……」
一人の男が部屋の更に奥へと進んでいく。
奥にいるのだろうか……
それから暫くして。
「ほらっ、お客様がお待ちだ! 早くこっちへ来い!」
鎖を手にした男が、一人の獣人を連れて戻ってきた。
「いたっ! 何すんだよ!」
一人の獣人が痛そうに地面へと転ばされる。
「お前を購入してくれるかもしれないお客様だ。挨拶しろ」
「ふんっ。やだね」
その獣人は白が薄汚れたような毛色をしており、本人は商人たちにとても反抗的な模様。
それもそうだろう。好きでここにいる訳じゃないんだからな。
「く、終わったら覚えとけよ」
男が苛立ち始めた時。
「その子を見ても?」
「えぇ、もちろんです。ですが、あまり近くに寄らない方が……」
「大丈夫です。あと、その子と二人で話がしたいので離れてもらっても」
「承知しました」
こうして商人と男がそばから離れていく。
近くに誰もいなくなったな。それじゃあ、この子に素質があるかどうか確認するか。
俺はその狼人と目線を合わせる為、しゃがみ込む。
「君の名前は?」
「……」
無言の狼人。
「俺は蓮って言うんだ」
「……」
「一応、ダンジョン攻略をやってる」
「知ってる」
おっ、喋った。
蓮はにこやかな笑みを浮かべる。
「知ってるって? 君に言った事ないけど」
「……匂い」
「匂い?」
「っ! それは凄いな」
素直に凄いと思う蓮。
匂いでって、普通じゃわかんないぞ。
ダンジョン内は森や洞窟等、様々なステージに変化するから、匂いはその場その場で変わるしな。
蓮が獣人を褒めると、チラリと見えた尻尾が左右に揺れているのが分かった。
もしかして、喜んでるか? 案外かわいい奴なのかもな
その後も蓮は会話を交わしていく。
「そうなんだ! それでな……」
いつの間にか口数が多くなった獣人と会話をしていて、分かった事がある。
まず、この子の名はフューロ・ゼル。白月狼族の生き残りらしい。
そして、ゼルには両親と双子の姉がいるらしいんだが。
「メルを助けてくれ!」
一緒にこの奴隷館へ連れて来られて、ゼルとメルは離れ離れになってしまったらしい。
どうやら、白月狼族は高く売れるらしく、女であるメルは貴族向けに売るためどうのこうのらしいが。
「……ちょっと待ってろ。話があるんだが……」
一応、話だけ聞いてみるかという気持ちで立ち上がり、商人へと声をかける。
「何でしょうか?」
「メルと言う獣人はこの館にいるか?」
すると商人はいやらしい笑みを浮かべ。
「流石お客様も男の方でいらっしゃる。えぇ、居りますとも」
何か変な勘違いをしているみたいだが……まぁいいだろう。
「その子にも会わせてもらえるか」
「もちろんです! さぁ、こちらです」
そうして俺は商人の後を追って、ゼルがいる部屋を後にした。
~~~
「こちらで少々お待ちください」
俺が通されたのは同じ奴隷館の二階。ゼルがいた部屋とは異なり、白を基調としたとても綺麗な部屋となっていた。
蓮は商人が出ていくのを確認し、ホッと一息つくと、先ほどまでのゼルとの話で一番興味深かったことを思い出す。
『メルはレベルが一つ上がっただけで合計のステータスが13も上がったんだ!』
ゼルがメルを褒めている際に言った事だった。
本人は無自覚で言ったのかもしれないが、俺からしたら値千金の情報。
レベル1上がっただけで、合計のステータスが13も上がる。これは異常だ。
普通種族はレベル1上がるだけで合計のステータスは平均して5~8上がり、上位種になると10以上、上がる事もあるが……まさか。
メルとゼルは上位種なのか?
レベルが1上がっただけでそのステータスの上りよう。
ゼルの話を聞いている限り、姉のメルはいい素質を持っているし。もちろん、ゼルも双子らしく、レベル1上がっただけで合計10も上がった様子。
これは二人共欲しくなっちゃうだろう。
これが終わったらすぐに周回に取り掛かんなくちゃな。
蓮はメルとゼルを手に入れるべく、気合を入れる。
トントントン。
来た。
「いいぞ」
「お連れ致しました」
入ってきたのは商人と、とても綺麗な獣人の女の子。
え? あの子がゼルの姉だって?
真っ白な肌に真っ白な尻尾。そして、真っ白な髪にとてもマッチした薄青色の目。その目は俺の心を見透かしているかのように恐ろしく、そして綺麗であった。
ゼルとはとても似つかない……とでも言おうと思ったが、あの場は暗すぎて顔が確認できなかったんだった。でもな、よくよく考えてみたらメルがこれほど綺麗なんだ。ゼルも風呂に入れて食事をとらせたらいい男なるに違いない。
「お客様。この子がメルです。ほら、挨拶をしなさい」
「ご挨拶遅れました。フューロ・メルと言います」
一つ一つの動作も美しい。
メルは純白のワンピースを靡かせ、蓮に挨拶をする。
「どうでしょうか。メルは当店で1、2を争う看板商品。既に数組の貴族の方々にお声がけを頂いておりまして……「いくらだ」――はい?」
「その子はいくらだと聞いている」
商人は目を大きくさせ、ニコッと笑う。
「この子はお客様でも流石に無理があると思いますので、下にいる子の誰かに」
元から見せるだけのつもりだったんだろう。
上玉を見せてから購買意欲を誘い、それよりも安い子たちを買わせようと。
「いいから値段だけを教えてくれ」
「……」
商人は蓮の圧に押されて黙ってしまう。そして、小さく口を開き。
「2500万です」
「分かった」
蓮は一言だけ発し、立ち上がる。
2500万。今の俺からしたら少し高い金額だが、スキルブックが数個出たら全然買える金額だ。
「数日中にその子を買いに来る。他の貴族よりも早く金を持って来れば問題はないだろ?」
「も、もちろんでございます!」
それから蓮はメルを一度も見ること無く、扉へと手をかける。
「……あともう一つ」
「なんでございましょう」
「下にいた獣人の……」
「ゼルのことでございましょうか」
「っ! ゼル……」
ゼルという言葉が出た瞬間。メルの白い耳がピクピクと反応し、小さく言葉を漏らす。
「彼も一緒に購入を考えている。値段は……」
「ご一緒に購入を検討いただけるのでありました、合計2600万で結構です」
「そうか」
最後に聞きたいことを聞けた蓮は、その場を後にしようとした時。
「あの……」
「うん? 俺か?」
蓮が後ろを振り向く。
さっきまでほんの少しも表情を変えなかった彼女が、感情を取り戻したかのように慌てている。
「お名前を……貴方様のお名前を教えてください」
「蓮だ」
するとメルは胸に手を当て。
「レン様……覚えました」
大事そうに蓮の名前を呼ぶ。
なんだ。いい顔も出来るじゃないか。
女性の温かみを感じさせる表情。うん。悪くない。
「じゃあ、また来る」
「はい。いってらっしゃいませ」
この瞬間、彼女は何かを感じ取ったのだろう。メルはまだ、蓮の奴隷では無いのに、ご主人を……蓮を戦場に送り出すかのように、誰もが見とれる笑顔で蓮を送り出したのだった。
お読みいただきありがとうございました。
この話が面白いと思って頂けたら高評価等よろしくお願いします!
では、また次回お会いしましょう。




