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32.海沿いを行く

 

 ハウステンボスの夜を楽しみ、ホテル日航に戻って、一夜を過ごし、長崎滞在三日目の朝を迎える。

 今日は、早朝から長崎市内に向かって移動だ。


 昨日よりも早い時間帯に朝食会場に集合し、朝食を済ます僕たち。

 朝食ビュッフェは、昨日と同様のものがバイキングで出されていたので、今日は洋食をチョイスする。


「ごめん。早朝から、移動という形で早い時間になってしまったのだけれど‥‥。」

 僕がそう言うと。


「こちらこそ、ありがとうね。無理させちゃってさ。」

 あすかさんがすまなそうに謝る。

 今日の予定は長崎市内であすかさんのマネージャーでもある宮川さんと合流後、海辺へ移動して撮影の予定だ。そして、その後、宿泊するホテルに早めに移動し、ホテルの部屋の中で撮影をして、今日の予定は解散、後は、今日の昼過ぎから、明日の午後くらいまで長崎市内を観光して東京に戻るという予定だ。


「いえいえ。むしろ、色々な場所を巡れて嬉しいですよ。僕はやっぱり。」

「ふふふっ、流石は撮り鉄さん。」

 僕の言葉にあすかさんはニコニコと笑う。

 撮り鉄の僕は色々な場所を巡れて嬉しいのだ。朝早いだとか、そう言うのはあまり文句は言わない。むしろこれから電車で移動できるというのなら尚更だ。


 フランスパンに、ソーセージ、ベーコンに、スープ、そして、デザートを堪能して、部屋に戻り、荷物をまとめてホテルをチェックアウトする。

 そのまま、ハウステンボスの駅へと向かう。


「楽しかったね。ハウステンボス。」

 咲姉ちゃんがニコニコと笑って振り返る。

「はい。初めて行きましたけど、すごく広くてびっくりしました。」

 樹里さんもうんうんと頷く。


 そう思いながら、一昨日来た道を戻りつつ、早岐瀬戸を渡り、ハウステンボスの駅へ。

 早岐瀬戸の水面には朝日の水面が映っている。


「朝日が綺麗ね。向こうの山から昇ってくるのね。」

 咲姉ちゃんが思わず一枚、早岐瀬戸の写真を撮る。


「そうだね。沖縄を除けば、ここは九州で一番西側に該当する県だからね。」

 僕はそう言いながら、咲姉ちゃんの方を見る。ここは大村湾という場所なので、対岸にも長崎県の領土が広がっているのだが、それが見えないほど雄大で大きな海だ。


 因みにだが、長崎県は海岸線の距離ランキング第1位だ。あの北海道よりも上というのも凄い。

 その要因が、複雑に入り組んだ海岸線。早岐瀬戸や、大村湾も海岸線の一部。このハウステンボスがある佐世保市も、入り組んだ海岸線を利用して、戦前は軍港として栄えた場所である。


 そんな、ハウステンボスのある佐世保市を抜け、これから、長崎県内を南下し、長崎市内を目指す。


 ハウステンボスの駅の改札を抜け、ホームへと向かう。


 ホームで待つこと数分、やって来たのは、黒と青の正面塗装、そして、前面のライトで、周りを囲うような見た目をした、YC1系車両。早朝の時間帯ということもあり、各駅停車での運行。


