第九話 ドラゴン様の大借金
食事後。手品師を交えて今後の行動指針を会議。
議題は想定外に得た資金の運用と今後の金策に侵入者対策の三つ。
資金は買い貯めた暫くの食費を抜いて三千G。その運用については、既に相談して決まっている。
「この決闘の間の壁を抜いて、一つ部屋を作って欲しい」
「部屋デスか? どのような物をお考えデス?」
「ゴシュジンが生活出来るくらいの部屋だ」
現在、俺達はこの決闘の間で寝食を行っているが、雨が降れば洞穴に逃げ込まなきゃならんし、こんなモンは野宿と変わらん。
俺とフェイランは良いが、ゴシュジンにはちゃんとした部屋が必要だ。
そして、ゴシュジンが生活をするのは、この決闘の間の付近が好ましい。
ここは巣の最奥で一番安全だし、ゴシュジンが竜化して戦えるのはこの決闘の間だけだ。
ゴシュジンの竜化は推奨出来ないが、いざと言う時もある。心が乱れていなければ短時間なら問題無いと本人も言っている。
なにせ、ドラゴン様だ。短時間でも戦力としては大きい。リスクも大きいが。
まぁ、いざという時が来ないのが一番良いのだが、前回を鑑みるにそうも言っていられないだろう。
その為、この決闘の間に隣接した所に生活スペース兼、待機部屋を作ってしまおうと言うのが、俺達の考えだ。
「三千Gデスと、岩を削ってスペースを確保するくらいしか出来ませんが、よろしいデスか?」
「あぁ、それで構わん。また金が余ったら装飾やら拡張やらを頼むよ」
次に金策……と、言うより節約だが、俺に一つ案があった。
このただッ広い決闘の間の一角で作物を育てる事。種は幸い村で売っていたので買っておいた。
「これはフェイランに任せたい。土の四天王だから、土弄りは得意だろ?」
「……そういうのは水の四天王の分野です」
どんよりと言葉を返すフェイラン。にしても、冗談だったんだが。便利だな。水の四天王。
「……けど、それが御二方の助けになるのでしたら、このフェイラン。身命を賭して言葉に従います」
胸の前で袖を重ねて、いつものお辞儀をするフェイラン。
畑に身命は賭さんで良い。やはり何処か投げ槍になってしまっている。
「俺はその作物を作る為の水源を確保する」
フェイラン曰く、この洞穴には水脈があるらしいのだが、調べた結果、そこに至る道が長い年月を経て瓦礫で塞がってしまっていた。
暫くは、その撤去が俺の仕事だ。
まぁ、相手は無生物だ。『繰糸』を使えば難しくはなかろう。
「では、私はドラゴンがこの地に降りた事を示すとしましょう」
「示すってどうやるんだ?」
「なにも難しい事はありません。空を飛び回り、周囲の目を惹いたら巣に降りるだけです」
空を飛んで……竜化してって事か。
ゴシュジンは空を飛ぶだけなら、凶暴化の心配は無いらしいし、空飛ぶドラゴン様に喧嘩売るヤツも居ないだろうから問題無いだろう。
ドラゴン様が棲んでいるとなれば、付近の人間は貢ぎ物を捧げる。
どうせ俺が漏らした情報からドラゴン様がいる事はバレているから、どうせなら大々的に宣伝してやるという腹積もりか。
その額が如何程の物かはわからないが、ドラゴン様の収入源と言うくらいだから、期待しても良いだろう。
あとは、侵入者対策だが、フェイランが既に巣のコウモリを使い魔にして徘徊させているとの事だ。
「敵を見つけたら、超音波でボクに教えてくれます」
なんだか魔物チックな伝達方法だ。実際俺にはそんなモン鳴らされても分かる気がしない。
ただ、コウモリに戦闘力は無いから、魔力が快復したら他に使い魔を作ろうかと思っていると。
流石元土の四天王で元巣の主。そういう所には慣れている。
「お話が一息ついたところで、一つ良いデスか?」
話も終ろうかという時、手品師がひょいと手を挙げた。
「社の方から、前回の巣の崩壊に対する損害賠償をラティーシャ様にお伝えするよう申し遣っておりますデス」
あまり聞きたく無い内容だ。出来れば忘れていたかった。
「……聞きましょう」
ゴシュジンの声が強張っている。
「約一億G」
「一億ッ!?」
思わず声が漏れる。聞き間違いだと思いたいが……。
一億。その言葉は竜の咆哮並みに俺の頭に染み付いて離れない。
桁違い。五千Gで浮かれていた俺には文字通り。
一億ってゼロ何個だっけ? 一億個?
