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君を想う  作者: ツヴァイ
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消えた記憶③

読んでいただければ、幸いです。

 度々、アナベルはジルベルトの家に遊びに来た。専らジルベルトの庭園の手入れに付き合っている。たまにお手伝いに土の袋を持ってくれたり、間引きを手伝ったりと過ごしていた。


 ティータイムには、甘さ控え目の紅茶とお菓子でのんびりと寛いでいる。


 最初の頃よりも大分表情が柔らかくなったのだが、ジルベルト以外は分からないらしい。それに少し優越感を感じるジルベルト。

 アナベルも感情の機微を敏感に察知してくれるジルベルトに懐いた。



 今日も庭園の花の手入れをしているジルベルトの元にアナベルが遊びに来た。

 最近、少しづつ暑くなってきている為か、今日のアナベルの服装は、薄手の白いワンピースを着ていた。


「ジル、こんにちは」


「こんにちは、アナ」


「ジルベルト様」


 ジルベルトとよく一緒に庭園で花の手入れをしている年配の庭師でジムと言う。

 ジムがジルベルトへと白いものを手渡した。


「そうだった。はい」


 ジルベルトに渡されたのは、鍔の広い白い帽子で紺色のリボンが着いているシンプルなものだった。


「帽子ですか?」


「そうだよ。アナは肌が白いからすぐ真っ赤になっちゃうでしょ?」


 アナベルは早速、帽子を被ってみた。暑い日差しを遮ってくれて、涼しい。


「ありがとうございます」


「どういたしまして」


 少し微笑んで、ジルベルトにお礼を言うとジルベルトは幸せそうに笑った。


「ジムさんもありがとうございます」


「どういたしまして」


 ジムにもお礼を言うとおっとりと微笑んで、被っていた麦わら帽子を持ち上げた。


「ジル、今日は……」


「やぁやぁ、久し振りだね。ジルベルト君」


 快活に声を掛けてきたのは、この国の王であるグレンだった。

 金色の癖っ毛に濃い青色の瞳の美貌の王は、アナベルによく似ていたが、彼女と違って感情豊かに悪戯っ子っぽく笑っている。

 暑いのか、彼も帽子を被っている。


 ―――サンバイザーを。


「ねえ?ナルサス?」


「何ですか?」


「これ、暑いんだけど」


「そうでしょうね。頭守ってませんから」


 ナルサス自身は、フリルたっぷりの黒い日傘にサングラス、マスクと二の腕まである手袋を着用していた。


「なんでかな!?私の頭皮に何か恨みでもあるのかな!?」


「いえ、禿げれば良いのにとは思いますが」


「止めてよ!!私は禿げ家系なんだから!!」


「良いこと聞いた」


「ぬあぁぁぁぁ!!」


 ただただ呆然と自分の国の王と宰相である父とのやり取りを見ていたジルベルト。

 取り敢えず、ジルベルトは半泣きのグレンにフォローを入れる。


「禿げても、きっと格好良いよ」


「ジルベルトく~ん」


 可愛くガッツポーズしたジルベルトに癒させたのも束の間、アナベルがそれを赦さなかった。


「変な励ましは、却って酷ですよ」


「ぬあぁぁぁぁ!!我が娘が、抉るぅぅぅ!!心を!!岩盤掘削機で!!容赦なく!!私の繊細なガラスのハートを抉るぅぅぅ!!!」


「岩盤掘削機で抉るガラスってどれだけ分厚いんですか。もう、ガラスじゃないですね。ダイヤですよ。ダイヤなんて硬い鉱物の代表じゃないですか。なら欠ける事もないですね。大変頑丈な心を持っているじゃないですか。禿げても格好良いなんて、おべっか以外の何物でも無いですよ」


「ブゥゥゥロォォォーケェェェンンンンハァァァートォォォ!!!!」


 大きく両腕を後ろに下げて、天を仰いで真っ白に燃え尽きたグレン。


「失恋?」


「この場合は傷心でしょう」


 キョトンとするジルベルトと何処までも無表情のアナベル。


 ナルサスは戦いていた。自分の親にここまで残酷で冷酷になれるのかと。


 ―――アナベル様、恐ろしい子!


