凶暴化
皆さんどうも、ガクーンです。
では、お楽しみください。
それからの蓮はいつにも増して、恐るべきスピードでダンジョン周回を続けた。
常人には考えられないダンジョン踏破回数。
ダンジョンに入ってはかくれんぼミッションをして、報酬を受け取ったらまた出て。
これの繰り返し。
朝昼晩通して周回して周回して周回しまくる。
駄目なら次。欲しい物が出なくてもまた次……と。
何が楽しいのか。何が嬉しいのか分からない。ただ、蓮は自分の目的の為に周回をする。
HP視認のスキルブック。そして、ゼルとメルを仲間にするために。
そうして何回目か分からない、ルベリックの新緑ダンジョン攻略の時。
『今回の報酬だよ! この3つの中から選んでね』
かくれんぼ妖精が抱えるアイテム3つを確認する蓮。
今回はクリアに手間取ったな。早く次に行かないと……
とうの昔に必要以上の期待は諦め、無心で周回をしていた。
牙に葉っぱに本か。今回も碌なやつがな……
蓮はある一点を見つめ、動きを止める。
本だって?
『……? どうしたの? 3つの内から好きなの選んでいいんだよ?』
妖精が不思議そうに蓮の顔を下から覗き込む。
「あ、あぁ。もらうよ」
蓮はハッとし、促されるがままに妖精が手に持っているアイテムに手を伸ばす。
俺が貰うのは……
『本当にそれでいいの?』
「これでいい」
『分かった! また遊んでね!』
蓮は妖精が去ったのを確認すると、先ほど受け取った報酬――念願のスキルブックをまじまじと確認する。
「やっと手に入った……これが――スキルブック」
スキルブックを手にして嬉しさを噛みしめる。
表紙は……HP視認のスキルブックじゃないか。
一番欲しかったスキルブックでは無く、少し落胆するものの、すぐに気を取り直す。
でも、このアイテムが出来てきてくれたという事に意味がある。このダンジョンでスキルブックが落ちるという事実さえ確認できれば。
今回手に入ったのは剣術レベル1のスキルブック。剣術レベル1は駆け出しの冒険者のみならず、中級車の冒険者にも愛用されるほど汎用性は高いし、いいスキル。
長い間使い続けると上位のスキル、剣術レベル2に進化する可能性もあるし、もう1つのスキルブック。槍術レベル1よりは扱いやすくて、人気もあり高値で売れるだろう。
「なんか安心したな」
これ一つだけでは目標の金額には遠く及ばないし、目当てのスキルブックが出たわけでも無い。だが、ようやく第一歩を踏めたなと思うと気が楽になった。
肩の力が抜けた気分だ。
よし。この調子で周回を続けるぞ。
こうして蓮は再び、周回に没頭していくのであった。
~それから数日後。ゼル視点~
ガタガタ騒がしい……。何かあったのか?
ゼルはいつも通り、奥の部屋で獣人たちと共に鎖につながれながら、店内の騒がしさを感じ取っていた。
「おい、みんな。またあいつらが来たぞ」
「今日は俺らの中から選ばれるかな」
「はははっ。天地がひっくり返っても俺らから選ばれることはないやい」
みんな何の話してるんだ?
