95 あまりにも……
貴族のことは貴族に聞けば言いとナーズビア達にブレイブ家のことについて聞いてみたら頭を抱えられてしまった。
しかも口ぶりからするにブレイブ家はあまり評判がよくないのがわかった。
「……自分の知ってる限りのことを教えるから、なんでブレイブ家のことを知ろうとしてるのか聞いてもいい?」
そういったナーズビアに、私は素直に訳を話した。
「あんまり首突っ込むのもって思ったんだけど、流石にローレスの反応がおかしくって……。あ、これ口外なしでお願いします。何があるかわかんないんで」
「いや、それはいいんだけど……」
今日一日、それとなく観察してみたのだが、やはり篠野部の言ってる通り上の空で、それでいてなにかに怯えているような素振りだった。
それを隠そうと必死になっていたから、結構わかりずらかったんだけどね。
ローレスの狙いどおりローレスの様子のおかしさに気がつくのはごくごく少数で、いつも一緒にいるメンバーやよく回りを見ているクラスメイトくらいだった。
気がついてる人たちにもおふざけてごまかすから、首をかしげつつもローレスのおふざけに乗っかっていた。
おふざけのせいでローレスの様子のおかしさは女の子にフラれてせいだって一部で噂になってる。
ある意味で当事者である私とカルタしか本当のことを知らない。
「ローレス・レイス……あぁ、永華と仲のいい軟派やろうか」
ローレスの認識、軟派野郎なのか……。
紳士で面白くていい人なんだけどなあ、なんて思いつつも口には出さない。
「まぁ、確かに気になるのもわかりますわ。でも、ブレイブ家とはあまり関わらない方がいいと思いますの」
「もうロンテ・ブレイブにあってます。多分ローレス回りの人たちは顔覚えられてるんじゃないですかね?」
「あ……?あ、そうか。ローレスの知り合いだって知ってて声かけれんだから、そうなんのか……」
「ローレスって誰だ?よく一緒にいる子か?なら喜んで匿うが?」
「違うけど?てか匿ってる間、研究とかしようと考えてるでしょ」
「そうだが、違うのなら知らん。勝手にしておけ」
マッドサイエンティストはそう言って私がいるのに気がつくまでいじっていた試験管にを、またいじり始めた。
頬がひきつっている。
なんなんだこの人……。
カリヤ先輩は研究者気質だとか言っていたけど気質ではすまない気がする。
「ちょっと、ケイネ。言い方を考えなさい。そして道徳を捨てないでくれませんこと?」
「この子が私の研究に協力してくれるなら考えるが?血とかくれれば、いやいっそのこと臓器を__」
「却下!」
「だから道徳を捨てるなと……」
欲望溢れるマッドサイエンティストの申し出にビーグル先輩は食い気味に却下と答え、カリヤ先輩は頭を抱えて険しい顔つきになっている。
「倫理観捨てるなあ……」
「こっわ……」
一年生二人組はドン引きである。
ナーズビアに会いたいって言ってる人がいるって聞いて了承したけど、断ってた方がよかったな……。
永華と、その隣にいるナーズビアはケイネに会ったこと、会わせたことを後悔していた。
今はマッドサイエンティストではなく、ブレイブ家やローレスのことについて考えよう。
担任であるザベル先生の顔を覚えられてるのはおかしくないとして同室の三人、それから一緒にいることが多い私含め四人は知られてると思った方がいいだろう。
それ以外だと、クラスメイトも覚えられてそうかな?いや、クラスの人数だって四十人ちょっといるから全員ってことはないかも……。わかんないけど……。
「もう!ケイネのせいで話が進みませんわ!早く話を進めましょう」
「あ、はい。でも、ブレイブ家ねえ。なんでまた……まぁいいよ。知っておけば逃げられるでしょ……たぶん」
ナーズビアから語られたブレイブ家の情報が以下の通り。
一つ、ブレイブ家の当主も婦人も気難しい人で気に触るようなことをしてしまうと、例えどんな人物でもすぐに追い出される。
二つ、当主と婦人の仲は冷えきっており婦人は放置されてしまっているんだとか。
三つ、屋敷は夜になると鞭を打つ音と悲鳴が聞こえてくるらしい。
四つ、犯罪組織に手を貸しているらしい。理由は不明で多種多様なことに手を出しているんだとか。
以上四つ、一つ目以外は噂話らしい。
「でも、いつだって黒い噂は絶えないんだ。告発とかで犯罪の疑いをかけられて魔導警察や軍が屋敷を調べたけど、それらしい証拠はいつも見つからない」
つまり無実なのに冤罪を被せられようとした?いや、それじゃあナーズビア達の反応が変だな。
「一回、二回なら自分達だってこんな反応しないさ。けど告発の回数だって四十回を越えてるんだ。正確な数は……自分も詳しくは知らないけどね。自分が生まれる前から何度もあったことらしいから、そんな長い間やってること正確に数えてる人は早々いないから」
「皆さん、最初は貴族に恨みを思った平民の戯言だって思ってたんです。でも、あまりにも続く告発の数々、告発した方々はは後日、必ず事故死する……そんな状態に、黒い噂や告発の内容が本当なのではないかと考える人達は増えたんです」
「だからブレイブ家には商売目的でもないかぎり近づこうとするやつはいねえんだ。仮に無実だとしても流石にな……。ブレイブ家のやつらも釈明しようともしないから余計に怪しいってなってんだわ。怪しすぎて逆に怪しくないって地点はとうに通り越してるくらいにはな」
告発って言うのは屋敷で働いていた人がしたのだろう。
告発が正とするならば、それほど“告発されるような何か”を使用人に見られていることになる。
そんな迂闊なことをするような人間が家宅捜索をされて証拠を一つも出さないなんてこと、あるんだろうか?