「ショックを受けている所申し訳無いデスが、まだあるデス」
手品師が何か言ってら。あぁ、景色がぐにゃぐにゃする。
ゴシュジンが頭痛を堪えるような仕草をしている。同じ景色が見えているのかもしれない。
「この洞穴は我が社と先代魔王間で賃貸契約を交わしておりますデス。その際、取引したのは私デスから、良く覚えているのデスが……確か、賃料は月額一万Gデス」
一万? あぁ、ゼロが四つか。今はそんな端金は問題では無い。
「嘘だっ! ボクはそんなの払ったこと無いぞ!」
「先代魔王が存命中はそちらから頂いていたのデスよ。デスが、亡くなると同時に支払契約は巣の主たる参号に移る筈デス。契約書を書いたのを覚えていないのデスか?」
「契約書……書いた……かもしれない」
「つまりは参号。アナタ、家賃滞納してるデスよ。百年分」
「へっ?」
「ざっと計算して……大体千二百万Gデスか」
「はっ?」
千二百万……えっと……わからん。何語だ?
フェイランが口を開けて固まっている。
「まぁ、これは参号個人の借金デスので、ラティーシャ様やマシロ様が参号と縁を切るなら関係の無い話デスが」
「ふぁっ!? そんな!?」
変な声を出したフェイランが、俺とゴシュジンへと交互に首を振り視線を送ってくる。
それをぼうっと見ていると、俺の腰にしがみつくようにして飛び込んでくるフェイラン。
「ボクを捨てないで下さい! 何だってしますから……っ!」
涙混じりの声で、勘違いを生みそうな事を言っている。何をそんなに怯えているんだ。
「ふ……ふふ……」
ゴシュジンの不適な笑い。その頬を吊り上げて、悪者染みた顔をつくった。
「フェイラン。たかが一千万そこらの借金に、何を恐れる事があります? その程度で私が貴方を見捨てるなどあろう筈もございません」
ゴシュジンの口調がおかしい気がするが……気のせいか。
一千万がフェイランの借金ね。
ゴシュジンのと合わせて、一億一千万。なんだ端数じゃないか。
「ゴシュジンの言う通りだ。俺達は一緒に巣を興そうって誓い合った仲だろ。その誓いは、そんな小銭で綻びるモンなのか?」
「ラティーシャ様っ! マシロさん……っ!」
俺の腰辺りに回されている震えた手が、ぎゅうと力を強める。
「ボク、頑張ります! 例え男としてでも、それでマシロさんの気が休まるなら、ボクは男で構いません! 一緒にラティーシャ様の為に頑張りましょう!」
「はっはっは。そうかそうか。コイツめ」
やる気があるのは良いことだ。
だが、良くわからん事を言う奴だ。性別に構うも構わないもなかろうに。
かくして、俺達に貧乏を越える敵が立ち塞がったのであった。
一億と一千万Gの大借金という巨大な敵が。
―To Be Continued―
双子の月 一日目
収支報告
+ 700G ゾンビ退治
+ 4,000G 情報料
- 3,000G 部屋増設
- 1,700G 生活用品、食料購入
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資産 0G
借金 112,000,000G
経過報告
人員 3名
魔物 0匹
設備
決闘の間