選ばれる? 一体だれに……
周りの獣人たちは何か落ち着きがない様子で騒ぎ始める。
「おい! 選ばれるって何のことだ?」
ゼルは近くにいた獣人の話しかける。
「あぁ、お前には関係ないよ」
その獣人はゼルを羨ましそうに見ると、興味を無くしたかのように扉のある方へと顔を向ける。
俺には関係ない? 益々訳が分からな……
「お前さんはもう、主人が見つかったじゃろ。だから関係ないと言っておるんじゃ」
ゼルは声がした方へと振り向く。
するとそこには……
「ジルのおじさん……」
この奴隷館に来て歴が長い羊の獣人。皆からジルと呼ばれる者がいた。
「主人って……あ」
ある一人の男が脳裏に浮かぶ。
レンの事か。
人間にしては珍しい黒い髪と瞳を持つ男。ただの人間なのに、何処か凄味を感じるオーラを放ち、警戒心の強いゼルの心を簡単に溶かしてしまった。
「そうじゃ。私達奴隷にとって主人を見つける事は極めて重要な事。じゃが、それ以上に自分の主人となる者がどんな相手だかも重要なのだ。お前さんにも聞こえるだろう? 外の騒がしさが」
「もちろんだ」
さっきから慌てた様子の足音が複数、ゼルの耳が捉えていた。
「奴隷商たちが騒ぎ始めるのはたった1つ。金を沢山落としてくれる上客が来た時だけじゃ」
主人を見つけるのが大事で、上客が来てるか……あ。
ゼルは一つだけ心当たりがあった。
「お前さんにも分かったか」
「うん」
金を沢山落としてくれて、奴隷たちが主人として選びたいのはあいつらしかいない。
「貴族が来てるんだね」
「左様じゃ」
貴族――社会的に特権を持つ者達。貴族は強い者達の血を取り込んでいい血筋を作ってくという伝統があり、貴族=強者というイメージが根強い。
でも……こんな所に何で貴族なんかが……
ゼルは耳を澄まし、外の音を聞こうとしたその時。
ガチャ。
外部とを繋ぐ扉が突然開かれる。
「貴族様が来たのか!?」
「おい、邪魔だって……」
「おら! どけ!」
いや、違う。この足音は……
ゼルは騒がしいこの中で、扉を開けた足音の主の正体を感じ取る。
「てめえら! ちっとは静かにしろ! 殴られてぇのか!?」
入ってきたのはこの部屋を取り仕切る、奴隷商の手下。
手下の男が部屋へと入ってきた瞬間にその場は静かになり、ゼルも目立たないように息をひそめる。
「ちっ。貴族様の相手だけでも大変なのに、てめえらの世話までしなくちゃなんねえとは……まったくやってられねえぜ」
その男は盛大な舌打ちをかまし、肩にかけていたカバンから奴隷たちの食事と思われる、小さなパンの欠片を手一杯にすくいあげ。
「ほら! 今日の飯だ!」
部屋全体に雑にぶちまける。
その光景に奴隷たちはただ手下の男が投げたパンの欠片を目で追うばかり。
そして、我先にとパンの欠片にがっつき始める。
「ふんっ。いいざまだ。これでも食って大人しくしておけよ……」
そうして男は仕事が終わったとばかりにその部屋を後にしようとした時。
「あーそうだ」
急にゼルへと振り向き、下卑た笑みを浮かべながら近づいていく。
うん? 俺に何か用があるのか?
ゼルは、蓮がいなくなった後にされたお仕置きを思い出し、一瞬、身震いするものの。
大丈夫だ。大丈夫……何を言われても。何をされてもあともう少しの辛抱。メルと一緒にこの地獄から出ていけ……
「お前、姉いたよな……」
え? メル?
突然のことだった。
ドクン……
「この館に来た時に離れ離れになったって言う……そうそう。真っ白な髪のあの……」
め、メルが……一体どうしたって言うんだ。
ドクン……ドクン……
まだ、何も言われていないのにも関わらず、変な汗と動悸が止まらない。
「お前の姉も災難だな……」
「ど、どういう事だ!」
ゼルは動揺のあまり、自身が鎖に繋がれているという事を忘れ、手下の男へと迫る。
ガシャンっ!
