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ゴースト・ハンターズ  作者: (仮説)
一章 ゴースト・ハンターズ
6/48

5.地縛霊

 

 ◎


「あの学校で話し掛けるの辞めてもらって良いすか?」

「え、何でよ」


 時は流れ、早くも五月の終わりという頃。

 今日も今日とて平和で退屈な日常なのだが。

 さて、俺の平穏を脅かす敵が一人いる。

 その人は――その女性の名は雪代桜子。同級生であり、最近、俺と同じく幽霊を見る術を施され、ゴースト・シーカーとなったクラスメイト。


 彼女は変人と呼ばれている。

 巻き添えで俺も変人と呼ばれ始めた。解せぬ。


「だって話す人が他にいないんだもん」

「だからって休み時間毎に来んな。時間に追われながら何かするのは嫌いなんだ、放課後にしてくれ」

「はぁ? その割にすぐ帰ろうとするじゃん」

「下校途中に話聞いてただろ。この動画が面白かったとか、コンビニご飯が美味いだとか」

「碌な相槌してくれなかったけどね!」


 そりゃそうだろ。

 一方的な話題に相槌以外何と返せば良いんだ。

「あ、俺も俺も」とか言えと? 嘘だから追求されたら終わるな。


「なるほどな。だが、風向きは変わってると思うぞ」

「風向き?」


 幽霊と人間の見分けがつくようになった雪代は、一般的と何も変わらない。

 いや、可愛らしい顔立ちと優しい性格を加味すれば一般的よりもさらに上かもしれない。俺にあしらわれても、笑顔を見せる雪代は実に可憐だと思う。


 少なくともクラス内において、彼女を排斥するような動きはなくなっていた。俺は未だ変人扱いされているのだから、全く持って遺憾である。


「…………そういうことね。でも、今更友達面されてもね」

「意外だな、気にしないタイプかと思ってた」

「私の何を知ってるのかな?」


 怖い笑み、とでも言える作り笑顔で訊いてくる。


「お喋りが好きなとこくらいは」

「女子は皆そうなの。そんなんじゃモテないよ――って、彼女いるんだったね。デリカシーがない彼氏で怜悧が可哀想だよ」

「…………何度も何度も繰り返して言うように、それは嘘をだからな」

「もう良いって。わかってるから」

「俺のことを全然信じてくれないな!」


 どうやら怜悧と連絡先を交換していたらしい。

 なるほど、完全に洗脳されているという訳か。


「まぁ、わざわざ険悪になることもない。仲良くするんだな」

「自分は関係ない、って言いたそうじゃん」

「だなー」


 君は俺と違って、一人が耐えられないようだからな。

 おやおや、そろそろ授業が始まる。追い払おう。


「自分の席に戻りなさい」

「あ、もうこんな時間か。一〇分短いね…………昼休みまた話そうね」

「……………………」


 おいおいポルナレフ。

 もう、何を言っても仕方ないな。

 噂されるのは諦めるしかないようだ。



 ◎


 ――昼休み、中庭のベンチにて空を見ながら水を飲む。

 ああ、綺麗だなと。

 背後の校舎から届く喧騒と、ただある自然に耳を傾ける。

 そして、真隣から喧しい声が。


「さっきから何見てるの?」

「空だよ」

「空の何? 雲?」

「青空だよ」


 こうもせっつかれると邪険にできないではないか。

 雪代はふーん、と言いながらパンを食べている。

 こうして話していて気づいたが、特に話題は意味はないのだ。話してれば何でも良い。後で聞いても絶対覚えてないから。


「じゃなくて! 言っておきたいことがあったんだ」

「はぁ」

「学校に来る途中の道路に人、じゃなくてゴーストが立ってたんだよ」

「へぇ…………交通事故の現場では結構あるけどな」

「そうなんだ」


 雪代はちゃんと人間とゴーストの見分けはつくようになった。

 それだけで、少しは安心できる。


「地縛霊みたいなものかな?」

「その認識で間違ってない。一般に下級ゴーストも呼ばれてる」

「下級って可哀想過ぎでしょ」

「下級は優しい方だよ。上級になるとマジで化物らしいからな」

「え、そうなの? 地獄とは違うよね?」


 上級は化物という体は保っている。

 だが、地獄は空間だ。干渉法は不明、対処法も不明。文字通りの規格外である。


「上級はレイドボスだから、見つけたら逃げる一択だからな?」

「レイドボス……強い、ってことはわかったよ」

「そういう時に組織の力を使う訳だ」


 組織ぐるみの活動は俺も未だ二、三度しかお目に掛かったことはない。結果は実に無惨なものだった。あの理不尽なほどの強さは今も忘れられない。

