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総合スーパー店長が異世界転生して〜店舗ごと召喚された俺と従業員七十三人  作者: もしものべりすと


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終章 いらっしゃいませ

その日の夕方、青葉店のシャッターを下ろした俺は屋上に上がった。


夕焼けだった。


赤い空が、地平線まで広がっていた。


俺はポケットから、缶ビールを二本取り出した。


一本を開けた。


もう一本は隣に置いた。


「氷川、お疲れさん」


俺は自分の缶を軽く、隣の缶に当てた。


ことんと軽い音がした。


「青葉店二十一年目、本部表彰、廃棄ロス一・一パーセント。また過去最低を更新したよ」


「お前のご家族、夏休みに青葉店夏祭り、また来てくれたよ」


「息子さん、来年本部を目指しているらしいぞ」


「お前の跡を継ぐ男になる」


俺は缶ビールをぐっと飲んだ。


冷たいビールが喉を流れた。


夕焼けの赤い光が屋上を染めていた。


その光の中に、ふともう一人人影が見えた気がした。


ミッチ姉さん、戸塚、沙耶ちゃん。田所さん、仁科さん、福田さん。宇都宮副店長。


七十三人全員、屋上に上がってきた気がした。


そしてその奥に王女エルナ、ロドリゲス、王。グルド将軍、漁師ヴィレム、王都の子供たち。


夕焼けの光の中に、二つの世界の人々が並んでいた。


俺は缶ビールをもう一口飲んだ。


「皆、お疲れさん」


俺は声に出して言った。


「青葉店、本日閉店完了です」


「明日も開店です」


「明後日も開店です」


「ずっとずっと開店です」


夕焼けの光が、ゆっくり薄れていった。


夜の星が一つ二つと、輝き始めた。


俺は缶ビールをぐっと飲み干した。


そして立ち上がった。


屋上の手すりに、両手を置いた。


風が頬を撫でた。


涼しい秋の風だった。


「いらっしゃいませ」


俺は夜空に向かって、頭を下げた。


「ヒノマル青葉店、本日閉店しました。明日、午前九時開店です」


「皆さん、本日もありがとうございました」


夜空に満月が上がり始めていた。


その満月の隣に、もう一つの月が見えた気がした。


ほんの一瞬だった。


俺は笑った。


「いつかまた、二つの月の世界で会えるといいな」


俺は屋上の階段を降りた。


下では、最後の車が駐車場から出ていくところだった。


副店長の宇都宮が、駐車場で誘導していた。


「お疲れ様です。また、よろしくお願いします」


「副店長、お疲れ」


「店長、お疲れ様です。明日、よろしくお願いします」


「ええ、明日よろしく」


俺は車に乗った。


エンジンをかけた。


家に向かった。


二十年毎日戻っている、家だった。


妻と娘が待っている、家だった。


家で温かい夕食が、待っている。


その夕食を食べるために、俺は二十年、青葉店で働いてきた。


そして青葉店の客皆も、それぞれの家で温かい夕食を待っている家族がいる。


その家族のために、客皆、青葉店に来る。


それが、店長の仕事を続ける理由だった。


地味で、世界一誇らしい仕事だった。


二〇〇五年夏祭りの夜、屋上で氷川に言った言葉。


その言葉を、二十一年抱えて生きてきた。


そしてこれからも、抱えて生きていく。


俺はハンドルを握りしめた。


車は夕暮れの街を走っていた。


街灯が一つ一つ、灯り始めていた。


その街灯の奥に、人の暮らしがある。


それぞれの暮らしを、誰かが支えている。


その誰かが商人であり職人であり、医者であり看護師であり、教師であり農民であり、店長であった。


俺は頷いた。


胸のポケットの中の、エルナの手紙と新しい紙片がわずかに温かかった。


二つの世界の二つの手紙。


それを抱えて、俺は店長を続ける。


それでよかった。


それでいいんだ。


家に、着いた。


玄関、開けると、温かい味噌汁の匂いが、した。


「ただいま」


「お帰りなさい」


妻と、娘の声が、した。


俺は靴を脱いだ。


ダイニングに、入った。


食卓に、温かい夕食が、並んでいた。


味噌汁ご飯、焼き魚漬物、ほうれん草の、おひたし。


ごく普通の、夕食だった。


しかし。それは青葉店で売っている、商品を、組み合わせて作った、夕食だった。


味噌は、グロサリーの、高橋さんが選び、抜いた最高の、味噌。


ご飯は青葉店、契約農家の、新米。


焼き魚は戸塚が、選んだ、サバ。


漬物は惣菜の、福田さんが作った、青葉店特製、漬物。


ほうれん草は、ミッチ姉さんが選んだ、地元の、ほうれん草。


二十年毎晩、青葉店の商品を、食べていた。


それが、俺の家族の毎日の、夕食だった。


俺は手を合わせた。


「いただきます」


味噌汁を一口飲んだ。


温かい味噌汁が、喉、を流れた。


二つの月の世界の王女エルナに最初に飲ませた、コーンスープの味と確かに繋がっていた。


両方の、世界の両方のスープが、温かい夕食として、人を、生かしている。


俺は頷いた。


「美味しいね」


妻が笑った。


娘が笑った。


俺も笑った。


それは青葉店の、二十一年目の夜の、夕食だった。


