マシロの魔宝と侵入者・下
『“中位火炎魔法”』
魔法陣から放たれた業火。
無我夢中で操った騎士がそれを叩き伏せた。
「なっ!?」
侵入者達の顔が驚愕に染まった。多分俺も同じ顔をしている。
本当に動いた。まるで魔法。いや、魔宝だったか。
侵入者に動く気配が無いので、さりげ無く練習してみると、騎士は錆びたロボットみたいな動きで一歩だけ踏み出し、止まった。
「何だ今の動き……?」
気が合うな。俺も同じ事を考えてる。
出だしは好調だったのに、コイツ全然思ったように動かないのだ。
腕を上げるよう念じると、体を動かすのがやっとだと言った風に腕を上げる。
まるで老人。息が出来たならゼェゼェいってそうだ。
「なぁ、あれってあんまり速く動けないんじゃないか?」
「あぁ、動きがおかしいな」
侵入者達は次々俺の心を代弁する。
勘が冴えてるのは良いが、今はその思いを胸に秘めておいて欲しい。出来れば俺の練習が終わるまで。
「良し! 中衛個別にタキシードの魔物を狙え! 前衛! 騎士を押さえるんだ!」
そうは問屋が卸さぬようで、キザ男が空気を読まずに指示を出した。
前にいた鎧を着た男達が得物を手に駆け寄り、後ろにいる奴等が魔法陣を展開させる。
「動きは愚鈍だ! 囲んで袋叩きにするぞ!」
「おうッ!」
ぎこちなく動く騎士はあっという間に侵入者達に取り囲まれる。
「くっ……動け」
俺の声に応える事も無く、彼らの言う愚鈍な騎士が、その胸に剣を受けた。
「──ぐあっ!?」
鋼を殴る武骨な音。それと共に、俺の胸に痛みが疾る。
痛覚を共有しているのか?
「そらぁっ!」
「がっ!」
考える内に頭に衝撃を受け、頭からドロリとしたものが流れた。
槍で突かれた騎士は一切の傷は無く、その銀色に鈍りは無い。
これは……痛覚の共有じゃ無い。俺がダメージを負担しているんだ。
「喰らえっ! “強槍撃”ッ!」
「グゥッ!?」
敵の得物が光ったかと思うと、一層強い衝撃を受けた。
何だ今のは? 魔法か?
四方から襲う痛みに少し前のトラウマを思い出す。ホームレス狩りのトラウマが。
血を拭うと、侵入者達が騎士から離れるのが見えた。
その理由はすぐに理解に至る。
敵の魔法陣が光を強めている。先に見た魔法の放たれる前の現象。
『“中位火炎魔法”』
「くらえ、正義の雷! “下位雷魔法“」
俺に向かい放たれる四筋の炎と、キザ男だけは雷を放ってきた。
「クソッ! 動けよ!」
騎士は動かない。
頭に炭になった自分が浮かび、即座にそれを振り払う。
違う。今考えるべきはそんな事じゃ無い。
「重要なのはイメージ」
何処かの手品師が言っていた。
昔、一度だけ見た人形劇。まだ俺が家族に守られていた時に見たそれを思い出す。
まるで生きているみたいに動く人形達。
想像しろ。その姿を。
どう動き、何を思い、如何に戦うか。
炎だろうと、雷だろうと薙ぎ払う騎士を思い描け。
俺の魔宝はそれを実現する力なんだから。
「一日に何回も狩られてたまるか! 動けよっ! お前は俺の魔宝だろうがっ!」
叫んだ瞬間ピンと糸が張るイメージが過った 。
繋がった。何故かそんな言葉が思い浮かぶ。
「ぐあっ!?」
文字通り敵を蹴散らして騎士が一歩。巨体から生えた長い足はそれだけで俺の前に躍り出た。
そこは雷炎の直線上。振り掛かるそれらを騎士が受け止めると一筋の煙も残さず、その悉くを消滅させる。
その一連の動きは、俺のイメージを投影したかのようだ。
「また魔法が消えた! 間違いない! その騎士、反発魔力持ちだ!」
マジックレジスト? 言葉の意味から察するに魔法への抵抗力か?
確かに、炎と雷を受けたにしては俺の体に影響が無い。あの騎士は魔法に強いと見ていいだろう。
何となくゲームを思い出す。どのゲームにもそんなメタルなモンスターがいるものだ。逆に魔法しか効かないモンスターも。
「騎士の方は捨て置くんだ! タキシードの魔物を狙え」
キザ男が叫ぶ。
さっきから気になってたが、タキシードの魔物ってなんだよ。本体がタキシードみたいに言いやがって。
猟犬のように素早く侵入者達が俺を囲む。
この流れは不味い。なんたって俺は若者に狩られるほど弱いのだから。
「──っ!?」
その時、俺の胸に燃えるような感情が奔流する。
反射的に奴等の後ろ。視界の奥に目が動き、侵入者では無い人影を捉えた。
この感情は彼女のもの、不思議とそれは確信だった。
「なぁ、そこのキザ男。お前、俺達が悪でお前らが正義みたいな事言ってたよな?」
「キ、キザ男?」
キザ男が頬をヒクつかせた。自覚無かったのか。
「残念だったな。お前らが例え正義のヒーローでも所詮ライダーレベルだ。怪獣を倒したけりゃウルトラ呼んで来い」
「ライダー? ウルトラ? 君は何を言ってるんだ?」
まぁわからんわな。この世界にウルトラがいるとも思えん。だから、分かりやすく斜め上を指差してやる。
奴等がそちらに振り返ったのは、丁度光が晴れて、その姿を露にした時。
怪獣――我がゴシュジンの麗しき姿。黄金色に煌めくドラゴン様のその姿に、どいつもこいつもが口を開けたまま凍り付いている。
何だよ、お前ら竜退治に来たんだろ。何て顔してんだ。
「は、話が違うぞ!」
「何処が幼竜だ! どうみても成竜じゃないか!」
「グ、黄金竜ッ!?」
何やら騒いでいる侵入者達を、ゴシュジンは何を考えているのか解らない眼で見下ろしている。
何だか先に見た時と雰囲気が違う。
姿は同じだが、さっきは厳かで眼に優しさがあった。けど、今はその眼に腹を空かせた猛禽類のような獰猛さを感じる。
「ガアァアァアァァアアッッッ!」
ゴシュジンが天に吠えた。その様はやはり怪獣。
鼓膜に突き刺さるような叫びに思わず耳を押さえる。見れば侵入者達も同じ格好をしていた。
一分ほど大気をぴりぴり揺らしていたゴシュジンは、やっと終わったと思うと長い首をグルンと回して侵入者達に頭を向けた。
動けない侵入者達に開かれた口。その口に雷光が迸る。
胸から――従者契約の魔法陣から伝わる、ドス黒い激情。憤怒。
とても嫌な予感。
「ブレスだっ! 逃げろッ!」
侵入者達が蜘蛛の子を散らしたように駆け出す。
と、その時。突然目の前にぼふんと手品師が現れた。その顔は珍しく焦っているようで――
「撤退デス! この巣は恐らく崩壊するのデス!」
―To Be Continued―