 命の危機、という意味では地獄よりも凶悪だ。

 俺の回想はともかく、雪代は雪代で。


「車の運転手が見える人だったらどうなるのかな?」

「……そういう事故は少なからずあるよ。機関にも一定数いる」


 霊視に気づく切っ掛けは人それぞれだ。

 地獄に巻き込まれて霊的エネルギーにあてられる、というのははなかなかない。そういう人は得てして強力な霊的エネルギーを秘めている。


「……どうにかならないの?」


 俺の方を見ているのを感じながらも、空を眺め続ける。

 どんな表情をしているのかは、声音でわかってしまう。


「どうにかとは? 消滅ってことじゃないよな」

「うん…………他に方法はないの?」

「成仏、なんて聞いたことはないな。それに俺は消滅担当だから適性はない」

「担当とかあるんだ」

「ないけどな」


 霊能力者に攻撃しないゴーストは見たことがない。

 鈍い奴はいたが、それでも無害ではなかった。俺達が霊的エネルギーを持っている限り、ゴーストは害を為すだろう。


「まぁ、好きにすれば良いさ」


 俺の結論はどちらでと良い、だった。

 意外そうにしている雪代。


「良いの?」

「できないとは思うがな、できれば重畳。ダメなら自衛のための訓練になる」

「ネガティブなのか、ポジティブなのか……」

「気を遣ったんだよ」


 無責任にできる、とは言えない。同じようにできない、とだって言えない。

 それに、雪代の固有の性質を確かめておきたいのもある。

 サファイアを思わせる透明な霊的エネルギー。

 こんなに美しいエネルギーを持つ者は初めて見た。そこに特別な何かがあっても驚かない。


「俺も行こう」

「本当!? 良かったぁ」


 途端に、雪代は――笑みを作る。

 言いつつも不安だったのか、ゆるゆるに頬を緩ませた。

 笑顔。

 笑顔か。

 真面目腐った顔して下らないことを考えていると顔を覗かれる。


「どうしたの?」

「笑顔は良いものだと思ってな」

「端々が気持ち悪いなぁ。もっと爽やかさをさ……」


 これでも言葉も、言い方も選んだ。

 女の子は笑顔が可愛い、とかの方がおかしいだろう。そこに男女の隔たりはないはずだ、という気遣いが見事に泡に帰した。



 ◎


 地縛霊は、雪代の発言通り道路の真ん中に突っ立っていた。

 緑色の朧気な人型がエネルギーを循環させるように蠢いている。


「小学生くらいの子供かな……可哀想……」


 雪代がそんなことを呟いたお陰で、それが子供のゴーストだということに気づく。


 俺にはゴーストを人型として認識することができない。

 恐らくは固有の性質の一つだ。

 霊視をオン・オフできるのと、直接エネルギーとして見ることができるのと。


「ありふれた事故なんだろうけどさ…………こんなの未練残るに決まってるよ」


 それはどうかな?

 子供だからこそ未練はないと俺は思う。人間はそこまで深く考えて生きている訳ではない。子供なら尚更。突然の事故なら、もっとだ。


「…………」


 やはり、俺にはただのゴーストだ。ゴーストであることしか見分けはつかない。

 敵にしか見えない。

 そんなことはわかりきっていた。対霊互助機関に入って、俺が異端ということはこれでもかと理解させられている。


「……話によると今まで出会ってきたゴーストとはコミュニケーションが取れたらしいじゃないか」

「私はそう思ってたけど、自信はない」

「とりあえずやってみよう。俺は離れてるから」

「でも、道路の真ん中に行くの、って危ないよね」

「こっち来て、って言ってみれば?」

「そんな簡単に行く?」


 ――簡単に行った。


 子供ゴーストはすぐの歩道に歩いてくる。

 恐らくだが、俺がいたら交戦するのでその分離れることにした。

 目線が同じになるように膝を折って、雪代は話している。


 通りがかりはいない。空中に話し掛ける変人とは思われまい。

 襲われてはいない。俺からは化物に話し掛ける変人には見えた。


「おや」


 地蔵が足下に置かれていた。

 妙にぼやけると思っていたら霊的エネルギーが付与されている。規模は狭いが仏閣と同じようなものだ。

 結界でもない限り、ゴーストはそこに引き寄せられる。


「無礼をお許しください」


 石像の頭部に手刀を叩き込む。

 霊的エネルギーは霧散した。これで空気の通りは良くなる。


 雪代がゴーストを連れて動き出した。

 同時にスマホにメッセージが届く。


「移動開始だ」



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