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二十話 東国のこれからなんです

ようやく一区切りです。


あの夜の出来事から、俺はすっかり落胆していた。


そりゃそうだ。

仲間になんの相談もせずに飛び出して、あわや討死という大失態を犯したのだから。


こうして誰にも気づかれずに生きて帰ってこれたから良かったが、

一軍を預かる大将としてあるまじき行為、武士失格だ。


これまでの人生は全て史実に乗っ取って、思い通りに生きてきた。

そこから生まれた慢心だ。


もっと強くなろう。そう心に刻み、より一層真剣にこの時代を生きようと決めたのだった。




〇〇〇




それから数日後、風魔小太郎の言った通りに北条の使者が到着し、いよいよ交渉に入ることとなった。


織田方からは俺と奇妙丸、徳川方からは家康殿と石川数正殿、そして北条家からは、使者で氏政殿の弟である北条氏規(ほうじょううじのり)殿と、その配下と名乗った男と、小姓だという少年が参加した。



ちなみにだが、石川数正殿は徳川家の重臣で筆頭家老と言ってもいい程の重役の武将だ。

本能寺以前の徳川家康の主だった戦の多くに出陣し、家康にとっても欠かせない存在である。


だがしかし、この数正は1585年に突如家康を裏切って秀吉の元へ下ってしまう。

この出来事は、徳川家の重鎮中の重鎮であった数正の謎の裏切りとして知られており、その原因ははっきりしていない。

明智光秀の裏切りに並ぶ、戦国時代の謎だろう。


そして北条氏規殿は北条氏康の五男にあたる人物で、北条家当主・氏政の弟になる。

武将としてよりは外交官として手腕を発揮した人物であり、各国との同盟締結の交渉を北条の代表として行っていく人物だ。


更に幼少期は今川義元の人質として駿府に住んでいた時期があり、どうやら徳川家康と顔馴染みだという説が史実では説かれていた。

現在の様子を見るに二人は旧知の間柄に見え、どうやらその説は本当なようだ。



付き添いだという男と、小姓だという少年は特に喋ることも無く、ひたすらに黙って話を聞いていた。

時々目が合うのだが・・・この人たちは何をしに来たのだろうか・・・。




▽▽▽




交渉については、あらかじめこちらの思惑が伝わっていたからだろうか。

あたかも予定調和だったかの如く、酷くあっさりと終わった。



余りにもすんなりと交渉が終わったせいで、内容について特筆して語ることがないくらいだ。


結果だけ言うと、


・掛川城は開城し降伏。今後は徳川の統治下とする。

・氏真夫婦、並びに朝比奈泰朝は北条が預かるものとする。

・徳川家の旧今川領・遠江国の支配権を認める。

・北条家と徳川家・織田家それぞれと同盟を結ぶ。


大まかにはこんなカンジだ。


朝比奈泰朝の処遇以外は大体我々の思惑通りといったカタチに収まっただろうか。

攻城戦で随分と煮え湯を飲まされることになった泰朝の首を徳川方としては欲しかっただろうが、

穏便に済ませるために妥協したということだろう。


織田家としても、徳川への援軍をこなしたし、北条と良い関係で同盟が築けたしで言うことは無い。

色々あったがこれにてミッションコンプリート。ホッと一息つけそうだ。




◇◇◇




翌日。俺達は家康殿や忠勝に別れの挨拶を済ませ、いざ岐阜へ帰ろうと陣を片付けていた。


そこへ、三人の男がやってきた。



「どうも、滝川殿」


「貴方は・・・氏規殿。どうされましたか?」



やってきたのは北条氏規と、お付きの二人だった。


「いや、滝川殿が本国へ帰られる前に、うちの兄弟が是非とも滝川様と話がしたいといいましてね」



と、氏規殿は苦笑して言う。

はて。北条兄弟で来ていたのは氏規殿だけだったと思うのだが。


「兄弟? 氏規殿のご兄弟がいらっしゃっているのですか?」



不思議に思って尋ねる。が、氏規の返答は以外なものだった。


「それはもう、最初からずっといましたよ」


「はい?」



何を言っているんだ? 

俺は首を傾げた。『ずっといた』と言うが、そんな人物はどこにも・・・あっ。



「もしかして、後ろの御二方が・・・」


「おうよ、ようやく気付いたか! 『夜雀』よ!」



お付きの二人のうち、配下を名乗った方の男性が、その雰囲気を一転させて言った。



「俺が北条家当主・北条氏政だ! そしてこっちが俺の弟・北条三郎だ」


「・・・三郎。よろしく」



豪快な雰囲気の氏政が笑いながら言い、大人しそうな雰囲気の三郎は小さな声で名乗った。


・・・ってか、当主の氏政自らお忍びでこんなところに!?



