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ドラゴン様の巣を興せ!  作者: 三流ろっく
第四章 ドラゴン様とヴェルキアの懐剣
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第四十八話 ドラゴン様の無礼講

「ゴシュジン。ドラゴン様は酔わないんだよな?」

「はい……ヒック……んふ……ふふふふふ……」


 俯いたまま、不穏な笑い声を響かせるゴシュジン。

 俺のジョークが今ごろツボに……では無いよな。いや、そもそもこんな笑い方をするお方では無かった筈である。


「ふくくくくくく……」

「……ゴシュジン? もう一度聞いて良いか? 酔ってるよな?」

「酔う? もぅ、まひろったらぁ……わたしぁドラゴンですよぉ? 酒精などぉ……水と変わりまひぇん」


 何処ぞのワンコ三兄弟のような呼び方をしながら、ぬらりと顔を上げるゴシュジン。

 その肌には桜色がさし、目尻は垂れ。お前は誰だと言いたくなるほど締まりの無い顔であった。


「あぁ。完全に酔ってら」

「ドラゴンが酔うにゃら、農婦は笑いますねぇ」


 と、ケラケラ笑い出す。

 言ってる意味がわからん。こちらの諺か?


「このお水ぅ。美ぉ味しい。ドラゴンの山で取れた水ぅ」


 いや、多分本当に意味は無いのだろう。

 ザ・酔っぱらいである。


「喉乾いたぁ。どぉれぇにしぃよぉかなぁ。れてぃさまの言うとおりぃ」


 遂には神様になってしまった酔っぱらいがテーブルの上の酒を吟味し出したので、颯爽と纏めて奪い取っておく。

 一杯でこれである。これ以上は不味い気がするのだ。なにしろ持っているパワーが違うので、暴れられた時の被害は人智を越える。

 さて、ゴシュジンの言が真実なら普通の酒で酔うはずが無い。原因はこの中にあるのだと思うのだが。


「あぁ。まひろが意地悪するぅ。返ひてぇ」

「意地悪じゃない。離……酒臭ッ!? 」


 ふにゃふにゃとした動きで腕にしがみついてきたゴシュジンを振り払おうとして気付く。ピクリとも動かない。

 この酔っぱらい。力加減がまるでわかっていないようで、ふにゃふにゃしている癖に万力に締め付けられているようである。


「これらぁ!」

「なっ……?」


 全力で抱えていたのに、ドラゴン様の手は軽々と俺の両腕から瓶の一本を抜き取っていく。

 何て事だ。力の差が歴然過ぎて俺では守り切れない。

 抜き取られた瓶が最強の酔っぱらいを作ってしまった原因で無ければ、ゴシュジンにとっては正しく水だ。渡してしまっても構わんだろうが。どれ。


 名称……ドラゴンブレス。

 分類……武器。古代魔法酒。

 品質……上質。

 説明……対ドラゴン用に作られた最強の酒。人が飲めば喉から火が出る感覚に陥る事からこの名が付いた。揮発性が非常に高いので火元には注意が必要だ。


 いや、絶対それだろ。

 誰だこんな爆弾送りつけやがったのは。


「開けぇ……ゴマ!」


 空手家も真っ青。

 竜のデコピンは瓶の首部分を消滅させる。今知った。

 揮発性のくだりはどうやら間違っていなかったようで、開かれた瓶の口からは濃密な酒の匂いが溢れる。

 その激臭に一気に先ほどの臓腑を焼かれるような悪夢がフラッシュバックし本能的に呼吸を止める。が、膝の上から悲鳴が聞こえた。

 パタリ。頭を脱力させるミーア。

 鼻の良さのせいか。猫には効果が抜群であったようで、静かに意識を失っていた。

 どんな酒だ。


「待て待て待てぃ!」


 叫んでみるものの、俺如きにドラゴン様が止められる訳も無く。

 片手で俺の動きを制したゴシュジンは頭の上で瓶をひっくり返し、麦色の液体は然るべき場所。即ち、空を仰いだ酔っぱらいの、あんぐりと開いた口の中へと流れ落ちていく。

 水音と共に鳴る喉の音。

 俺はそれを、ただ見守ることしか出来なかった。

 やがて瓶から流れる麦色の滝が水滴へ形を変えると、ゴシュジンは惜しむように瓶を上下に揺する。

 しかし、その水滴さえも落ちてこないとわかると、ゴシュジンは俺の肩を離して両手で瓶を胸の前に持っていき、実に寂しそうにショボンとした視線をそれに落とした。


「無くなっちゃっち……」


 ちゃっち?


「ふにゃ……」


 およそゴシュジンとは思えない声を漏らしながら、瓶の断面に付いた水分をペロペロと舐め取り出す。

 俺はと言えば、その隙に残った瓶を『収納』(ストレージ)に緊急避難させた。

 他にドラゴン様を酔わせるような酒は無いとは思うが、一応である。


「ラ、ラティーシャ様?」

「うにゃ?」


 狐娘が瓶に舌を這わせるゴシュジンを見て、黒い太陽を見たかのような顔をしていた。

 つまり、信じられないといったような。

 その両手には水差しが。そういえば、狐娘に頼んでいたっけ。すっかり喉の乾きなど忘れてしまっていたが。


「そのご様子は一体……?」


 ゆらゆら揺れるゴシュジンの頭越しに見る狐娘は相当に戸惑っているようで、視線が俺とゴシュジンの顔を行ったり来たりしている。

 アイコンタクトで刺激するなと伝えると、狐娘はコクコクと首肯した。


「むっ」


 それに反応してか。

 今度はゴシュジンが俺と狐娘に視線を行き交わせ、やがて俺の顔に落ち着けると。


「……むぅ」


 おちょぼ口になった。

 その拗ねたような口で言う。

 