そしてこれからも二十二年目、二十三年目と続いていく夕食だった。


俺はご飯をぐっと頬張った。


新米の白い、ご飯だった。


明日、青葉店のシャッターを上げる。


明日も、明後日も、明々後日もずっと、ずっとシャッターを上げる。


それが店長の仕事だった。


それが現場の、誇りだった。


それが、二つの世界を、繋ぐ、仕事だった。


俺は笑った。


「いらっしゃいませ」


俺は心の中で呟いた。


「ヒノマル青葉店明日も開店です」


夜空に満月が、輝いていた。


その、満月の隣に、もう一つの、月が確かに、見えていた。


二つの月の下、青葉店のシャッターは明日、午前九時、上がる。


そして、いらっしゃいませと、頭を下げる店長、がそこに、立っている。


それが店長、真壁悠斗の、二十一年目の誇りだった。


そしてこれから続いていく、二十二年目、二十三年目と続く誇りだった。


俺は味噌汁をもう一口飲んだ。


温かい味噌汁が、喉、を流れた。


二つの世界、両方とも、温かい味噌汁で人を、生かしている、世界だった。


それが、店長の仕事、の続いていく、世界だった。


それでよかった。


それでいいんだ。


俺は明日青葉店で、シャッターを上げる。


そして深々と、頭を下げる。


「いらっしゃいませ」


「本日も、青葉店開店です」


「ヒノマル青葉店二十一年目、本日開店、中」


夜空に、二つの月、が確かに、見えていた。


それは店長の、二十一年の誇り、を確かに、照らしていた。


そして。それはこれから、もずっと、照らし続ける、月だった。


翌朝俺は、いつもより十分早く、青葉店に、着いた。


夜明け、前の駐車場は、しんと静まり返っていた。


街灯の、光が、白い円を、描いていた。


俺は深く息を吸った。


冷たい朝の空気が、肺に、満ちた。


俺は、銀色のカートを、整列、させ始めた。


向きを、揃えて五台、ずつ、並べる。


二十一年毎朝続けている習慣だった。


しかし、今朝その動作は、特別な意味、を持っている気が、した。


それは、二つの世界の店長の朝の、儀式だった。


王都でもう餓死者は、ゼロ、になったとエルナ、の手紙、にと書いてあった。


王都の商人たちも毎朝、市場で商品を整理整頓していると書いてあった。


それは確かに青葉店の、朝の儀式と繋がっていた。


俺が王都で教えた先入れ先出しの原則が、王都の商人たちの毎朝の習慣になっていた。


そして青葉店、の毎朝の、習慣は、続いている。


両方の、世界で誰か、の毎日の、ご飯を支える仕事が、続いている。


それでよかった。


それでいいんだ。


軽トラの、エンジン音が、聞こえて、きた。


ミッチ姉さんだった。


「店長、おはようございます」


「ミッチ姉さん、おはよう」


「店長、しんみりした、顔、してますよ」


「いや別に、しんみりは、して、ない」


「あら私、いつものジョークで言ってるのよ」


ミッチ姉さん、は軽トラの、荷台からキャベツを、抱えた。


「店長今日も、頑張りましょう」


「ええ、頑張りましょう」


ミッチ姉さんは、店の、裏口に、消えていった。


俺はカートを、もう一度押し直した。


軽いと感じた。


そして夜空を、見上げた。


夜明け前、の空、に月、がまだ白く、輝いていた。


その月の隣、にもう一つの月、が見えた、気が、した。


ほんの一瞬だった。


しかし、それは確かに俺、の目には、見えた。


二つの月。


二つの世界を、繋ぐ、月。


俺、は笑った。


「いらっしゃいませ」


俺、は夜明け前の空に、向かって頭を、下げた。


「ヒノマル青葉店本日、午前九時開店です」


「ご来店、お待ちしております」


そして俺は、シャッターの前に向かって歩いた。


二十一年目の、新しい一日が、始まる。


そして、午前八時、五十九分。


俺は、シャッターの、前に、立った。


七十三人の、従業員、がそれぞれの、配置、にいた。


ミッチ姉さん、青果売場リンゴを、磨いていた。


戸塚、鮮魚売場出刃を、研いでいた。


沙耶ちゃんレジ、釣銭機を、確認、していた。


田所さん入口、床を、磨いていた。


仁科さん、ベーカリー白パンを、並べていた。


福田さん惣菜、ハムを、並べていた。


宇都宮、副店長事務所業績、報告書を整理、していた。


それぞれがそれぞれの現場で、それぞれの仕事をしていた。


地味で、世界一誇らしい仕事だった。


午前九時。


俺は、両手でシャッターの、チェーンを、握った。


ぐっと引き上げる。


シャッターが、上がって、いく。


朝の、光が、売場に差し込んだ。


駐車場、の向こうに客の列が、できていた。


最前列に、近所の、老婆が、立っていた。


俺は深く、息を、吸った。


そして深々と頭を、下げた。


「いらっしゃいませ」


俺は言った。


「ヒノマル青葉店本日も開店です」


「ご来店、ありがとうございます」


二つの月が、夜空に、消えていった。


しかし、それはまた明日、の夜見える、月だった。


二十一年目、の青葉店の、二日目の朝が、始まった。



(完)

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