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三十九話 そして墜つ若き星なんです

日付変更に間に合わなかった!

申し訳ねぇ……! 信〇の忍びを読み込んでいたら時間が足りなかった……()



「やっぱり長可(SATSUGAI)じゃねーか!!」



 さっきまでの誠実な好青年っぽい雰囲気はなんだったのだろう。

 雰囲気を一変させ、殺戮マシーンと化した長可くんは、俺の作戦指示もそっちのけで一目散に朝倉軍へ突っ込んでいく。

 きれいな長可くんは幻想だったのだ! やっぱり史実通りの長可くんだったんだ!



「って、そんなこと考えてる場合じゃねーな!」



 

 長可も放ってはおけないが、一人の命よりも先ずは戦だ。

 


「信忠と氏郷は、信忠隊の兵と共に織田本隊の援軍に向かってくれ! 多分、先鋒部隊の磯野員昌が突っ込んでくる! アレを止めれるのは氏郷と森可成殿くらいだ!

俺は長可(バカ)を追って、そのまま徳川軍の援軍に向かう。そちらの指揮は信忠に任せるぞ!」


「ああ、任せておけ、久助。武運を祈る」


「氏郷は決して無理をするなよ。 磯野員昌は浅井家最強の猛将だ。味方と連携することを忘れるな!」


「おう、任せておけ!」


「よし、では俺は長可を追って先行する。滝川隊は新助の指示に従い進軍せよ!」



 俺は軍団を二手に分けるよう、仲間たちに大急ぎで指示を出した。

 氏郷を磯野員昌にぶつけるのはちょっと不安だが、織田軍本隊には森殿や佐々殿もいるし、氏郷を上手くサポートしてくれるだろう。


 信忠に後を託した俺は、馬を駆けさせ陣を飛び出し、長可を追って徳川軍へと向かったのであった……。




◇◇◇




 信忠隊・滝川隊がそれぞれ動き出した頃、徳川・朝倉側に続き、織田・浅井側でも浅井家の先鋒部隊が勢いに乗って川を渡り、織田軍先鋒部隊と衝突しようというところであった。


 織田家の先鋒は坂井右近政尚。現代に余りその情報は残されていないが、元は美濃斎藤氏に仕えた人物で、後に織田家に仕えた武将であると言われている。

 坂井政尚は、信長上洛時に三好三人衆が一人・岩成友通と対峙した勝竜寺城の戦いや、伊勢大河内城の戦い等で、主に織田軍の先鋒部隊として活躍した記録が残っている。

 

 この姉川の戦いでも織田軍の先鋒として、十三段の構えの一段目を務めていた。

 それだけの信頼が、信長からこの坂井に寄せられていたのだ。



「浅井軍の勢いに怯むな! 敵を迎え撃て!」



 政尚は味方を鼓舞し、隊列を揃えて敵を迎撃する構えを取る。


 先鋒部隊はこれまで何度も任されてきた。故に先鋒の戦いがどれだけ大事なのかもわかっている。

 先鋒部隊は全軍で最も初めに戦う部隊である。先鋒が勝てば味方全体が勢いに乗るし、逆に負ければ味方は士気を失い、敵軍が勢い付いてしまう。

 更に敵部隊に突破されれば、後続の部隊に勢いに乗った敵軍が襲い掛かることになってしまう。

 勢いだの、士気だのと精神論みたいな話だが、戦場においてはこれが本当に結果を左右するのだ。


 故に、政尚は先鋒部隊としての役目を果たさんと必死の思いであった。



 「鉄砲隊、放て! 川を渡らせるな!」



 政尚の号令で、火縄銃が轟音と共に火を噴く。


 怒涛の勢いで猛進する浅井家の先鋒部隊とまともにぶつかりあえば、大打撃を受けるのは必至である。だから鉄砲で牽制し、先ずは敵の足を止める。これが迎撃戦の定石であった。


