ドラゴン様の巣を興せ
「申し訳ありません……」
普段の威厳は何処へやら。
細い眉で八を掻いて、叱られた犬みたいにショボンと謝るゴシュジン。
「まぁ……なぁ……」
何と声を掛けてやれば良いものか。
謝罪の原因を横目に見る。ゴシュジンの後ろに積み上がった瓦礫の山を。
あの後、突然現れた手品師に巣の外に転送された俺は、遠くから一部始終を目の当たりにする事になった。
数分刻みで城の各所から放たれる光の柱。
それが、巣を貫くゴシュジンのブレスと言う名の極太レーザーだと知った時は衝撃だった。
けど、その時はまだ、あれは俺が修理しなきゃならんのか? と、今考えるとお気楽な思考をしていた。
絶句したのは、ゴシュジンが巣の天井をぶち破り空から極太レーザーをぶちかました時だ。
冗談みたいに旧魔王の砦が吹き飛んだ。
そう。この瓦礫の山は一時間前までドラゴン様の巣だったのだ。
「うぅ……竜化するまでは落ち着いていたのですが……」
「イエ、完全に眼がイってたデスが?」
「余計な事は言わんで良い」
ゴシュジン曰く、竜の姿になると感情の制御が難しくなるのだそうだ。
と、言っても俺が最初に見た時のように平静ならば短時間は問題無いと言う。
休眠から起こされたドラゴン様はとても機嫌が悪いとの事。だが、手品師に起こされた時はまだ不機嫌ではあったものの、手品師が言う『眼がイってた』状態では無かったと言う。
しかし、俺が一人で侵入者と抗戦しているのを見た時、完全に『眼がイった』らしい。
そんな状態で竜化? したもんだから、暴れるがまま暴れ尽くし、理性を取り戻したのは巣が瓦礫になった後だったという訳だ。
丁度その時、俺の胸に流れてきた激情。
話と照合すると、やはりあれはゴシュジンのもので間違い無さそうだ。
どういう訳かは知らんが、俺はゴシュジンの感情を共有していると考えて良いだろう。
「くっ……申し訳ありません」
何度目かもわからない謝罪。
「従者を守るどころか危険に晒すとは……。巣の無いドラゴンなど殻の無いカタツムリと同じ。主となる資格など……」
それはもうナメクジだ。
言ったら泣きそうだから言わないが。
「従うかどうかはこちらで決めるさ」
「それに」と付け加えながら、少しだけ勇気を絞って、昔妹にしてやったみたいにゴシュジンの頭に手をのせた。
頭一つ低いところにある、潤んだ宝石みたいな瞳がこちらを見上げる。
「俺を守る気持ちでゴシュジンがああなったのなら、そりゃ、俺が責められるモンじゃ無い。どっちかってーと……そうだな。嬉しいよ」
「うっ……くっ……」
何かに耐えるようにぷるぷると震えながら顔を俯かせるゴシュジン。
ダメか? あまり良い反応とは思えない。
妹なら頭を撫でてやれば機嫌が直ったモンだが、こんな手入れの行き届いた綺麗な髪をわしゃわしゃして良いものだろうか?
「本当は後悔しているのでは無いですか? こんなドラゴンの従者になった事を……」
「誓いの儀式? 実はアレ結構恥ずかしかったんだ。あんなのは人生に一度で十分。この人生、俺はゴシュジンの従者だ」
「……」
足元に向かって黙り込んだゴシュジンが、不意に体を傾かせたと思うと、俺の胸に顔を埋めた。
なんぞこれ? ……どうすれば良いんだ?
手を宙に彷徨わせていると、手品師がジェスチャーで抱き締めろと訴えてくる。とても良いニヤニヤ顔で。
少し癪に触るが背中に手を添えて、髪を傷付けないよう、流れに沿って頭の後ろを軽く撫でた。
反応は無い。
正解なのか? 女の扱いってのは経験が無いからわからん。
額を胸につけるゴシュジンに、なんとなくネコを思い出した。
そういえば、あの妙になついていたネコはどうなったんだろう?
その後、今後の事を話し合った。
結果から言えば俺が思っていたよりも事態は緊迫していた。
ゴシュジンの財産は全て巣の中。惨状を見る限り全滅だろう。
つまり、無一文。その上、巣は手品師の社の借り物だったから、損害賠償を払わなければならないと。
「それも、桁違いに膨大な……」
手品師は珍しく言い淀んでいた。額を聞いてもわからんだろうから尋ねなかったが。
そして、なによりこれから住む場所の事。
人型をしていてもドラゴンだと分かる者もいるから、人里に近い場所は止めた方が良いと。
加えて幼竜は魔素の濃い場所でないと、成長出来ないストレスから凶暴化するらしい。魔素とは、大気に漂う自然エネルギーだとの事だ。
凶暴化。そこら中がこの瓦礫みたいになるのか。
「凶暴化したドラゴンを止めるのは、従者の役目デス」
……なんデスと? 俺にあの極太レーザーの相手をしろと? 聖棺人形が機動戦士にでも変身しない限り、百割死ぬぞあんなモン。
ドラゴン様の巣か。竜って、多分他にもいるよな。なら……。
「なぁ、ゴシュジン。他のドラゴン様の巣に暫くお世話になるってのは……」
「巣を間借りするなど死んだ方がマシです」
胸の中のゴシュジンのつむじが、キッパリ却下する。
プライドに触ったのか、冷たい声。
いや、俺の方が死にそうなんだが。凶暴化ゴシュジンのブレスで。
「ドラゴンは家族以上の群れは作りませんから、客として招きはしても、他の群れと共に暮らす事は難しいデスネ」
「じゃあ、親御さんとかはどうだ?」
「……それこそ自害します」
さっきより数段重い声で言い放った。
顔は見えないが、俺の背中に回っている手がキツく締め上げてくる。
あれ、怒ってらっしゃる?
背骨が悲鳴をあげてるんですが? もう凶暴化した?
「良し、この案は無しだ。この案は無し。この案は無ーし」
大事な事なので三回言っておいた。
ふっと拘束が緩む。背骨折れるかと思った。
この小さな体の、いったい何処にそんな力があるのか不思議でならない。
人型でも強いんじゃ無いのか?
手品師が商社から新しく巣を斡旋する事は難しいと言った。
今回の件で、ゴシュジンの信用はガタ落ち。プラス大借金持ちに、ドラゴン様の巣に適合するほど優れた物件を貸す事を、社は許さないだろうと。
大借金当たりでゴシュジンがぷるぷる震え出したので、俺は無理矢理話を締め括った。
「纏めると、最優先事項は巣に適した環境を見つける事か。で、その後はちゃんと魔物やら罠やらで侵入者を撃退出来るようにするのが目標だな」
全くの零からスタートか。
「あと、借金の返済もデス」
……寧ろマイナス。ちょっと商売も考えるか。
なんだが、家無しで借金ありって、向こうの世界にいた時より状況が悪化した気がする。
しかし、そんな小さな事はどうでも良い。
要するにだ。
俺がこの世界でやるべき事は、ドラゴン様の巣を興せって事か。
―To Be Continued―