「ましろ。くぅが来まひたよ」


 反応に困る。だから何だという内容だ。


「クゥが来ました。嬉しいれすか?」

「あぁ。いや、何だ。襟を引っ張るな」


 カツアゲされてるみたいだから。あと、酒臭いから。

 これは、絡み上戸なのだろうか。

 ゆらりゆらりと。

 近付いたり離れたりを繰り返すゴシュジンの顔は、その口の形もあってか少し不機嫌そうである。

 距離感が取れていないのか、たまに額が当たりそうだ。


「あの、ラティーシャ様。お水を飲まれた方が……」


 ゴシュジンが酔っていると判断してくれたのだろう。

 俺の襟を離して狐娘の声に振り向いたゴシュジンは、やはり頭をゆらゆらさせて「ん」と瓶を突き出した。

 これも普段ではありえないぞんざいな仕草であるが、狐娘が気にする風も無く瓶に水を注ぐと、ゴシュジンはそれを一気に飲み干した。


「おかわり」

「あっ、はい。少々お待ちくださいませ」


 瓶と水差しでは容量が似たり寄ったりであったようで、再び狐娘はパタパタと駆けていった。


「落ち着いたか?」

「…………」

「ゴシュジン?」


 とんっと俺の胸の中に、ゴシュジンの背中が落ちてきた。

 みぎゃあ。と、変な声が聞こえた。挟まれたミーアの声であろうが、だが、そんな事よりも、だ。

 反射的にと言おうか。本能的にと言おうか。

 ついその細い肩を抱きとめてしまったのだが、肩の上に置いた筈の左手は強引に位置をずらされ、少し朱のさした首の横まで引っ張られる。

 そして、金色の後頭部が傾いたかと思うとそのまま頬が乗せられ、余った指先にも添えるように指が重なった。


「んふふ。よろしい」


 何がよろしいのか、すりすりと頬を擦り付けてくるゴシュジン。

 頬は柔らかく熱を持ち、反してキメ細かな指先はひんやりとしていた。

 自分とは、別の体温が伝わってくる。


 変な気分である。

 反射的と言えば。本能的と言えば。

 俺が触れ合うこの手に抱くのは、本来抵抗感であるはずなのに。

 それなのにだ。多少年の離れた外見であるから、女と意識せずに済む事も鑑みて。であるが。

 胸に乗る体重も含め、臆す事も無くこれを受け入れている自分がいる。離れたいと思わない。

 つまり。うむ。うん。変な気分である。

 こんなものは、俺の中に無かった筈なんだ。


「出会った日も。ましろは抱き締めてくれましたね」


 旋毛に含み笑いを。言葉尻にしゃっくりを添えて。危なげな口調でゴシュジンが呟いた。

 少し落ち着いたようである。


「そんな事もあったか」

「ありました」


 あの時もこの綺麗な旋毛と喋っていたな。覗く角度は違うが。

 しかし、あの時と比べれば、頭の天辺が近い気がする。座っている事を抜きにしても。

 俺が縮んだという訳では無いかろう。

 と、なると。


「ゴシュジン。背、伸びてないか?」

「はい」


 即答。

 いや、おかしいだろ。俺の知識ではドラゴンの人型は一、二年ほどで完成する筈である。


「まさかとは思うが、ゴシュジンは一歳児なのか?」