 坂井鉄砲隊の銃弾が命中し、浅井の兵がバタバタと川面に倒れる。

 だが、浅井の兵は止まらなかった。


 倒れた兵の後ろから騎馬隊が神速の如き勢いで迫り、装填の合間で無防備な鉄砲隊に襲い掛かった。

 突撃を受け混乱する坂井隊、乱戦に持ち込まれては、迎撃の構えも鉄砲隊も無意味である。


 驚異的な強さ、圧倒的な勢い。それこそが浅井家の先鋒部隊、佐和山の猛将・磯野員昌率いる浅井家の精鋭部隊であった。



「磯野隊、突撃せよぉ! 織田の守りを突き崩せぇい!!」



 磯野隊の勢いは、それはもう凄まじいものであった。

 そもそも浅井軍は数で織田軍に劣っていた。それなのに、浅井軍がこれだけの高い士気で戦に望めるのは何故なのか。


 答えは、この磯野員昌が先鋒を務めているからである。


 自軍内で最強の猛将が自ら最前線に立つのである。味方としてこれ以上心強いものは無いであろう。

 員昌が破竹の勢いで先陣を切り、名だたる味方部隊がそれに続く。浅井はこうやって勝ってきたのだ。

 だからこその絶対的自信、絶対的強さであった。


 織田の坂井隊だって先鋒隊として実績もあり、決して弱くはない将である。ただ相手が悪かったのだ。



「くっ! 盛り返せ! 突破されるな!」



 懸命に指揮をとる政尚。だが、磯野隊の勢いに呑まれた坂井隊が瓦解するのに時間はかからなかった。

 瞬く間に討ち取られる坂井隊の兵。また一人、また一人と、味方が地に倒れていく。


 敗北。その言葉が脳裏に過ぎった時だった。



「父上、俺が時間を稼ぎます。その間に撤退し、態勢を整えてください」



 馬に跨り、政尚の前に躍り出る一人の若武者。---坂井政尚の息子、坂井尚恒であった。



「馬鹿な! お前に止められる相手ではない! それに、儂一人で逃げるわけには……」


「父上の様な将は失われるべきではないのです。俺の命が織田家の勝利の為、織田家の未来の為らなるのなら安いものです。

……父上、こんな俺を今まで育てて頂きありがとうございました。親より先に逝く不肖な息子を、どうかお許しください。あの世にて、織田の勝利を願っておりまする。……では」



 ただ、それだけを言い残し、尚恒は磯野隊に向き直る。



「やめろ! 尚恒! 尚恒ぇぇぇぇ!!!!!」



 政尚の絶叫が響くが、尚恒がその声に振り返ることは無く、彼が単騎で敵軍に向かってのを止めることは出来なかった。



~~~




 尚恒は奮戦した。

 磯野隊に敗れ撤退する坂井隊を逃すべく、たった一人の殿軍である。


 それでも、決死の覚悟で挑む若将は獅子奮迅の如き勢いで立ち向かい、磯野隊に抗った。

 何人かの兵を討ち取り、彼は見事に味方が撤退する時間を稼いで見せたのだ。



「貴殿の奮戦、敵ながら天晴れよ……」



 そんな尚恒の前に、浅井家最強の男・磯野員昌が立ちはだかる。

 絶望的状況にも関わらず、尚恒の心は晴れ晴れとしており、笑みすら浮かぶ程であった。



「(父上は無事に逃げ延びたであろう……。ならばこの人生に最早悔いは無い……)」



 天を仰ぎ、大きく息を吸って、吐き捨てる。

 最期の戦いへの覚悟を決め、最高の相手に向き合う。



「我は織田軍先鋒、坂井右近政尚が息子・尚恒である。そなたは浅井の将、磯野員昌殿とお見受けする」


「いかにも、儂が浅井家先鋒部隊の将・磯野員昌である」


「磯野殿ならば、俺の生涯最期の相手に相応しい。是非、お手合わせ願いたい」



 尚恒は刀を抜き、員昌に向ける。

 それに応じ、員昌もまた刀を抜く。

 


「……よかろう。坂井尚恒、最期までこの儂に抗った若き勇将よ。貴殿の名と武勇は決して忘れぬ」


「磯野殿……感謝する。 ---いざッ!!」



 両者の刀が激しくぶつかり合う。

 その音を聞いた者は織田家には一人もおらず、この坂井尚恒の最期の記録は残されていない。


 だがそれはつまり、全ての味方が撤退するまで彼が一人で戦い抜いたことの証明であった。




 坂井尚恒、十六歳。 若き星は墜つ。



 磯野隊は勝利の勢いに乗り、破竹の勢いで二段目・池田隊、三段目・木下隊に襲い掛かり、次々と粉砕し突き進んでいく。

 だが、尚恒が命を懸けて稼いだ時間は決して無駄ではなかった。



 織田軍の若き獅子、蒲生氏郷。

 天下最強を目指す戦の申し子が、織田軍本隊を目指して戦場を駆けていた……。






1570年、夏。

殿となり、壮絶な最期を遂げた若き勇将。

その輝きは新時代を駆ける流星へと受け継がれていくのです。


尚恒くん生存ルートも実は考えてました。


ですが他の人物にスポットを当てたかったので、泣く泣く彼には一話で退場してもらいました。




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