探索者
「ふぅ、実戦はやっぱり違うな。」
検証を終え、廃ビルから出て帰り道を歩き出す。
不良たちは救急車を匿名で呼んでおいたため大事には至らないだろう。戦闘を振り返り、改めて検証結果をまとめる。
「あいつはあんなのでも特校への入学を周りに期待されるほどだった……。」
あの不良は戦闘向けのペルソナに加え。能力を実戦レベルに扱えるほど才能があった。身体能力強化レベル2では本気を出した不良に押されていたが、レベル3では圧倒したと言っていい。
「つまり、俺が特校へ入学できる可能性はかなり高い。」
"能力保持者特別訓練校"略して特校は中等教育に加え、才能のあるペルソナ保持者を鍛えることを目的とした国立の高等学校である。
入学が可能なら復讐の計画において大きなアドバンテージになるだろう。学校に通うだけで能力を伸ばすことができ、授業ではゲートやクリーチャーについての座学もあると聞く。入学が難しいこと以外のデメリットはない。
幸い、ペルソナを持たず勉学に励むしか将来の道がなかったので学科試験はそこまで焦る必要はない。今は少しでも能力を伸ばすことが優先だ。
「よし、明日は学校を休んでゲートに行こう。」
目標は決まり、街を走り急いで帰宅する。
「ここが、探索者協会か……。」
ゲートに入るためにはまず探索者協会に登録しないといけない。起床してすぐ家を出たからだろうか、人は少ないが立派な建物だ。東京の探索者本部はこれの比ではないらしいので、ゲート産業は莫大な利益を生み出しているのが分かる。期待に胸を膨らませ、入り口のゲートをくぐり新規登録の受付へ向かう。
「いらっしゃいませ。新規登録をご希望の方でよろしいでしょうか?」
「はい、登録をお願いします。」
「かしこまりました。こちらに必要事項の入力をお願いいたします。」
指示通りに情報を入力していると、入り口の方からざわめきが起こる。
「なんで、こんなとこに【ベラトリクス】のパーティーが?」
「おい、見ろ!噂の【戦姫】がいるぞ。特校への入学がもう決まってるらしい。」
「見て、みんな美人。いいなー、憧れちゃう!」
気になるワードが聞こえ振り向いてみると、ちょうど自動ドアが開き四人組の集団が入ってくるのが見える。
全員女性で、大人のなかに一人だけ自分と同い年くらいの女の子が混じっている。すると女の子は視線に気付いたのかこちらをしばらく見ると何事もなかったかのようにゲートの窓口へ向かっていった。
「気になりますか?今かなり噂になってますよね、彼女。」
先ほどの事務的な印象とは打って変わって、少し笑いながら話しかけてくる様子に少し戸惑いながら入力を進める。
「え?まあ、確かに気になりますね。」
「そうですよね!あれ、同じ学校の人だったんですか!?年齢もご一緒ですし、もしかしてお知り合いですか?」
入力した情報を見たのか、興奮したように言われるが全く記憶になく同じ学校に通っていることすら今初めて知った。
「はは、実はそうなんですよね。知り合いってほどではないんですけど。これで後はもうゲートに入って試験をするだけですか?」
正直に話してしまうと長引きそうなので誤魔化しながら話を本来の目的へと軌道修正する。
「はい!お客様の仰る通りこの後、探索協会職員と一緒にゲートに挑戦していただきます。ゲート探索に必要な戦闘能力を職員が確認したら、はれて探索者になることができます!」
どうやら事前に調べてきたとおり、あとは試験に合格すれば探索者になれるらしい。こんな簡単でいいのかと思われるかもしれないが、この歳でもペルソナがあれば試験を受けられるほど探索者は実力主義の側面が強い。
「なら、最短で試験をお願いします。」
「かしこまりました、でしたらゲート受付の方へお願いいたします。」
案内されたとおりゲートの窓口へ行き手続きを済ます。
「これが、ゲート。」
目の前には普通の空間の中にそこだけ異質に切り取られ存在する丸い円。円の中は黒く何も見通せない。自分の家族を死に追いやった元凶だが、不思議と目の前にしても落ち着いている。深呼吸をし、触れてみるとと確かに何かを通り抜ける感覚がある。
「よし……!」
勢いをつけて通り抜けるとそこには夕焼けの空と広い草原が広がる。それは壮大でしばらく景色を眺めているとあることに気づく。
「あ、職員の人全然来なくて思わず入っちゃった……。」
どうしようかと頭を抱えていると目の前の空間に波が立ち、先ほどの受付のお姉さんが現れる。
「ちょっとー!困りますよー、何かあったら危ないですよ!」
「す、すみません!憧れの探索者になれると思うと、気持ちが抑えられなくて……。」
「もー、まあ二条さんはまだ若いですし今回は許します。……あれ?二条さん。格好が受付の時のままですけど大丈夫ですか?」
お姉さんは先ほどと違いプロテクターと短剣を装備し動きやすい格好になっていて、自分のジャージに比べたら天と地の差だ。けれど武器なんて持っておらず、あっても使える気はしない。
「俺はこのジャージで大丈夫です!格闘がメインなので。」
「本当ですかー、見栄張っちゃダメですよ。貸し出しもしているので言ってくださいね?」
歳と相まってなかなか信じてもらえない。半分本当で半分嘘のような話なので、どうしようかと思案していると近くの草むらが揺れる。
「何かいる……!」
助けの手が差し伸べられる。
その手の主はクリーチャーのようで、草むらを掻き分けて現れたのは【角兎】。中型犬ほどの大きさがある兎で額から生える角を突進と共に突き刺してくる。単純な攻撃だが、運か実力の足りない新米探索者が年に数人ほど命を落とす。
草むらから出てきた角兎は二人を視認すると、永和に向かって迷わず突進する。
「調べてきた情報通りだ……!」
突撃を予測通り躱しながら頭の角を強く握る。そして突進の勢いを利用し、さらに加速させながら地面に頭から叩きつける。
ゴシャァ
頭から叩きつけられた角兎はピクリとも動かない。記念すべきゲートでの初戦闘を危なげなく終えて満足していると視線を感じる。お姉さんが若干引いていた。
「ほら、本当に格闘がメインなんですよね……はは。」
さっきの話の流れを汲みつつ笑ってみせるが、さらに引いている。片手に血だらけの兎を持って笑っている少年として見えているからだろうか。
「プッ、アハハハッ!はーっ、もう冗談ですよ。私も職員ですからこれくらいは見慣れてますよー!」
「そ、そうですよね!よかったー……。」
このまま、地獄の空気に包まれ試験をやるしかないと若干諦めかけていたがどうやら大丈夫のようで。お姉さんはまだ少し笑いながら近づいてくると興味深そうに眺めてくる。
「いやー、ペルソナがあるから人は見かけによらないってわかっているんですけどね?流石に少しビックリしちゃいました。」
「なんかすみません……。」
「大丈夫ですよー!この階層は余裕そうですしパパッと【魔石】だけ回収して次の階層行っちゃいましょう!」
「はい!あ、短剣借りてもいいですか?手でとってもいいんですけど。」
「プッ、!もー、笑わせないでください。次の探索からはちゃんと準備してくださいね!」
「そ、そんなつもりはなくて!」
お姉さんから借りた短剣を使いなんとか魔石を取り出す。初めて見たそれは蒼色でとても綺麗だった。