「んふふふふ。まさかですよ」

「だよな。安心した」

「私は黄金竜ですから」

「……それが、理由になるのか?」

「さて、どうでしょうか」


 今度は曖昧に。

 ふむ。真意のほどは如何程か。酔っている今では判断を付けにくいな。顔も見えんし。


「月が綺麗ですね」


 見上げると、満月がこちらを覗いていた。


「初めてゴシュジンの背に乗せてもらった夜も、あんは月が目の前にあったな。ゴシュジンには当たり前の景色なんだろうが、おれにはあの月が一生の宝物だ」


 我ながら、臭いなと思う。

 飲んでいなければ吐けない台詞である。まぁ、とっくに冷めているのだが、それは内緒で。

 しかし、そう呟いた途端である。

 囚われの左手が解放され、ゴシュジンの顔がくるりとこちらを向いた。


「マシロは、空が好きなのですね!」

「あぁ」


 満面に希望を振り掛けたような表情。

 驚きを隠した俺の短い返答はゴシュジンの及第点に達していたようで、実に満足げにうんうんと頷いて見せた後がっしりと俺の両肩を鷲掴みにした。

 そして。


「では、今宵は空を楽しみましょう」

「は?」


 ゴシュジンの体が光の粒へと姿を変えていく。

 魅力的であり突拍子の無い提案は予定では無く決定であったようで、その光は竜を象り始める。

 あぁ、そう言えばこの方、酔っぱらいであった。酔っぱらいドラゴン様であった。

 一斉に音が止まる中、雑音一つ。視界の奥で水差しを落としている狐娘がいた。


「ちょっくら空を飛んでくる……らしい」


 巣に危害は無いと思う。多分。

 まぁ、折角のお誘いだ。こんな日が一日くらいあっても構わんだろ。

 てな訳で。


「留守番よろしく」



―To be continued―


双子の月 二十九日~三十日目


収支報告 

      13,000G 元資金

+      105,000G 保険加入

+     20,000G 高級弁当

+       7,600G とんがり屋(二日分)

-       1,000G 食料購入

-       3,000G 生活雑費

-       5,000G 村修復諸費

-       1,000G 耕作諸費

-     20,000G ノール仮設部屋増設

-     87,500G 返済

──────────

資産     28,100G

借金 111,163,500G


経過報告


人員      4名

来客      0名

奴隷       13名

魔物

高階梯     3匹

戦闘員      30匹

非戦闘員     17匹


設備

決闘の間、待機小部屋、第二待機部屋、リザードマンの大部屋、湖の間、調理設備、上下水道、宝箱(×12)、風呂、ランランの大部屋、インプの大部屋、ワームの大部屋、グレムリンの大部屋


クエスト 魔女文字翻訳(50/50)

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