第三十八話 ドラゴン様と冒険者の乱獲
「お前達。我はこの男と話があるゆえ、暫しの哨戒は頼んだぞ」
「はい。母殿! じゃあなマヒロ!」
マシロな。別に構わんが。
ワンコ三兄弟がポチ神譲りの俊敏さで山に消える。
妙に尻を振る走り方の一匹が印象的である。
「哨戒とはまた物騒な言葉だな。何かあったのか?」
「話と言うはそれよ」
そう言うと、ポチ神は息を落として語りだした。
人は山を侵さず、魔物は人を襲わず。
互いの活動範囲を定め干渉を断つ事によって、無駄な争いを無くす。
ポチ神は山の主となった時にペタの村と話し合い、この不可侵の誓約を結んだそうだ。
だが、最近になり人間の手によって被害を受ける魔物が相次いでいると言う。
その原因は急激に村に増えた冒険者。その一部が魔物を狩っているとの事だ。
被害を聞いたポチ神は、山の主としてその不届き者達を捕まえた。
「我はな。そやつらに山を侵す理由を問い詰めたのよ。聞けばマシロも呆れようぞ」
レベル上げ。素材集め。酷い者になると暇潰しがてらの運動だと。
しかも、そいつらは誓約を知らなかった。
ポチ神はそれを聞いてペタの長老と連絡を取ったが、誓約では外者の行動まで抑える責任は無いと宣ったらしい。
人間性の知れる答えである。儲けに目が眩んでいるのが丸わかりだ。
抑圧して冒険者が来なくなれば、その落とす金も消える。
それを恐れて、見て見ぬフリを決め込んでいるのだろう。
確かに呆れた話だ。
「人族の考えはわからぬわ。かつての首長は話のわかる男であったが」
ポチ神が憎々しげに言った。
「人間の俺でも村の考えは理解し難いぞ」
村のヤツらより、ポチ神の方がよほど文化的だ。
あんな村で育って、狐娘は良くひねくれなかったもんだな。バァさんに感謝だ。
「今は我らが追い払っておるが……好戦的なオークやノールに被害が出たならば、彼奴等の報復の刃を止めるは我とて難しかろう」
オークは豚の魔物で、ノールはハイエナの魔物だったか。
そいつらが人を襲えば、今度は軍が討伐に来るかもしれんな。そうなりゃこの山は戦場になる。
反対側から考えて初めて気付いたが、人間ってのは極めて面倒な生態だな。
「俺の知らん所でえらい事になってたんだな」
「何を呑気な事を言っておるか。その原因は竜の小娘にあると知れ」
「む。そう言われると返す言葉も無い」
冒険者はゴシュジン目当てで集まっている。
一匹棲み着くだけでそんな騒ぎになるなんて、ドラゴン様ってのは本当に大変な生き物なんだな。
もっと、周囲に与える影響を考えるべきだったか。
そんな事を考えていると山の奥から犬の遠吠えが響き、ポチ神がピクリと耳を動かした。
「子らが呼んでおる。竜の小娘に伝えておけ。起こした火の始末は己でやるものだ」
ポチ神は伝言を預けると、俊敏な動きで山の中へと消えていった。
なんとかしろってことね。しかし、難しい問題だな。
冒険者とは元々からして根なし草の集まり。
叩けば蜘蛛の子を散らすが、旨味があればそこに群がる。
騎士団の力を利用して竜の巣を攻められる事は、彼らにとってこれ以上無い旨味だろう。そう簡単に手放すとは思えん。
「どうしたもんかね?」
「にゃ」
◇◇◇◇◇
「簡単な事ではないですか」
件の事情を話したところ、ゴシュジンはそう心強い言葉を返してくれた。
そして、その手を自身の胸にポンと当てて本当に簡単そうにこう放つ。
「私達の巣に来れば良いのです」
「なんの話だ?」
「山の魔物の話でしょう?」
いや、冒険者の乱獲対策の話だった筈だが。
ゴシュジンは俺がおかしな事を言ったかのように、キョトンとした顔を浮かべて続ける。
「危険を脅かされる魔物を私達が保護すれば、万事解決ではありませんか」
「ふむ。つまり、リザード達みたいにここに移住させるということか?」