チラリとマッドサイエンティストの方も見る。
「私でも手を出さん、取引もせん。なにも出てこないが怪しすぎて相手にする気にならん。それに、あの屋敷の近くを通る機会があったが二度と近づきたくないと思った。これは本能から来るものだ」
魔族の本能、ね。詳しくは知らないが獣人や人魚なんかも生存本能が強いと聞くから、それと似たようなものなんだろう。
告発が絶えない、でもないもない、でも魔族の本能が拒絶する屋敷……。
よくわからないが、危ない貴族なのはわかった。
ネットがある私達が元いた世界なら誰かが放火した、で終わってもおかしくない話だ。だが、この世界にそんな物はないし、態々貴族に火をつける者はいないだろう。
……火のない所に煙は立たぬ、ってことかな?
「危ないのはわかりました。でも、黒い噂ってなんですか?それか告発の内容か、知ってたら教えてほしいんですけど……」
これは興味と警戒から来るものだった。
悪評がたつ貴族、その実は噂とは違う人物像で回りが勝手に誤解して悪評をたてた。なんて話、元の世界で見たことがあるからだ。
まぁ、そのパターンは無さそうではあるんだけどね。
「う〜ん、ブレイブ家は西側にあるんだけど今はなくなったスラムから子供を拐っていたとか、一般家庭からも拐ってたって話があるね。無くなったスラムの人間たちを使って人体実験してるとかって話もある」
西側……そういえばスラム問題は解消できたとか言ってたような……?
「西側は、まだギャングとかいるし、昔から治安が悪くて行方不明事件があとをたたないし……この前の件もあるから免罪かもしれないけど、スラムだった場所がきれいにされたとき、スラムに住んでた人達の何割かが消えたんだ」
ナーズビアは言葉を濁したが、カリヤ先輩の兄や祖母が関わっていた件だろう。
「人体実験してるって噂はブレイブ家の当主が医療道具を買い漁っているからだね。まあ、飛躍してる気もするけど」
消えたスラムの人と買い漁られる医療道具……。
「あとはアレだろ。アブネー薬に手ェ出してるって話。目があわねえとか、訳わかんねえこと言ってるときがあるとか、必死になにかを探してるとか、毎日なにかの薬を服用してるとかってのがある。定期的に薬をどっかから買ってるのは本当みたいだがな」
アブネー薬?あぁ、薬物とかの類いか。
異世界とか魔法とかのファンタジーな、この世界にそんなあるんだ。
あ、いや、ここわりと物騒なんだった。ギャングはいるし誘拐事件横行してるし……。
よく人間滅んでないな……。
「あ、言っとくがブレイブ家の当主は持病とかねえはずだからな。今はもうやめたが、若い頃は軍にいたからよ」
むう、持病では?と疑ってたけど軍人なら持病の可能性は低いな……。
「告発の内容の一つに“子供を虐待している”という話がありましたわ。それとあわせて、子供を虐待して殺してしまったと言う噂もあります」
「……それ、ロンテ・ブレイブのことですか?」
「それはわかりません。ただ、ブレイブ家には側室の子供がいたと言う噂もあったので、表にロンテ・ブレイブ様しか出てこないことから、その噂が派生したものではないかと思われるんですが……。告発の方はロンテ・ブレイブ様の可能性は少なからずありますわ。本人は否定しておられますけどね」
虐待されている子供が親を庇うのは、結構あることだと思う。
だって、その子供には親しかいない。唯一なのだ、嫌われたくないと思って庇う。
外を知らない、幼い子供なら余計にそうなる。
「“何か”を探していると言う話は聞いたことがある。秘宝だとかなんだとか、ご執心だから奥方は烈火のごとく怒って邪魔してるって話もある」
どの噂もろくでもない話だな……。
そりゃ、こうも警戒されるわけだ。
でも、やっぱりおかしい。そんな噂のたつ人物からローレスに手紙なんて、怪しすぎる話だ。
一体、何が狙いなんだろう?




