第十七話 従者さんの決意
「十万Gデスか。少しだけ借金が減りますデスね」
一気に現実どころか、地獄に落とされた気分だ。
そういえばありましたね。そんなのが。クソッタレ。
「借金?」
狐娘が首を傾げている。あぁ、コイツは知らないのか。
「俺達は訳あって手品師の商社に借金があるんだ。それも、締めて一億一千二百万Gのな」
「いちおくいっせん……」
狐娘はそれだけ反芻すると、暫くの間沈黙を守り、声を裏返して、「え?」と言う理解したのだろうが、理解し難いのであろう一音を漏らした。
わかるぞ。その気持ち。俺も最初は逃避したものだ。
「ドラゴン様ほどとなるとな。その……借金一つでもスケールが大きいんだよ」
「スケールで御座いますか……」
と、精一杯のフォローをしておく。
視界の中で一億の借金持ちと、一千二百万の借金持ちが視線を下げて分かりやすく落ち込んでいた。
「手品師よ。それは、暫く待ってもらう事は出来んのだろうか?」
すっかり意気消沈してしまっているゴシュジンに代わり俺が答えるが、手品師は首を二回横に振る。
「これだけの纏まった収入があって返済してもらわなければ、商社の立つ瀬が無いデス」
「そうか。鬼か悪魔のような女だな」
「言葉のトゲが凄いデス。全く隠す気無いデスね」
「だってそうだろう? 俺達は今、火急の時だと言うのにその対策資金を全て巻き上げようってんだ。この外道」
今は騎士団の件もあって金が必要なんだ。
毒をたっぷりと含ませた言い様に、手品師はやれやれと言った風に肩をすくめた後、少しの間唇に指を添えて、考える仕草をつくってから再び口を開いた。
「返済してもらわなければ示しがつきませんが、全てを奪ってしまうのは確かに非道外道デス」
そう前置きして手品師の出した案は、商社が信用するに足る契約を取り決めるというものだった。
商社では契約が第一。信用を得る為には信用を得る為の契約をしろと。
そして、その契約とは収入の何割かを返済に当てる事。
「何割かってどのくらいだ?」
「額が額なので……そうデスね。商社を納得させる最低ラインは、一万G以上の収入から七割と言ったところデスか」
「守銭奴」
「誉め言葉デス」
「垂れ耳」
「私を攻撃しても仕方無いデスよ?」
くそぅ。手品師の言う通りだ。こんな子供染みた八つ当たりは確かに無意味。
その契約だと、十万Gから七割引かれて三万Gが残る。
大分減るが、残るだけマシと考えるべきか。こっちは借りている側で、他に道も無い。
「ゴシュジン。それで良いか?」
「……マシロが良いと言うなら任せます」
ゴシュジンは沈んだ表情のままだった。自分の負い目に対しては打たれ弱い所があるな。ゴシュジンは。
騙されやすいタイプとも言う。まぁ、嘘を見抜く目があるから、問題無いのだろうが。
「ては、契約書にサインをお願いしますデス」
手品師が一枚の紙を取り出すと、空白の所にサラサラと新たな項目を書き足し、ゴシュジンに手渡す。
初めて見た。借用書。それにサインするゴシュジン。凄まじく生々しい。
「俺も見せてもらって良いか?」
紙を受け取り、俺も一応目を通す。手品師がゴシュジンを騙すとは思えんが、一応だ。……と、そこには俺の知らない事実が書かれていた。
「年利五パーセント!?」
「あれ? 知らなかったのデスか?」
知らんよ。こんなモン。
考えてみれば借金に利息はつきもの。商人がそれを取らない筈がない。
五パーセントがこっちで安いのか高いのかは知らんが、元金が一億一千二百万だ。となると、年間で五百六十万の利息が着く。
つまり、年間にそれ以上の返済を行わなければ、借金は増えていくばかりだという事だ。
月平均で約四十七万以上は稼がねばならない。なるほど、ゴシュジンの信用が無いのも頷ける。
どうでも良いがさっきから“自動会計"のスキルが便利だ。考えた瞬間に答えが出るから天才になった気になってくる。
借金は追々返済していこうと考えていたが、そんな利息があるのならば、これまで以上に余裕は無い。
そして、契約。収入から七割減ると考えるならば、生活資金は三倍稼がねばならない。一万以上との取り決めは、せめてもの救済措置だろうか。
とにかく金。俺達には金が必要だ。
◇◇◇◇◇
金を稼ぐには人手がいる。人を雇うには金がいる。
堂々巡りのエンドレス。結局この世は金を持っている奴が金儲け出来るシステムなのだ。
そんな事を考えながら、俺は山を歩いていた。
村で買った縄で作った足括り罠を各所に設置。“鑑定眼"で食べられる野草やキノコ、薬草などの金になりそうな物を探しながら。
「む、ペペ草発見」
自生している野草を摘み、背の篭に入れる。
結局はこうやって真面目に働いて金を稼ぎ、その資金で大きな仕事をこなす。そうやってコツコツ積み立てて成長するのが、人として正しいのだろう。
だが、それは普通の理屈だ。俺達のような異常な状況で無ければの話。
何としてでも金が要るならば、人手が無かろうと、無茶をしようと稼がねばならん。
形振りなど構っていられないのだ。
俺は陽の傾きを確認して、ギルドを訪れた。
「どうしたアンちゃん? まだ何か用事か?」
いつも暇そうにしている受け付けのオヤジが、一度こちらを見た目を興味無さげに新聞に落として言った。
実は俺はギルドを訪れるのは本日二度目で、朝一番にクエストを請け負っている。
だからオヤジは、クエストを終えたなどと考えていないのだろう。実際、俺は山を散策していただけだしな。
そんなオヤジに一枚の紙を叩きつける。
「クエスト終わったぞ。これが、竜の巣の見取り図だ」
俺の請け負ったクエストは、竜の巣の調査クエスト。
その紙は巣の八割程度の地図だ。水の魔法を使うモンスターがいる嘘情報も書いてある。
金。金が必要なのだ。例え自分に不利な情報だろうと、金に変わるのなら売り払わねばならんほどに。
オヤジは新聞に向けていた訝しげな視線をこちらに滑らし、紙を受け取った。
そして、俺の渡した紙ともう一枚の紙を見比べ、その顔を徐々に驚嘆の色に変えていく。
見た所もう一枚の紙も巣の地図。それと見比べて、間違いが無いか確かめいるようだ。
俺の物より圧倒的に情報は少ない。恐らく前日の女の侵入者が渡したものだろう。
「……本当みたいだな。どうやったんだアンちゃん?」
オヤジが半ば呆れたような視線を向けてくる。
当然の反応だ。
俺がクエストを受けてから、巣と往復するくらいの時間しか経っていないのだから。
普通じゃあ、調査する時間なんてある筈がない。
「企業秘密だ。報酬は弾めよ。あと、これでもっと金になるクエストも受けられるよな?」
報酬が高く、難易度の高いクエストを受けるにはギルドの信用が必須。だが、これである程度はクリアした筈だ。
なんせ、単身最短で竜の巣の調査の殆どを終えたのだから。
俺は差し出されたクエストの中から、最も短時間で金になりそうな以来を選び、再び受領した。
金。俺達には金が必要なのだ。
―To be continued―
双子の月 六日目(晩)
収支報告
+ 30,000G 竜の巣調査
- 21,000G 返済
- 70,000G 返済
──────────
資産 43,000G
借金 111,909,000G
経過報告
人員 4名
魔物 1匹
設備
決闘の間、待機小部屋、湖の間




