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閑話 とある年越しの滝川一家


「なんか半年ほど寝ていた気分だ……」


 そう呟きながら、久助は寝起きにしてはずいぶんと重たい瞼を擦ってこじ開け、積もる雪に冷やされた夕暮れの陽光に目を細めた。


 久助もこの世に第二の生を受けて早、二十五年。年老いたというにはいささか若すぎる働き盛りの年齢ではあるが、それでも十代や二十代前半の頃のピークともいえるパフォーマンスを求めるには少々酷だとも言えるくらいの年代に差し掛かり、冬の厳しい寒さも伴ってどうしても昼寝が恋しくなる日々を送っていた。


 激動の乱世を戦い抜き、ようやく安寧の日々をつかみ取った今日、流石に一切の憂いを断ったとは言い切れず未だ夜の世界での暗躍は終わりを見せないが、表面上の安息の日々を堪能する、そんなとある歳の大晦日であった――。




◇◇◇




「はぁ? 三九郎たちが居ない!?」


「私がついていながら! 大変申し訳ございませぬぅ!!!」


 『師』すらも慌ただしく『走』るほど忙しい月と言われる『師走』。その騒々しさにもようやく一段落がついたこの日のいよいよ年越しを迎えようかという夜更けの福井城に、昨年14歳となり元服していた真田弁丸―― 改め真田幸村は、下げた頭で床を突き破らんとする勢いで、子供らが突然いなくなったことを報告するのであった。


 ことの発端は本日の夕暮れ時、滝川家では家族全員が揃って夕食を取るのが日課であるだが、今日は一年に一度の夜更かしが許される日故……珍しく久助は夕餉の時刻を寝過ごし、また甲斐や三九郎・初芽らも『今宵は茶々らと夕餉を取るのだ』と言って、夕餉に姿を現さなかったのだ。


 してそんな言い残しを信じ切ってしまった幸村は、ここ数年は久助の近衛隊長として重用されつつ、甲斐の片腕として次の世代を背負うため、彼らの目付け役としての一面も担っており……。

 つまり彼らを見失ったことは大失態も大失態、ことがあれば切腹も辞さないほどのやらかしであった。




 はぁ……と頭を抱えながら、久助は周りの面々を見渡す。


 ニッコリとした笑顔を顔面に貼り付けて一切崩さないのは、幸村と同じく、三九郎の片腕として新しい滝川家を支える人材たる大谷紀之介―― 改め大谷吉継。


 そして我関せずといった態度で呑気に煎茶を啜っているのは、もう何年も前から一切外見が変わっていない『夜鷹集の怪異』こと千代女。



 ――ああ、これは


「出し抜かれてるのはお前だけだぞ、幸村よ……」


 誰に似たのか随分と底知れない思慮深さと胡散臭さを兼ね備えた吉継はともかく、本当に子供らが危機に陥る危険性があれば、千代女が黙っているわけがないのだ。

 先ほどとは違う方向にため息を吐きながら「仕方ない、久々に滝川家当主の出撃か……」と重たい腰を上げるのであった。




◇◇◇




 とはいえ、いくら広大な福井城といえど行動範囲はたかが知れている。

 流石にこの厳寒の中で場外に飛び出すようなことは千代女が放っておかないだろうし、寒いのが苦手な甲斐がこの雪中に突撃するとは到底思えない。

 となれば彼女らの行き先など大抵目星がついているのである。父親をナメてはいけない。



 ――滝川家長女・甲斐 お市の方次女・初は、それは大層な大喰らいである。――


 甲斐は兎も角として、三姉妹の中では引っ込み思案で大人しくか細いイメージのある初が想像を絶する大食いであるというのは、本人が恥ずかしがって隠しているのもあり、余り知られてはいない。


 しかし久助は知っている。()()()()()()()()()()()()、甲斐と初が揃って姿を晦ませれば自ずと居場所は割れるのだということを……!!



「見つけたぞ! お前ら摘まみ食いは程ほどに……」



 勢いよく空き放たれた『炊事場』の扉。

 そこでは夜更けに向けて用意されているであろう、年越しそばの出汁の、鼻奥を擽る心地よい香りがふわっと広がる。(一部の狂信者向けに『年越し伊勢うどん』なるものも用意されている。)


 しかし肝心の子供らの姿は無く、久助の眼前にひらひらと一枚の紙きれが舞い落ちる。

 そこに書かれていたのは……。




『初手炊事場予想は安直過ぎでしょ~

 草ぁ~^^            初芽』





「……『出し抜かれてるのはお前だけだぞ』、でしたっけ? フフッ」


「……」


 後から追ってきた吉継の容赦ない一言(煽り)に、初代‐夜雀は数年ぶりに本気を見せた。




◇◇◇




 ――全く、子供の成長の速さには度肝を抜かれましたね。


 とは、後にこの騒動を振り返った久助が語った言葉(負け惜しみ)である。

 

 というのも、久助が本格的に甲斐たちを探し始めてから凡そ二時間と、いよいよ手段を択ばずに夜鷹隊まで捜索に投入した一時間で、遂に甲斐たちを捕捉することが出来なかったのである。

 今でこそ笑い話になってはいるが、『夜鷹隊発足以来唯一の完全敗北の記録』として後世にまで語り継がれてしまうことを彼らは知らない。


 同時に『二代目・夜雀』『朱雀姫』と呼ばれた初芽が、前夜鷹隊頭領にして父である久助を初めてハッキリと超えた瞬間であったのだが、それについてはまた別の機会に……。




◇◇◇




 ゴオォ~~~~~ン……



 乾いた冬の夜空に、鐘の鈍くも透き通った音が漆黒を切り裂くように響き渡る。

 奔走していた家臣団たちも、皆一斉に足を止めた。


 久助も含めた一同が見つめる先……、普段は時刻を告げるために使用されている鐘が設置されている櫓の上には、どうやって夜鷹隊の監視網を掻い潜ったのであろうか、行方知れずだった三姉弟と三姉妹、更にはミケと鳶丸の姿があった。


 どやっ? と言わんばかりの表情で勝利の笑顔を見せつける甲斐に、久助は何とも言えない表情を浮かべる。

 初めから鳶丸(諜報部隊の頭)初芽(謀姫)に買収されてるんだから、それは見つからない訳である。むしろ終始錯乱され続けていたのではないかと……もはや項垂れるしかできずにいた。



 唯一の男児である三九郎が、力強く撞木を振りかぶり、再び静寂の夜に、新年を迎える音が響き渡った。

どうしても新年に間に合わせたかったので、ちょっと締めが中途半端なのはご愛敬。


一応本編とは直接的に繋がりはないIFストーリーとしての本編完結後の世界を描いているつもりです。

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