「まさか、氏政殿だったとは・・・。それに『夜雀』って何ですか・・・」


「ん? お前さん、自分が『夜雀』って呼ばれてるの知らんのか?」


「えっ、初耳です」



なんだその厨二な二つ名は。初めて聞いたぞ。


『神童』と呼ばれることはあったが、アレか?

遂に俺にも、戦国時代特有の、『動物二つ名(アニマルネーム)シリーズ』が付いたのか?

越後の龍とか、甲斐の虎とか、肥後の熊とか。


さしずめ俺は『伊勢の夜雀』・・・なーんか微妙だな。



「お前さんがうちの小太郎とやりあった時があったろ? 

林を駆ける時に、木の葉が服に掠る音が雀の鳴き声に聞こえたようでな。

姿は見えないのに音だけ聞こえるから、『夜雀』という妖怪の伝承に乗っ取って噂されているらしい。

最も、それが滝川一益の裏の姿だとは知られていないようだから安心しな」


クックックと氏政殿が笑って言う。

いや、知られてないって・・・。



「どうして氏政殿がそこまで詳しいんですか?」


「そりゃあ、小太郎に調べさせたからよ。珍しいんだぜ? 小太郎が他の家の男を気に入るなんて滅多にないんだ。だから俺も気になってよ」



あぁ、成程・・・そんなに気に入られてたのね。

思わず苦笑する。



「12歳で家督を継いで戦場に出るヤツなんて聞いたことがねぇ・・・、神童・滝川一益は調べれば調べるほど面白い話ばっかりだったぜ。

そういえば、お前さん、何かと北条家を気に入ってるって噂じゃないか」


「え゛っ、そんなことまで知られてるんですか」


「風魔の情報網ナメんなよ? で、どんなところが好きなんだよ」


「そうですね・・・」



うーん、と悩む。

そもそも織田家の身で堂々と「他家が気に入ってます」なんて普通は打ち首モノなんだが、何故か許されてるよな。


そんなことを思いつつも、ここは正直に答えることにした。



「余り深くは話せないですけど、遠い昔から、北条家の家族や民を愛する生き方が好きだったんですよね。

私は織田家の人間ですが、北条や徳川と手を取り合って乱世を終わらせたいと思うのです。

もしかしたら、前世が北条家の者だったのかもしれませんね」


と笑って言う。最後のところはウソだが。

前世は勿論、一般高校生だし。ただ北条家の人間に生まれたかったという望みはあったけどね。



「・・・なるほど、うむ。やはり聞いていた通り面白い男だな! 可笑しなことを言う!」


「・・・変なヤツ」


「・・・まぁ、自覚はしてますよ」



氏政は豪快に笑い、三郎にはジト目でディスられた。



「だが、我らの志を共有でき、信頼できそうな男だ。

これから北条家と織田家は同盟関係となるが、お前さんとは永くやっていけそうな気がするぞ!」


「・・・光栄です、氏政殿」


「これからは北条に用があれば、織田家の代表として一益、お主の名を出せ。

この氏政が世の安寧の為、お主に力を貸すことを誓おう!」



氏政はマントのようにかけていた羽織を翻し、そう宣言した。


それは他家の者である俺を最大限に信用してくれたということであり、俺にとってこれ以上とない幸福だった。



「はっ・・・、ありがとうございます!」


俺は頭を下げ、この人達とともに天下を目指そうと、改めて心に誓った。

あの失態以来消沈していた気分は、日に照らされたかのように晴れ晴れとしたものに変わっていた。





△△△




その後、奇妙丸と鶴千代を加えた6人で雑談した後、俺達は別れ、互いに本国へ帰ることにした。



「それにしてもすげぇな! 久助は! あの北条氏政に気に入られてんだから!」


「本当に、いつの間にな・・・。信頼関係を築いてくれるのはありがたいが、織田家を裏切ってくれるなよ?」


「しませんって・・・。少なくとも奇妙丸が生きている間は、俺は絶対に共にいますよ」



なんて、三人で話しながら、オタク魂に火が付きニヤニヤする俺は、岐阜に向かって軍を進めるのであった。









1569年、春。

念願の北条氏政との出会いを果たした久助は、全ての任務を終え、漸く織田領に帰還するのであった。



第二章 『1568~1569 久助、東国へ』 完



会話が多くて長くなりそうな回だったので、ところどころバッサリとカットしました。

なので文章が変になってないか心配・・・。


次回、久々に舞台は織田領に戻ります。




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