「その通りです」
えっへんと見せつけるほどでもない胸を張るゴシュジン。
妙案を得たような顔だが、山の魔物を纏めて移住って……そんな事が可能なのだろうか。
「マシロ。あの犬に伝えてください。我が巣の門はいつ何時、誰に対しても開かれていると」
なんだその教会とプロレスラーのキャッチコピーをごちゃ混ぜにしたようなフレーズは。
大体、我が巣の入り口は常に開けっ放しで門なんざ付いてはいないだろう。
「んな事言っても予算が無いぞ」
受け入れるにしても、金が必要だ。
食費はもちろんの事、リザードマンは元から岩穴暮らしだっから良かったものの、そうで無い魔物は生態にあった居住スペースを作らねばならん。
そのリザードマンだって、五十近くが暮らすには手狭だから、拡張を考えていたところだと言うのに。
それも迎える種によっては、また一波乱起こりそうである。
特に、俺の知識によればオークはどんな種とも交わる何処ぞの雄竜のように好色な種であった筈だ。
そんな奴等と共に生活すれば、巣の風紀が乱れる事請け合いである。
「では、見捨てろと言うのですか?」
「……むっ」
それは確かに認められん。それをするならば、俺はペタの村の連中と同類だ。
しかし、現在の持ち金はゴシュジンの翻訳報酬から返済額を引いて約三万G。
リザードマンの食料は月末分まで買い込んでいるが、月末には家賃も払わねばならん。心許ないにも程がある。
だが。
「俺達が原因だ。見捨てるという意見は無い」
俺の答えにゴシュジンは満足そうに笑った。見据かした上での問いだったか。
「仕方ないな。他に案が浮かばん限りそれでいこうか。まだ山の魔物が巣に入りたがるかもわからんし。取り敢えずポチ神にその旨を伝えて、移住を希望する種を調べてもらおう。それによって額面も変わるからな」
「……ポチ神? それはまさか、あの山の主の事ですか?」
ゴシュジンが喉に小骨が刺さったような怪訝な顔を浮かべる。
「ん? そうだが?」
何が引っ掛かっているのか……って、あぁ。ポチ神って俺が勝手に付けた名だった。
それでポチ神もわかってなかったんだな。そりゃあそうだ。
「ふふふ。ポチ神ですか。なるほど、あの犬がそんなに滑稽な名前だったとは」
いや、本名は別だったと思うぞ。何神だったかは忘れたが。
まぁ、ゴシュジンが嬉しそうに笑っているから良しとしよう。
そう思いながら、俺は肩上の不思議空間に手を突っ込んだ。
「それはそうとゴシュジンよ」
そして、取り出したるはばっさばっさと揺れる紙の束。
それを見たゴシュジンの顔が見る見る曇っていく。
「また……翻訳ですか?」
「また翻訳です。ゴシュジン。魔女文字は読めるか?」
「読めるには読めますが、最早竜語の翻訳ですらないのですね……」
がっくりと肩を落とすゴシュジン。
そんな顔するなよ。内職だって立派な仕事だぞ。
これからはもっともっと金が掛かるのだ。ゴシュジンには頑張ってもらわねば。
今日思い付いた金策も試してみるか。
あとは数が増えた時の食費が不安だな。只でさえ嵩んでいるというのに。
ふむ。こうなれば、いよいよ本気で畑でも耕すべきかもしれんな。ゾンビ以外が生る畑を。
―To be continued―
双子の月 二十三日目
収支報告
1,000G 元資産
+ 100,000G 翻訳クエスト
- 70,000G 返済
──────────
資産 31,000G
借金 111,321,000G
経過報告
人員 4名
来客 0名
魔物
高階梯 3匹
戦闘員 30匹
非戦闘員 17匹
設備
決闘の間、待機小部屋、第二待機部屋、リザードマンの大部屋、湖の間、調理設備、上下水道、宝箱(×12)、風呂、ランランの間
クエスト 魔女文字翻訳(0/50)




