61 好みの殴り合い
中間テストに備えて、教室で勉強会をしていると学校中に響き渡るチャイムがなった。
思いっきり延びをして時計を確認すると、針はザベル先生に言われていた六時を指していた。
「さぁ、勤勉に勉強をするのはいいですが、もう時間ですよ。道具を片付けて。寮に帰りなさい」
疲れ気味の八人の声が響く。
永華は片付けをしつつも夕食について考えていた。
何を食べようか、そう考えてもなにもできやしない。
「……晩御飯どうしよう」
片付けの手を止めて、一言こぼす。
「私もどうよう」
「俺肉食べたい」
「今から外に行くのもなんかな……」
永華の呟きを皮切りに、次から次に夕食についての話になってくる。
参考にザベル先生に聞いてみることにした。
「先生〜。夕飯何にするんですか〜?」
「夕飯ですか?……決まってませんね」
「先生もか」
誰も夕飯のメニュー決まっていなかった。
この学校、朝と昼は学食があるし購買も空いているので食いっぱぐれるということは早々無いのだが、今くらいの時間帯になってくると話は別だ。
この時間になれば食堂のスタッフは各々の家に帰るし、購買のスタッフもそう、というわけで校内に食事にありつける場所がないのだ。
もちろん寮母さんはいるのだが、生憎と今日は女子寮も男子寮も寮母さんがいないから自力で用意するしかないのだ。
「食べに行くのも値が張るし、この時間から行ったら相当またされるわよね。だからって自分で作れるかって言えば、ね。手伝い程度ならできるんだけど……」
ミューの言葉にローレスとベイノット、ララが頷く。
「手伝いできるなら十分では?」
「メメもそう思います。私、できる事と言ったら魚の生け捕りだけですもの」
「素手で?」
「はい」
「アタシ、それでも十分すごいと思うのだけれど……」
流石は人魚、海で生まれて生活しているだけある。
「誰かが料理してくれるっていうのなら喜んでお金も出すし手伝うのに」
またローレスとベイノット、ララが頷いた。
「じゃあ、しよっか?料理」
夕暮れに向いていた視線が一気に永華に集まった。
永華は全員の視線が行きなり自分に向いたことに驚き肩が跳ねる。
「え、できるの?」
「か、家庭料理なら、一通り」
ローレスとベイノット、ララ、ミューが顔を見合わせる。
「私変なこと言った?」
永華の問いに、カルタは表情を帰ること無く首を横にふった。
「ねぇ、永華」
「あ、はい」
「お金出すし手伝うからお願いしていいかしら?」
「俺も!」
「アタシも」
「俺も」
「別にいいけど?」
永華からすれば料理を作るなんて好きでやってることで、いつもの事だし大人数の料理を作るのはなれているし苦でもないのであっさりと了承した。
「やった!」
四人とも、そんなガッツポーズ決めるほど嬉しいのか……。
「永華ちゃんの手料理〜」
あ、一人違う意味で喜んでる。くるくる回ってる。
料理ができない人からすれば、かわりに料理をしてくれるのはとてもありがたいことである。
こういうのは独り暮らしをしてから実感するものだ。
なんなら永華の申し出は料理できる人からしてもありがたいものだ。
「あのお……」
「それって……」
「別に、材料費だしてくれるんなら二人の分も作るけど?」
「あ、お願いしていいですかあ?」
「お魚なら捌けますの!」
人魚貴族頼もしいな。
「篠野部は?」
「……」
「私が作ると和食が出るかもしれません」
「行く」
どれ程、和食に飢えていたのだろうか。一瞬で釣れてしまった。
「先生も食べる?」
「え、いいんですか?」
ザベルは唐突の誘いに驚く。教職はどちらかというと生徒に疎まれやすいと思っていたからだ。
永華以外の七人もいやがるどころか歓迎されているらしい。
素直に嬉しかった。
「八人も九人も変わんないもん」
「……答える前に一つ聞いてもいいですか?」
「?」
「どこで料理する気ですか?」
「どこって……どこ?」
永華は首をかしげて、ミューに視線を向ける。
「……どこが使えるのかしら?」