 この後の電車から、シーサイドライナーという快速列車が運行されるようだ。


 電車が停車し、ドアが開き、早速車内へと向かう僕たち。


「おっ、ラッキーですね。」

 僕が車内末端の数少ないボックスシートが開いているのを指さす。

「本当ね。しかも海側の席。」

 咲姉ちゃんも嬉しそうだ。


「ここからずっと海沿いを進んで行きます。車窓の半分くらいが海です。」

 僕がそう言うと、皆は嬉しそうに頷いた。


 列車が走り出し、長崎県を南下し始める。


 入り組んだ長崎県の海岸線、トンネルに入って、抜けて。またトンネルに入って、抜けてを繰り返しながら、大村湾の海岸線に沿って、南下していく。


 南風崎、小串郷と停車していく列車。車窓には海が映ったり、トンネルで消えたりしながら、走っていき、海沿いの川棚と呼ばれる駅へ。


 駅周辺にはまさに海沿いを連想させる古民家の集落がたくさん集まり、一つの大きな町を形成している。

 町の中心に駅があるため、一旦車窓から海は離れているが、車窓奥、つまりは、町の建物の向こうに海があるということを連想させてくれる。


 この駅で交換列車を待ち、再び海岸線を南下する列車。


「すごい。」

「綺麗。」

 樹里さんとあすかさんが目を丸くする。

 咲姉ちゃんも写真を撮っていく。


 ここからは海が一番近くにある区間が続く。

 つまりは、車窓のすぐそばまで海が広がる。


 海沿いの漁師町、そんな場所を抜け、そのような場所のいくつかの駅に停車しながら、かなりの時間、車窓いっぱいに広がる海を僕たちは見ていた。


「凄く綺麗ね。だんだんと日が昇っているから、太陽とのコントラストも奇麗。」

 咲姉ちゃんがうんうんと頷きながら、写真に収めて行く。

 水面に映る太陽の光。それが段々と輝いてくる早朝の時間。本当に素敵だ。


 夏の暑い日。海と空の青色を目に焼き付ける僕たち。この後の撮影が本当に楽しみになって来る。


「なんか、この後の撮影が、ワクワクしてくる。」

 僕があすかさんの目を見て、ニコニコと笑って言う。

「ふふふっ、ありがとう。私も実はおんなじ。こうやって海を一緒に眺めていたらね。」

 あすかさんがうんうんと笑っていた。


 そんな海の車窓もいよいよ別れの時。

 海としばしの別れを告げ、車窓には段々と大きな町、海沿いの閑静な住宅街が広がって来た。


 大村市の町の中に列車は入って来た。


「大村市ですね。因みに、今走っている路線名は大村線と言います。この町を経由するから名づけられました。」

 僕がそう説明すると、皆は頷く。


 僕たちが見ている車窓には大村市の街並みが映っているが、反対側の車窓には真新しいものが映る。

 そう、長崎新幹線の線路が反対側の車窓に入ってくる。


 大村車両基地の駅、そして、長崎新幹線、別名、西九州新幹線を並走をして、新幹線の乗換駅でもある、新大村の駅に停車する列車。

 やはり、この駅で乗客が入れ替わる。さらに南下し、大村市の中心部に一番近い大村駅でも乗客の乗り降りが激しくなる。


 列車の本数も、大村市の北側、先ほど停車した竹松の駅から増加している。


 そうして、大村市を抜け、海岸線からどんどん離れて行く。大村線の列車。

 トンネルに入り、車窓の反対側には、川が流れている。


 その川を辿るように列車は走り、広々とした大きな駅のホームへと滑り込んでいく。


 諫早という駅。この駅がある諫早市は長崎県の中央部に位置し、長崎市、佐世保市に次いで、長崎県で三番目に大きな市だ。


 というわけで、先ほどの新大村、大村よりもかなり大勢の客がこの駅で乗り降りする。

 ここから一気に車内は混雑する。ほとんどの乗客が長崎市へと向かうのであろう。


 何本か交換列車を待ちつつ、少し長めに停車をして、列車は諫早駅を発車する。

 ここからは大村線ではなく、長崎本線と呼ばれる路線になる。


 二つほど駅を停車した後、線路が分岐していく。実は長崎市へ向かう線路は二通りある。

 長崎本線の旧線を通るルートと、新線を通るルートだ。


 時代とともに、鉄道を作る技術が発展したため、日本全国には、目的地へ向かうのに、ルートが異なる、つまり、経由地が異なる路線がいくつかある。

 新線の方は、技術が新しいため、長いトンネルがいくつもある。つまりは、山々や丘をトンネルで貫いたルートである。

 これに対して旧線の方は、自然な流れ、海岸線に沿って迂回したりする。


 僕たちの列車は、長崎本線の旧線を通って、長崎市内へと向かう。

 そう、つまりは再び、車窓には海が見えてくる。


「すごい。また海だ。」

「いつ見ても奇麗。」

「本当ね。長崎の海は綺麗だね。」

 三人の女性陣は再び車窓に広がる海を、眼の色をキラキラ輝かせてみている。


 僕も、車窓いっぱいに広がる大村湾の風景に思わずうっとり。


 そうして、長崎本線旧線のいくつかの駅に停車しながら、再び本線の新線と合流する。


 車窓には長崎県の県庁所在地、長崎市の綺麗な街並みが広がる。

 海の車窓をずっと見てきたからだろうか。かなり、大きな町だと思わせてくれる。


 そう。ここは、昔から異国情緒漂う、素敵な港町。

 今日明日と、この町を観光できるというだけでわくわくする。


 長崎駅の一つ手前の駅、浦上駅に停車する列車。


 浦上天主堂や、長崎大学の最寄だ。


 そうして、浦上駅を発車し、列車は終点の長崎駅へ。


「なんか、すごそう。」

「そうね。長崎観光も楽しみね。」

 樹里さんと咲姉ちゃんは目を丸くしながら、長崎市の車窓を見ている。


「さあ。気合を入れて撮影して、その後も楽しみましょうね。」

 あすかさんは、うんうんと頷きながら、一気に身体を集中させているようだ。


 長崎駅に停車し、ホームに降り立つ僕たち。


 歴史を感じさせる、大きな港町に一歩踏み出す僕たちの姿があった。



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