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94 マッドサイエンティスト

ローレスがロンテ・ブレイブの名前を聞いて体調を崩した翌日、ローレスはいつもの調子で教室にやってきた。


 でも、どこか元気はない。上の空だ。


 篠野部に話を聞いてみると寮に帰ったあと、ご飯を食べることなく眠ってしまったらしい。そして、朝からこの調子なのだと言う。


 明らかに昨日のことが原因だろう。


 図書館に置かれている新聞やスクラップにロンテ・ブレイブかブレイブの名がないか探してみる。


 わかったことは一つ、貴族だと言うことだけ。


 ローレスは一般家庭だったはず……。試験の時に特に狙われる理由はないと言ってたのを覚えている。


 なのになぜ貴族に?ローレスの反応だって普通ではなかったし……。


「貴族のことなら貴族に聞くのが一番、かな?」


 手土産なににしよう。




 放課後、永華は購買で買ったドーナツを片手に指定された研究室に向かっていた。


 なんでこんなところに呼ばれたんだろ?と思いつつも指定された部屋を見つけたのでノックをして、許可が出たので入る。


 中には実験に使う器具や怪しい魔導具が転がっている。なんとなく、魔具堂を彷彿とさせる雰囲気だ。


 中には永華が呼んだナーズビア、それからなんでいるかは知らないビーグル先輩とカリヤ先輩。それから見知らぬ白衣の魔族がいた。


 白衣の魔属はカチャカチャと音を立てて液体を混ぜたり、なにか粉を投入したりと恐らくは実験をしている。


「えっと、とりあえずこれどうぞ」


 先輩たちに囲まれて緊張してきた。ひとまず手土産のドーナツを差し出す。


 差し出されたドーナツにナーズビアは嬉しそうに微笑んで受け取った。


 箱を開いてドーナツを見て感動している。先輩達の分もあるとうながすとビーグル先輩がサッとチョコレートのやつを持っていってナーズビアに文句を言われていた。


「聞きたいことがあってナーズビアを呼んだんだけど、その前になんで先輩たちがいるのか聞いても言い?」


「いいよ。っていてもシスコン先輩以外なんでここにるのかはわかんないけど」


 となるとナーズビアが先輩たちを呼んだわけではないんだろう。


 私、何かしたんだろうか?覚えはまったくないし、そもそも先輩にか変わる機会も早々なかった不思議だ。


「ケイネ、来ましたからそろそろ実験止めたらどうです?」


 カリヤ先輩が声をかけるとピタリと動きを止めて、こちらを振り替える。


 こちらを向いたケイネ先輩の顔を見た瞬間、驚いた。


 だって、その先輩の額には三つ目の瞳があっただから。驚いた理由はそれだけじゃない肌が黒かった、地黒とか褐色とかそんなレベルではない。本当に、黒いのだ。


 その容姿に驚きはしたものの、次の瞬間には白い髪がよく映えるな〜、なんてことを思っていた。


 私がやってきたことをカリヤ先輩に言われて気がついたケイネ先輩は手に持っていた試験管を置いて無言で私に詰め寄ってくる。


「え?あ、ちょちょちょ!」


 いきなりのことに思わず逃げてしまうと背中が壁についてしまった。


 すぐに横にずれよとしたが先輩は力強く私の両サイドにてを付く。ときめくどころか恐怖しか出てこないが壁ドンの体制だ。


「ひえっ」


 見開かれた目がじいっと私を見つめる。まばたきすることなく、そらすことなく、三つの目が私を見続ける。


「ちょっと!なにしてるんですの!?」


「むっ」


 ケイネの奇行にカリヤは止めにはいる。ビーグルは慌ててケイネの首根っこを掴み恐怖から縮こまり固まっている永華からひっぺがす。


「邪魔するな。カリヤ、ビーグル」


「怯えているではありませんか!まず訳を話して受け入れて貰ってからでしょう!?」


「先輩を付けろ、くそ後輩」


 いまだ首根っこを掴まれているケイネは不満げだ。


「大丈夫?」


「う、うん」


 勢いよく背中を壁にぶつけたからちょっと痛いが別にそれ以外なにもない。