ミューの視線がローレスに向く。
「え、わかんない」
ベイノット。
「わりぃ、俺も知らねえ」
ララ。
「寮……は男子もいるから無理ね」
メメ。
「……どこなんです?」
レーピオ。
「う〜ん……わかります?」
カルタ。
「……先生、食堂の台所はどうでしょう?先生がいれば使えると思うのですが」
カルタがザベルにそういうと、ザベルは顎に手を当て少し考える。ザベルは一つ頷いて、口を開いた。
「それなら大丈夫でしょう。ただし、後片付けはきちんとすること」
「だそうだ」
夕暮れの教室にさっきとは真逆の元気な返事が響いた。
「で、先生どうする?」
「ご相伴に預かっても?」
「もちろん!」
急いで片付けをして、それぞれ荷物を寮に置いて買い出しに行くことになった。
荷物を置きにいって全員が集合するまで二十分とかから無かった。
学校の正門に集合したのは良いのだが、まさかのザベル先生もいた。てっきり職員室か食堂にいったと思ったんだけどな。
何か注意事項でもあるのだろうか。
そう不思議に思っていると永華に手を出すように言う。首をかしげつつ、素直に手を出すとポケットから財布を出してポンと置いて一言。
「材料費はここから出しなさい。全額、私が負担します。変わりといってはなんですが、胃に優しいものだと嬉しいです」
「え!?い、胃に優しいものなのはいいんですけど、財布渡されても……」
「先生!?俺たち自分の分ぐらい自力で払えますよ?」
「そうですよ!」
「いいんです。ここは私の顔を立てると思って奢らせてください」
そういって永華に財布を握らせる。
生徒達は顔を見合わせる。
少しの沈黙のあと、「ごちそうさまです!」という複数の声が学校の正門に響いた。
王都アストロにある商店街の入り口。
流石王都なだけあってバイスの町の商店街のよりも人が多く、すさまじい賑わいを見せている。
「人スッゲ〜、俺の住んでたところ田舎だったからここまで人がいる商店街始めてみた」
「俺もだわ……」
「今日はいつもより少ないわよ?」
「え!?」
「ま、まじか……」
地元民のミューの言葉に田舎出身の二人は驚愕していた。
「……」
「あら?メメ?魚をじっと見つめてどうしたの?」
ウサギの人形を抱えたメメがジィッと魚屋の店先に並ぶ魚達を見つめていた。
「……私、学校に来るまで海にいましたから、お魚が並んでるのとても違和感がありますわ」
「あ〜……海の魚は基本泳いでるものね」
じっと見つめていたから何があったのかと思ったら地元とのギャップに驚いていただけだった。
「でもわかるわ。アタシ、こんな賑やかな商店街に来るの始めてだもの」
「僕もですう。お店に行くとしてもお、もう少し違うところですからあ」
……なんだろう。なんでか二人の話してないところ、真逆な気がする。
「なんか、色々とギャップを感じる」
「いろんな意味で異種間交流してるからだろ」
住んでる場所も、産まれも、種族も、生活していた場所も全く違うのだから色々とギャップを感じるのも当然か。
なんなら私からすれば異世界なんだし。
「さて、はしゃいでるとこ悪いけど、結局なに食べたいか決まった?」
道中で話し合いはしたのだが__
「俺、肉!」
「お魚がいいですわ」
「スープがいいですう」
「永華ちゃんの手料理ならなんでも!強いていうなら肉がいい!」
「辛いものじゃなければ割りとなんでもいいわ。強いていうならパスタかしら?」
「アタシ、とびきり美味しいものがいいわ」
「なんでもいい」
__篠野部は論外としてリクエストがバラバラだった。
これを聞いた私は“好みの殴り合いだなあ”と思っていた。
参考にはするが誰かしらには諦めてもらうしかない。了承をもらいはしたが、こうもリクエストがバラバラだと何にすればいいのか迷う。
だから夕飯のメニュー、全く決まっていなかった。
ひとまず、肉か魚かスープかパスタということなので売っているものの値段によってメニューを決めるとしよう。
「とりあえず、観光含めてうろうろしよっか……」