 その後、ナルサスは置物グレンを回収して屋敷へと撤退していった。



「いつも思うけど、アナの父上は強烈だね」


「そうですね。否定しません」


 アナベルはジルベルトから貰った帽子の鍔を撫でながら、帽子のお礼がしたいけど何が良いかと聞いた。


「お返しかぁ。別にいらないけど」


「それでは、私の気が済みません」


 目を瞑り、顎に手を当て暫くうんうんと唸っていたジルベルトが思い付いたと目を開けた。


「んん~…あ、青い薔薇」


「青い薔薇ですか?」


「うん。青い薔薇は、物語の中でしか存在しないんだけど、見てみたいんだ」


 ジルベルトが言う物語とは、『青い薔薇』と言うそのままの題名の本の事だ。



◆◆◆



 村の貧しい少年が、ある日、山菜を取りに森へ行くとそこには大きな銀色の狼が怪我をしていた。


 貧しくも優しい少年は銀色の狼の怪我の手当てをしてあげました。狼は怪我で食べる物を採る事ができません。


 そこで少年は自分の食料を分けてあげる事にしました。少年から貰った食べ物で銀色の狼はどんどん怪我が良くなり、すっかり元気になりました。


 元気になった銀色の狼は、少年にお礼を言って森の奥へと消えていきました。


 狼に少年の食料を分けてあげた事で今度は少年の食べる物が無くなってしまい、また森へと入っていきました。


 すると、森の奥から銀色の狼がやって来て、あの時は助かりました。お礼に此方をお持ちください、と言った。


 渡されたのは、青い薔薇の蕾がついた鉢植えと沢山の食べ物でした。


 少年は銀色の狼にお礼を言って、村の自分の家に帰ると狼から貰った薔薇を大切に育てました。


 それから間もなく、城から薔薇の美しさを競う大会を催すという知らせが届きました。


 国のあちらこちらから沢山の綺麗な薔薇が集まります。村の少年も青い薔薇を皆に見てもらおうと持っていきました。


 するとどうでしょう。青い薔薇を見た王様が、一目でその薔薇の虜になってしまいました。


 王様は少年に譲って欲しい。お金ならいくらでも払うからと言いましたが、少年は頷きません。


 そこで王様は少年を殺し、青い薔薇を自分の物にしました。


 王様が青い薔薇に触れた瞬間、薔薇は枯れてしまいました。


 王様は少年が住んでいた村を突き止めると兵士達と共に村へと向かいました。


 村に着いた王様達は青い薔薇について村人に聞きましたが、誰も知りません。


 困っていると村の猟師だという男が、少年と銀色の狼の事を話しました。


 王様は早速、森へと入っていき銀色の狼を探しました。やっと見つけた時には、森の奥深くまで来ていましたが、青い薔薇が欲しい王様は気にしませんでした。


 王様は銀色の狼に青い薔薇が欲しいと言いました。しかし、銀色の狼は話を聞いてくれません。


 怒った王様は銀色の狼を斬りつけました。斬られたところから血が流れ、その中から青い薔薇が生えてきました。


 驚いた王様でしたが、銀色の狼の血があれば、青い薔薇が沢山手に入ると考え、兵士達に銀色の狼を殺させました。


 銀色の狼の流した血が血溜りとなり、その中から青い薔薇が生えてきます。

 どんどんどんどん生えて、気付いた時には、兵士達と王様は青い薔薇の茨に閉じ込められてしまいました。


 それでもどんどんどんどん生えてきて、兵士達と王様は、青い薔薇に飲み込まれてしまいました。



◆◆◆



「そんな物で良いのですか」


 近くにあった白い薔薇の蕾にそっと魔法を掛けると白い薔薇が徐々に色を換える。白から水色へ、水色から青い薔薇の蕾になった。


 驚いたジルベルトだったが、次の瞬間には破顔し、アナベルの小さな手を握った。


「わぁ~、凄い!アナは凄いね!!」


 ジルベルトは興奮してアナベルの手を上下に動かす。乱暴とも取れる行動だったが、アナベルはされるがまま、ガクガクと体が揺れる。


「喜んでいただけて、良かったです」


「!」


 アナベルが笑った。それも口角がほんの少しだけ上がるだけのものでない。

 優しく柔らかい笑みを湛えるその顔は慈愛の表情。初めて見せてくれた表情にジルベルトは驚愕に目を見開いて固まってしまった。


「ジル?」


 無反応なジルベルトを心配したアナベルは自分よりも大きな体を揺する。


 ジルベルトはそれどころではなく、アナベルの笑顔に魂を抜かれていた。


 確かに、アナベルの笑顔を見たいと思っていたが、まさかあそこまでの破壊力があるとは思わなかった。


 アナベルの笑った顔は、年相応に幼く可愛らしかった。

 そんな笑顔を見たジルベルトは胸の奥が締め付けられる感覚の後にじんわりと胸が暖かくなるのを感じた。

 アナベルが笑顔を見れてくれる程に自分に心を許してくれているんだと思うと嬉しくなった。

 もっと彼女の色んな表情が知りたい、見てみたいと貪欲に思う自分に成る程と思った。


 自分だけに彼女の全てを曝け出して欲しい。全てを知りたいし、見ていたい。傍で。隣で。彼女を誰にもとられたくないという独占欲染みた愛情を理解した。




読んでいただき、ありがとうございます。

ナルサスの日傘は愛する奥さんのです。

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