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八十四話 我こそは月読命様の神気を封じし闇夜の旋風…後編なんです

私からのクリスマスプレゼントです。

ちなみにクリスマス成分は特にありません。


 しばらくそんな調子で適当に相槌を打ちながら彼女の話を聞いていると、彼女について色々なことがわかってきた。



 まず、この厨二病少女の名前は†常夜†(とこよ)。それが本名なのか霊名(ニックネーム)なのかは知ったことではないが、少なくとも彼女は自身のことをそう呼んでいた。†は必須らしい。


 年齢は俺より僅かに上で、ミケよりも下の15歳。小田原城で働く女中として働いており、普段は鈴の専属の侍女を勤めていたようだ。


 そんな彼女なのだが……。



「フ、"夜雀"殿よ。我が父上から貴殿の話は伺っている。貴殿も彼女も、我と同じ宵闇の夢幻に生きる者であると……」


 つまり?


「……俗世の言い方をするならば、忍というやつだ」


 という訳で、彼女は表向きには鈴専属の侍女を勤めているウラで、風魔衆の一員としての顔も持っているらしい。


 更に台詞から察するに、彼女の父親は北条家の軍事部に関係している人物だと予想できる。

 俺が忍だということはまだしも、表向きには俺の侍女という扱いで通しているミケですら忍だと知っているのは、北条家の中でも上層部の限られた人物だけだからだ。


 ていうか、こんなにペラペラと初対面の相手に、個人情報を自慢げに語る忍なんて大丈夫なのだろうか。ウチ(夜鷹衆)にこんな口が軽いのが居たら、即座に教育を施すレベルなのだけど……。



 呆れ返りながらそんなことを考えていた時だ。


「何、案ずることはない。貴殿と我は言わば同じ星の宿命を背負いし同士。ならば……」

「「あっ……」」


 変わらぬ調子でペラペラと語り続ける†常夜†の背後に音も無く現れた影に、俺とミケは気付き、同時に全てを察したものの、絶好調の彼女はそれに気付かない。



「おい……」

「魂で刻まれた盟友であると……へっ? はわっ!?」


 背後からかけられた怒気に満ち溢れる声に、漸く†常夜†は気づき振り向く。

 そして相手を視認した瞬間……。


 ダッ! と跳ねるように離脱。最短距離・最速で部屋の出口へ向かう姿は、紛うことなき一流の忍……。だが、時既に遅かった。


「逃がすかァ!」

「ぎゃん!」


 あと一歩……というところで、その影に首元を掴まれ、その勢いのまま顔面から畳に押し倒された。


 そして引き起こされたその脳天に……



 ゴンッッッ!!


「いったぁ!?」


 容赦のない天誅(鉄拳)が降り注ぎ、頭部を綺麗に捉えて鈍い音が響き渡る。

 †常夜†は余りの痛みに悶絶し、言葉にならない悲鳴を上げながらゴロゴロと畳の上を転げ回っていた。




◇◇◇




「悪ィな、"夜雀"。ウチのが迷惑かけた」


 眼に涙を浮かべてシュンとしながら正座をする†常夜†を尻目に、その人物は珍しく人に頭を下げた。



「いや、構いませんよ……小太郎殿」


 そう、その相手はお馴染み、北条家忍者衆『風魔衆』の頭領にして、恐らく東日本一の忍・風魔小太郎だ。

 先日の稲子合戦では、武田の忍衆・素破と戦闘する部隊を率いて、彼らの殲滅に一役買った。

 久助とは友人のような仲であり、話を聞く限りでは†常夜†の上司にあたる人物だ。


「ところで、この……†常夜†は何者なんですか?」

「†はいらねェ。コイツの言うことを真に受けンな」

「あ、はい」


 じゃあ、普通に常夜で。


「まずコイツの本名は常夜じゃねェ。まァ忍びとしての通り名……異名だ。勝手に名乗ッてるだけだがな。コイツの本名は……」

「なっ! 我の真名は魂魄の契約が……」

「うるせェ! 黙ッてやがれ!」

「ぴいっ!?」


 すごい。一喝で黙らさせられた。

 厨二病モードの常夜も、上司? である小太郎には手も足も出ないようだ。



「ッたく……。話を戻すが、コイツの名前は『トミ子』だ。トミとでも呼んでやりャァいい」


 トミ子……っていうのか、お前。あっ、見るからに沈んでる。



「だから知られたくなかったのに……。こんな格好悪い名前……」


 なんて、ソッポを向きながらボソボソと呟いている。なるほどな。

 決して悪い名前とは言わないが……確かに彼女の性格でトミ子は似合ってないな。絶望的に。


 俺だってトミ蔵とか名前付けられたら暗黒面(ダークサイド)に堕ちると思うし、致し方ないかもしれない。



「ンだよ、いい名前じゃねェか」

「父上は感覚がおかし……独特なんです!」


 そうそう……ん? 父上……父上ェ!?