「くっ」
しかし、鎖に阻まれ、手下の男に這いつくばるかのように地面へと倒れる。
「はははっ! だって――貴族に買われるんだからな」
「は――」
男が吐いた言葉を理解するのに時間がかかるゼル。
う、嘘だ。メルと俺はレンに……
そして、現実を認めたくなく、思考が追いついてこないゼル。
おかしいだろ。何でメルが……
「ははっ。いい気味だ。しかも、その貴族……――趣味もあって……お前の姉も終わったな」
ゼルは首を垂れる。
嘘だ。嘘だ。メルは……一緒に。俺と……
思考の波に襲われるゼル。
どうすれば……
せめてメルだけは守らないと。メルを……
そして、ゼルが行き着いたのは。
『凶暴化』
極限状態でゼルに発現したスキル。凶暴化。
スキル[凶暴化]――DEFと思考の低下を引き換えに、STRとAGIを向上させる。
「――凶暴化」
ゼルは小さな希望の光をこのスキルに感じ、小さく呟く。
「はははっ。じゃあ、てめえら。痛い思いしたくなかったら静かにして……は?」
手下の男は扉に手をかけ、部屋を後にしようと後ろを振り向いた瞬間。
自身の横を一瞬で通り抜ける存在を辛うじて目で追う。
「嘘だろ……。一体誰が……」
その後ろ姿は薄汚れた白い毛が見え、獣人であることだけは確認できた。
「白髪の……あいつっ! この先には貴族様が!」
脱走した獣人は明らかに貴族がいる方向へと走り去っていった。
~ゼル視点~
メルはきっとこっちにいる。
「お、おい! 獣人が脱走してるぞ!」
「捕まえろ!」
商人の手下と思われる男たちの合間を縫って、自身の勘と鼻が捉えた微かな匂いを頼りにメルを探す。
俺……俺が……メルを。
もう、蓮の助けは待っていられないと判断し、スキル凶暴化で館内を凄まじいスピードで通り抜けていく。
匂い……メルの。
そうしてゼルは匂いを辿っていくと、とある部屋に行き着く。
「ここ……」
「うん? お前は……っ!」
その部屋の前に護衛らしき人物が二人立っていたが。
「どけ」
ゼルは気にする素振りも見せず、二人の隙間を抜け、豪快に扉を蹴破ってみせる。
ガシャーン!
扉が吹き飛ぶ音と同時にゼルが部屋へと侵入する。
「だ、誰だ!」
するとそこにいたのは小太りの如何にも貴族と思わしき人物1人と……
「……お下がりください」
護衛と思われる貴族の付き人。
「っ! き、貴族様。少々お待ちください。直ぐに片づけますので……」
そして、奴隷商人に……
「……ゼル」
「メル!」
再開を待ち望んでいた人物。メルの姿があった。
……いた!
「今助け……」
ゼルは本能的にメルを助けようと、メルに近づくが。
「奴隷」
「んぐっ!」
「ゼルっ!」
貴族の護衛が間へと入り、ゼルを殴り飛ばす。
こ、こいつ……
ゼルの身体能力は凶暴化により、グレード3の冒険者と同水準まで上がっているにも関わらず、そのゼルをいとも簡単に制圧する護衛。
「貴族様が目の前にいるのだ。今すぐ頭を地面につけ降伏しろ。さすれば貴様の腕一本で勘弁してやろう」
護衛は鞘に収まっている剣の柄に自身の手を伸ばしながら警告をする。
相手は圧倒的に格上。ゼルの勘もけたたましい警告音を響かせている。
うるさい! あいつを……
「ゼル! もうやめて!」
メルの悲痛な叫びが木霊する中。
メル……自由に……
しかし、凶暴化のせいでゼルにはそこまでの状況を判断する理性すらなく。
「ガァ!」
素手で護衛へと飛び掛かる。
「ふん。獣には理解できないか。それならば……」
護衛は目を細め、腰に備え付けてある鞘から剣を引き抜く。
「や、やめて……」
メルの目じりに涙が溢れ、言葉にならない思いを漏らす中。
「死ね」
護衛の剣がゼルの首筋を狙った次の瞬間。
お読みいただきありがとうございました。
この話が面白いと思って頂けたら高評価等よろしくお願いします!
では、また次回お会いしましょう。




