保育園に通う①
ついに新年度が始まってしまった。つまり、保育園に通わなければならないのだ。おまけに、バレエ教室も始まる。俺にとっては、ヤクザや悪魔相手の方が、ずっと楽なのに。とにかく憂鬱だ。以前、保育士の仕事をさせてもらったが、ほとほと疲れた。園児のパワー、エネルギーに圧倒されっぱなしであった。その時の経験から、とにかく大人しい子供で過ごそうと思った。保育士に迷惑をかけたくないと思ったのだ。
そして、何より、レイちゃんが楽しく過ごせるように、気を使いたいと決意した。
『レイ、ちひろちゃん。いよいよ、明日から保育園に通いますよ。お支度できてるかな?』
『はーい。レイ、ちゃんと、お支度したよ。』
レイちゃんは、何でもテキパキとこなす。忘れ物など決してしないタイプだ。
『そしたら、ちひろちゃんのお支度も手伝ってくれるかな。お姉ちゃんなんだから。』
『はい、ママ。妹のちひろちゃんの、お支度を手伝うね。』
俺の決意とは裏腹に、レイちゃんが俺に対して気を使ってくれている。そんな姿を、かすみはニコニコしながら見ている。俺はなすがままの状態。流れに逆らうことなく自然に任せた。
『ねえ、ママ。ちひろちゃん、オムツどうするの。最近は、お漏らししないけど、もしも、保育園のお布団を汚したら、シーツのお洗濯とか、ママが大変だから、一応、オムツを入れておいた方がいいのかなあ。』
『そうねえ、念のために、2、3枚持って来ましょうか。』
まさか、またオムツされるの?
『あら、レイちゃんは、すっかりお姉ちゃんね。ちひろのことを考えてくれてるのね。ちひろ、レイちゃんの言うことを、ちゃんと聞いて、お利口さんでいるのよ。』
いつの間にか、彩先生もそばに来た。
『はい。彩姉ちゃん。レイ姉ちゃん、お手伝い、ありがとう。』
この時は、行きたくないという気持ちが強かった。しかし、翌日からは、もう、行きたくて行きたくて仕方なくなるのであった。
翌日、初登園となった。レイちゃんは、かすみに手を繋がれ、俺は彩先生に手を繋がれて、保育園に向かった。大宮にある「私立さくら保育園」という名の保育園だ。ミッション系の私立保育園だが、認証保育園である。建物は新しく、園庭は広い。滑り台や、砂場などが配置されている。奥の方には体育館や小さいながらプールもある。どれも、新しく建設されたばかりのように見えた。おそらく、彩先生の鶴の一声で、急遽、建てられたのではと思う。いや、間違いないだろう。なぜなら、理事長やら、園長やらが、満面の笑みで、俺らを迎えてくれたからだ。完全にVIP扱いである。
レイちゃんは4歳。俺は妹で3歳ということになっている。レイちゃんは、パンダ組、俺は、うさぎ組に入ることになっている。入園式の後、それぞれのクラスで、担任の先生が挨拶を行なった。
うさぎ組の担任は、「あゆみ先生」という、背が高く、ショートヘアーの先生であった。俺は、一目で、あゆみ先生が好きになった。理由は単純。美しいからである。体は、女になっているが、やはり心は男。綺麗なお姉さんには、弱いのだ。さっきまで、保育園が憂鬱であったが、今、この瞬間から天国のような空間に変わった。この先生に、毎日会えるのかと思うと、にやにやしてしまう。早く、あゆみ先生に抱っこされたいと考えていた。どうすれば、好かれるのだろう。いちおう、俺は女の子だから、とにかく可愛い仕草とかしないといけないのかなあ〜なんてことを思った。
初登園は、あっという間に終わってしまった。俺は、あゆみ先生にバイバイの手を振った。すぐにレイちゃんと合流したが、レイちゃんも担任の先生に手を振っているところだった。なんと、パンダ組の先生も、とびきりの美人だ。何で、俺の周りには美人が集まってくるのだろう。かすみを筆頭に、レイちゃん、彩先生、スイミングの先生、そして保育園の先生。みんな美人である。きっと、バレエの先生も美人に違いない。そう考えると、ワクワクしてしまう。いかんいかん、本来の目的を忘れないようにしないと。俺の使命は、レイちゃんを守ることなのだ。と思いつつも、頭の中から、あゆみ先生の顔が離れなかった。
『レイ、保育園、どうだった?』
『あのね、凄く楽しかった。絵本とかいっぱいあるし、おもちゃもいっぱいあったよ。』
レイちゃんは、ちょっと興奮気味に話した。
『ちひろちゃんは、どうだったかな?』
かすみに聞かれて、間違っても「先生が美人で、嬉しかった。」などとは、言えない。
『うん。楽しかった。でも、ちょっとだけ、恥ずかしかった。』
恥ずかしいのは、正直な感想の一つである。俺の言葉を聞いて、彩先生がニヤリとした。しまった!心を読まれたかもしれない。
『かすみさん、ちひろは、保育園を気に入ったみたいよ。私は嫌なら通うのをやめてもいいと思っていたんだけどね。』
やはり、読まれていたようだ。当分、彩先生はこのことで、俺をからかってきそうだ。
『あらそうなの。ちひろちゃん、保育園、気に入ったの?』
ここで、首を横に振ったなら、何をされるかわからない。俺は首を縦に振った。
『うん。』
恥ずかしさで、顔が赤くなるのが分かった。
『レイちゃん、ちひろのことを守ってね。ちひろは、何にもできない妹だから。明日からも宜しくね。』
彩先生は、俺の様子を伺いながら、レイちゃんに声をかけた。