「えっ、トミ……常夜は、小太郎の娘なのか?」

「肝心なことは言ッてねェのか。そうだ、コイツはオレの娘だ」

「娘、居たのか……」

「というか、奥さん居たんですにゃ……」


 俺もミケも目を丸くしてしまった。

 

 だが考えてみれば風魔衆は、代々の風魔家の当主が頭領の座と『小太郎』の名を継承するものだ。

 こんな人間離れした超人の小太郎とはいえ、奥さんの一人や二人居ないほうが、逆におかしい、ということかも。


「えっと、改めまして。風魔衆頭領・小太郎の娘で、鈴姫様の侍女と隠密を勤めております、風魔トミです……」

「ご丁寧にどうも……」


 すっかり落胆してしまった常夜がいたたまれず、素直にペコリと挨拶を返すしか出来なかった。




◇◇◇




 翌日。


 一軍の将としてあまり不在もしていられないので、俺とミケ、鈴は早々と小田原を後にし、岐阜へ帰還することになった。……のだが。


「……どういうこと?」


 わけがわからず首をかしげてしまう。



 早朝にも関わらず、世話になった何人もの人が見送りに来てくれた。

 当主の氏政や綱成、鈴の母親の輝子(と、兄の新六郎と小次郎)、そして小太郎。


 たった一泊だけであったにもかかわらず、こうして見送りに集まってくれるのは、とてもありがたいし嬉しい。

 のだけど。何故か常夜と三郎が、見送る(あっち)側ではなく送られる(こっち)に居る。



「私は、鈴姫様の侍女であることに変わりはありませんので」


 とは常夜の言葉。

 モードに入ってさえいなければクールで真面目な常夜は、これからも鈴姫専属の侍女として、そして……。


「これでもオレの娘だ、実力は申し分ねェだろ。お前ンとこでコキ使ってやれや」


 と小太郎の言葉どおり、これからは夜鷹衆に移籍して頑張ってもらうことになりそうだ。

 ミケとも打ち解けていたし、人材難がちょっと気になっていたところだ。新助が戻ってくるまで(・・・・・・・・・・)は、夜鷹衆の幹部候補としてミケと共に頑張って貰うこととしよう。


 で、常夜はそれでいい。


 問題は三郎だ。



「……?」


 ほらそこ、「何か?」みたいな顔をしない。


 常夜がついてくる理由はわかったが、三郎がついてくる理由が思いつかないぞ。



「三郎は織田家との養子交換という名目で、織田家へ行くことにさせた」


 とは氏政の言葉。

 そういう大事な情報が何故俺には尽く届いてないのか納得がいかない。

 どうやら俺の知らない間に、信長様と氏政の間で同盟を結ぶにあたり、北条家からは当主・氏政の弟にあたる三郎を。織田家からは信長の五男にあたる御坊丸(史実では津田源三郎、又は織田勝長と呼ばれるはずだった人物)を、それぞれの家へ養子として出すこととなったらしい。


 曰く、俺と鈴の婚約はあくまでも「北条家と滝川家の同盟」。

 「織田家と北条家の同盟」を結ぶにあたって、織田家家臣の一人と、家臣の娘(名目上は養女だが)の婚約では同盟締結の人質としては役不足だと思っていたが、どうやらそっちが本命であったようだ。初めから言ってくれ。


 

「うん。織田家、楽しみ」


 当の三郎は、家から追い出される立場だと言うのに、悲しむどころか寧ろ楽しそうだ。

 後から聞いた話だが、なんでもこの養子の話が決まった際、親族の中で誰が織田家に行くかという時に、三郎は自ら志願したという。

 掛川城攻め、大宮城攻め、稲子合戦と何度か戦場で顔を合わせているうちに、俺達の戦いぶりをすっかり気に入ったらしく、知見を広げ成長するためにもと買って出たのだ。


 ま、そうというならば、俺としても仲の良い三郎が来てくれるのは願ってもいないことだ。


 

「(これからまた、賑やかになりそうだ……)」


 思わぬ増員もあったが、鈴、常夜、三郎、三人の新たな仲間を連れ、俺達は北条家の皆に別れを告げた。

 


 久助たちの長い安息の時は、まだまだ続く。





1571年、初春。 

三名の新たな仲間を加え、久助たち一行は居城・大垣城へ向けて帰還する。

そしてまた、ドタバタの日々が始まる……と思うんです。


早めに連絡しておきます。

12/29~12/31は早朝から夕方まで例のお仕事のため、執筆は出来ません。


28日までにあと何度更新出来るかはわかりませんが、ご了承ください。


次回どうするかはまだ考えてませんが、ネタはまだまだあるので大丈夫です。

箱根温泉ネタはやりません。

温泉ネタを前にやったし……、箱根温泉に行ったのが昔過ぎて、作者が全然覚えてないんですよね。

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