「まったく、珍しく教室に来て私に頼み込むから繋いで差し上げたのに……あんまり無茶苦茶をするんでしたら貴女を置いて別の場所でお話ししますわよ?」


「……わかったよ」


「すげぇ不満そうだな」


 ぶすっとした膨れっ面で私の前に立ち直る。


「君たちを研究させてくれ」


「は?」


「君ともう一人、男の子だったな。どうも君たち二人のことが気になる。研究者として感に頼ると言う行為はしたくはないのだが、君たち二人が何か根本的に違う気がして調べてみたくなった。見たところ魔力の流れは正常だから、そこは違うかな。だからカリヤに頼んで場を取り計らって貰った」


 何を、言ってるんだろうか?


 男の子は多分、篠野部ことで、私達のことが気になる?私達の根本的な何かが違う?


 ケイネの発言に冷や汗が流れる。


 本人は勘だと言っていたが正解なのだ。だって私達は異世界からやってきた、ただの高校生なんだから。


 まさか勘だけで当てられるとは思わなかった、


 というか魔力の流れは正常って言ってるところから考えるに魔眼を持ってるんだろうか?それならば下手に魔法でごまかせないから却下だ。


 研究、何されるのはかはわからない。それ以前に異世界から来たことがバレてしまいかねない。


 現状は誰にも言わないことになっている。自分達を呼んだ人間が不明だからだ。


 これは断る一択だろ。


「断ります」


「なんで?」


「怖いからですけど」


「は?私の研究のための礎になれよ」


「露骨すぎるだろ」


 さっきと同じようにだんだんと詰め寄ってこようとしたところでビーグル先輩に止められる。


 このマッドサイエンティスト、“研究のための礎になれよ”って、いったいなにするつもりなんだ……。


「もう!断られたなら潔く諦めなさい!」


「いやだ。ばらす」


「ひえっ!」


「は?」


 ばらすってなに!?


 怖がっているとスッと半ギレのナーズビアが前に出てきた。


「これ以上、怖がらせるのならば、ここから蹴りだしますわよ」


「いやここ私の研究室」


「だからなんですの?」


 カリヤ先輩、とても強い。


 駄々をこねるマッドサイエンティストを圧で沈静化し、私が座る席から一番遠い席に座らせる。


 マッドサイエンティストはふてくされて椅子の上で体育座りをしていた。またカリヤ先輩に怒られていた。


「すみません。いつも授業にでず研究ばかりしてる彼女が珍しく教室にやっていて私に頼みごとをしてくるものですから……」


「い、いや、別にいいですけど」


「この方はケイネ・ドラスベリー、私と同じ二年生で根っからの研究者気質なんですよ。ほとんど教室に出向かず研究ばかりしてるんです。まぁ、研究の成果で授業を免除されてるのでサボってあるわけではありませんがね」


 なるほど、このマッドサイエンティストのことは篠野部に報告しておこう。厄介で怖くてヤバいマッドサイエンティストがいるから気を付けろって。


「私がここにいるのは仲介をしたから、何かあったときは責任を果たそうと思いまして」


「俺はカリヤに頼まれてんだ」


「ええ、私では力負けしてしまいそうでしたから」


 なるほど、それで先輩たちがいるわけだ。


 納得、納得。


 さて、先輩の用事もすんだところだし、今度は私の用事をすませてしまおう。


「そうなんですね」


「えぇ、ケイネがほんとすみません」


「いえ、別に……。あの、私の用件なんですけど、ロンテ・ブレイブかブレイブ家のことを知りたくてナーズビアのことを呼んだんだ」


 ブレイブ家の名前を出すと、その場にいた私を除く全員が顔をしかめる。


「ブレイブ家、ですか」


「今度は何に首突っ込もうとしてんだ?」


「まさかブレイブ家の話をもってくるとは……」


「世間知らずの私でも知ってるやつだな」


 ……この反応を見るに、あまりいいところではなかもしれない。


 頭を抱えたナーズビアはどうしたものかとため息をはいた。

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