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20 事故


「こんなことになるとはねぇ」


 中村裕子が言った。白髪が増えて10歳くらい老け込んで見えた。


 会社に社宅の鍵などを返し、退職する手続きをしてきた帰りに駅前のカフェで、1緒に会社を出た中村裕子とお茶をしているところだった。


「中村さんはこれからどうするんですか」


「本当にどうしましょうね。帰る家まで無くしたし」


 中村は村上との不倫が夫に知られて別居していた。


「村上さんとはどうなったんですか」


「別れたわ。彼の方から去っていったの」


 村上は中村の夫から提訴されたらしい。


「でも、どうしてあの時、事故でアバターが落ちたんですか」


「あれは事故じゃないのよ」


「どういうことです?」


「配信用のPCがハッキングされて、意図的にやられたの」


「でも、どうしてPCが乗っ取られたんですか」


「私と村上のせいよ」


「えっ?」


「あの配信の数日前に、村上のPCに私の夫の名義で、私達の不倫の証拠を掴んだというメールが来たらしいの。そのメールには写真が添付されていて、焦った村上はその添付ファイルを開いてしまったらしいの。そのファイルにウイルスが仕込んであって、ハッキングされたのよ」


「そのメールは?」


「もちろん私の夫が送ったものじゃないわ。でも私と村上がホテルで会っている写真は本物だった。その写真の添付ファイルにコンピュータウィルスが仕込んであって、村上のPCがウイルスに感染して、そのPCを配信用のPCとつないだので、配信用のPCも感染したらしいの」


「誰がやったんですか」


「それが分からないの。すごく巧妙な手口で相手はプロらしいの」


「それだけのパソコンの知識があって、村上さんに恨みを持っている人なら絞れるんじゃないですか。村上さんに心当たりはないんですか」


「それが思い当たる相手が多すぎて、誰だか分からないらしいの」


「警察は何と言っているんですか」


「捜査中としか言わないのよ。それで、亜紀ちゃんはどうするの」


「わかりません」


「実家には戻らないの」


「実家は今妹が出産のために夫と戻って両親と同居しているので居場所がありません」


「そう」


「とりあえず、何か仕事を見つけるつもりです」


「私も夫に離婚調停を起こされて別居したから生活が大変なの」


「金江さんは?」


「あの子だけは会社に残るみたいよ」


「そうですか」


「そろそろ行かないと」


「はい」


「元気でね」


「中村さんの方こそ」


 私は中村と別れると歩き始めた。


 すると車のクラクションが後ろからした。


 振り向くと、車が迫ってくる。


 悲鳴を上げた。


 私の身体が宙に浮いた。


 そして身体がアスファルトに叩きつけられた。





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