1.10日常
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海賊とは便利な言葉だと思う。旗を掲げず不当な行いをする船。それらを海賊と呼ぶと国際法で定義したのはテクニア帝国だったはず。そう、いかに相手がテクニアが一昔前にベストセラーの傑作軍艦として名を馳せたハンセル型駆逐艦でもだ。
ハンセル型駆逐艦は継承型が開発され型落ち、武装解除され商業船として世界各地に競売されたことは軍事をかじったことのある者なら誰でも知ってる事だ。しかしこのハンセル型、武装は解除はされたが今は再武装され海賊船となっている。
流石に主砲クラスの兵装は僅か、あっても弾薬が少ないが対空機銃は別だ。針ネズミのように配置されたそれは少し手を加えるだけで撃ち下ろしも可能だ。だが、海賊が対空機銃を装備したがるには訳がある。海賊退治の殆どを竜騎士が行うからだ。正確には親竜派の騎士がだ。聖竜騎士団壊滅による発言力低下に少しでも歯止めをかけるために働きかけた。王宮派はこれを条件付きで認めた。それは親竜派は海賊の無力化のみを行い、海賊の検挙は王宮派が行うと言うものだ。
「隠してる事が丸分かりだ、馬鹿め」
そう言うのは今視界に海賊のハンセル型駆逐艦を捉えた牝竜だ。名はアンティア。アンリッシュの腹心の眷族だ。彼女は背後を飛ぶ親竜派騎士の更に後ろ、アンティア達が無力化した駆逐艦に乗り込み検挙するための王宮派竜騎士に意識を向けた。アンティアはいつも彼らに言われる。相手へのダメージを最小限に無力化しろと。
「だが従うしか無いがな」
アンティアは体をバンクさせ、後ろの味方の騎士に海賊に停船命令を出すように伝える。ここは領海ではなくテクニアとの共同経済海域。無警告撃沈は国際条約ではアウトだ。如何に相手が所属を知らせる旗を掲げない武装船でもだ。
「警告する。こちらはカンニバル所属の竜騎士だ。ただちに停船し、所属を明確にしろ」
国際共通回線に呼び掛ける。まぁ結果はわかりきっている。相手は巡航速度から最大戦速へ。甲板では乗組員が対空機銃の欺瞞装備を外し始めた。
「行くぞ」
アンティアはそう宣言して増速した。アンティアは竜騎士を乗せていない。その理由は単純だ。船舶と殴りあいをするからだ。
速度を上げたアンティアに対空砲火が集中するが、彼女にしてみれば12.7ミリ弾等豆鉄砲に等しい。船に肉薄して、後ろ足の爪を使い右舷の上部構造物を対空機銃含め抉った。鋼鉄の上部構造物は切り裂かれ海に落ち、対空機銃は無論海賊ごと爪で潰し吹き飛ばす。アンティアは素早く反転、続いて左舷を同じように破壊する。これで相手に残されたのは撃てるかどうか怪しい主砲と、艦橋付近に残された対空機銃だけだ。
だが相手は止まらない。未だ無傷の機関をフル稼働させ逃げに入る。
「懲りないな」
アンティアは必死にもがく駆逐艦を鼻で笑うと、高度を上げてから艦首目掛けて急降下、わざと乱暴にその艦首に着地した。
全長5メートルの竜の体当たりだ。あまりの衝撃に艦首溶接部の許容応力を上回り、艦首がもげた。艦首は波の抵抗を可能な限り押さえる部分だ。此処を潰されたら船は急激な抵抗増大に襲われる。これで高速航行は不能、いや通常航行すら不可能だろう。
本来なら艦首が無くなっても沈みはしないが、それは適切なダメコンが出来ている時だ。たしかに駆逐艦は海賊としては脅威だが、ダメコンが出来なければ横っ腹に穴をあければ漁船だろうが軍艦だろうと簡単に沈む。
「後はどうぞお好きに」
駆逐艦を完全に無力化したアンティアはつまらなさそうに背後の突入部隊、即ち王宮派の兵士に言った。その王宮派が乗る雄竜はアンティアに申し訳無さそうにしながら駆逐艦に向かう。
「お前らが気にする事では無いだろうに」
彼女はそう呟くと上空警戒の任に就く。今ごろ船内では王宮派が穏便に海賊を捕縛し船を呼ぶ。そしてその船で陸で向かい取り調べだろう。どのみち、マスコミには海賊のことなんてリークしないだろうし、海賊も祖国におとがめなく帰国するだろう。
「アンティア様」
親竜派の騎士が何か言いたそうにこちらに寄ってきた。
「言いたいことは分かっている。あれはただの海賊じゃない。テクニアが裏で認めている正規の海賊で、それを都合良く返す密約があることも知っている。だが、今の私達に何が出来る? 何も出来やしないさ。あの日から私達は力を失った。武力ではなく社会での力をな」
彼女はそう吐き捨てた。
「正直、悔しいです」
「あたしもだよ。だけどどうしようもない。ねぇ、腹いせに今度の海賊船沈めたいんだけど、どうしたら事故に見せかけて撃沈出来るか提案無い?」
アンティアに問われ騎士は戸惑った表情を見せた。専門外かと思いつつ、彼女は竜の体で冗談だと身振りする。
「嘘だよ。故意に起きた事故でなくても船が轟沈なんかしようものなら理由関係無くあなた達に制裁が来ることなんて分かりきってる。まったくお笑いよね、竜を排除したいのに、私がアンリッシュ様の眷属と知ってびびって手出し出来ないんだから」
騎士は黙って頷く。彼女がやたらと喋る時は鬱憤が溜まりに溜まっているときだこうやって言葉のあちこちに王宮派を馬鹿にする単語を入れてガス抜きをしているに過ぎない。
「アンティア様、その辺にしておきましょう。攻撃材料にならないかと、下の船が聴音装置を向けているかも知れません」
「はぁ、ん、了解」
アンティアは口を閉じると、穏便な拘束をしているであろう海賊船の上を、つまらなさそうにグルグル飛行した。胸に、王宮派や諸外国に対する鬱憤を感じながら。




