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ゴースト・ハンターズ  作者: (仮説)
三章 ゴースト・ハンターズ・ハンターズ
48/48

9.アンチ・ゴースト・フィールド3

 

 ◎


 ――夜野の標的は桜坂から移り変わりもう一人の護衛、皇戯天廻へと向かっていた。

 アンチ・ゴースト・フィールドを率いるその男は国内有数の五つ星ホテルでも巫山戯た格好をしていた。ハワイ帰りのアロハシャツ姿にサングラスを掛けてロビーを悠々闊歩する。


「白縫からの連絡はなしか…………つまり、そういうことだな」


 煩わしそうに首を回してから、騒ぎになっているプールへ目を遣る。

 騒ぎを起こすな、とは忠告していた。

 忠告を聞くとは思っていなかったがここまでやるとは想定していなかった。まともじゃない人間にまともじゃない結果を残すとは思っていたが、その中でも最低を引き当てる辺り狂っている。


「もうここから逃げている頃か。それとも――それとも、白縫を倒した奴が奴より尚狂ってるとしたら逃げる選択はしないよな」


 言いながら、チラッと二階を見上げれば高所の危険を物ともせずに手摺に座る少女がいた。背中にまで伸びる長い髪の少女は興味深げに右往左往する人々を見下ろす。

 慌てふためく烏合の衆を楽しんでいる。

 夜野の予想は当たってしまった。


「こいつは…………どうするか?」


 まともに殺りあいたくはない相手。

 保有する霊力の量以上に、その人間性に難がある。それこそ白縫に匹敵するくらい。

 放置しても良い――。

 ゴースト・ハンターズの戦力を削る、という第二希望は叶った。雪代の討伐は実現できなくとも、この勢いならどこかの組織が成功してもおかしくない。

 引き際はここしかない、と勘が言っていた。

 白縫の生存は諦め、いつでもここを離れることができるよう連絡を取る。脇道に移動し、上島という名の青年に通話した。


「帰るぞ、大井町を回収して裏口から出ろ。中央エントランスは通るな、霊能力者がいる」


 了解、という返事を聞いて通話を終わらせる。

 この騒ぎに乗じればホテルを出るのも容易い。アロハシャツはかなり目立つが人混みに紛れられれば判別もつかない。


「ここ状態じゃあ、チェックアウトもできないな」


 今すぐここを離れようとする者も多い。金を払ってさえいれば、と荷物を抱えている人もいた。

 皇戯に見られない角度を選び、奥へ奥へと歩き出す。


「おやおや、おじさん。まさかこのまま帰っちゃうの?」

「――――」

「おじさんだよね、桜坂君をどうにかしたの、って」


 不意に声が掛けられた。可愛らしくも達観したような声音である。

 一瞬で冷や汗が滴った。

 いつ背後に回られた? いや、いつから気づいていた?

 ――皇戯天廻。

 彼女は鬼ごっこに勝った、とばかりに優越に浸る。

 夜野は背後からでも感じ取れる程膨大な霊力にあてられ、動きを止めざる負えなかった。下手に動いた場合の反応がわからない。〈霊纏〉できたとて、能力をぶつけられれば敗北だ。


 絡繰りはわからない。

 事実として、位置を特定され、後ろを取られた。どちらもまずいが、今は後者をどうにかしたい。

 気づかれぬ程小さな息を吐き、夜野は言葉を紡ぐ。


「まさか、本当にゴースト・ハンターズについたとはな――あの侵略者が」


 ゴースト・インベーダー創始者の名はゴースト・ハンターズだけでなく全国の霊そしきに浸透している。


「あー、その話か。よく覚えてないんだけどこうしないと殺されたらしいし」

「さしもの狂人も命には替えられない、か」

「拘りないから別にやめても良いんだけどさ」


 風車に聞かれたらとんでとないことになる発言が飛び出た。この任務を請け負ったのは文字通り気まぐれだ。例えば、雪代が男だったら、例えば桜坂が女だったら――その程度で揺らぐ気である。


「白縫――…………あのいかれた女はどうした?」

「あぁ、あのいかれた女ね。ぎゅっ、ってしたら死んじゃった」

「…………扼殺か」


 事実確認が取れた。この分だと遺体を隠したとかはなさそうだ。状況からして、夜野が遺体を処分するよりも警察に囲われる方が早いだろう。そうなれば、ゴースト・ハンターズに情報が流されてしまう。そこから漏れる情報に気掛かりはあるが――。


「――糸か」

「御名答、っていうか見えるよね」


 ホテルの至るところに張り巡らされた霊力の糸――。

 どんなテクノロジーかは知りようもないが、糸を経由して夜野の通話を盗み聞いていたらしい。

 この広大な空間全体を網羅した糸の量は尋常ではない。保有霊力の大半を消費している――そう予想を立てた上で夜野は動き出す。

 全身を霊力で纏うのは基本。切断による攻撃への警戒しつつ、脚力強化を重点的に行った。まずは敵を正面に捉える。そのためには皇戯を出し抜かなくてはならない。同タイミングで動いてしまえばできる心臓を貫かれる方が先になってしまう。


 ――だから、策を弄する。

 指をポケットに引っ掛け、スマホを落とす。雑踏の中でも床への激突音はよく聞こえた。

 皇戯の視線は揺るがない――背筋に突き刺さる死線は揺るがない。

 瞬間――スマホから爆音が流れ出す。

 人に不快感を与える警告音だ。否応なく意識を割かれる。こんな人中でもはっきりと脳に刻み込む、壊してはいけないものを壊したかのような音。

 例え、皇戯でも反射的に手が震える。それは糸が弛むことを意味した。


「こうなれば能力を使う隙ができるよな」


 夜野は足を軸に反転、霊能力を行使する。青色の霊力がその掌に宿った。


「〈金縛り〉」

「――――ッ」


 皇戯の全身に靄が立ち込め、動きを抑止する。

 夜野の能力――金縛り。

 文字通りであり、大した説明もする必要もない。桜坂なら逆宮乖離の〈拘束〉の劣化能力と、言うかもしれない能力である。

 霊能力らしい霊能力。それだけに戦闘には向いておらず、能力の発揮にも条件がある。掌を対象に向けてなくてはならない。

 ただしこれは霊力による強化で抗える。皇戯並の霊能力者ならば一息に解除できるはずだ。だから、大音量でビビらせる必要があった。

 空いた方の手で拳を作り、皇戯の心臓目掛けて突き出す。ふくよかな胸部にめり込こんだ。


「ぐぁッ――」


 止まっていた時が再開されたように、少女の身体は派手に吹っ飛び有象無象にぶつかった。

 ボウリングのように続々と倒れ込む人を横目に夜野はそそくさ、とこの場を跡にする。〈霊纏〉の厚さを感じ取り、この場での勝利は諦めて当初の目的通り逃亡を選んだ。

 糸に気をつけながら裏口へと向かう。

 既に青年――上島は着いているかもしれない。

 だが、裏口で待っていたのは――。


「――…………お前は……………………〈支配者〉か?」


 雪代桜子が静かに立っていた。



 ◎


「――桜子ちゃんはすぐにホテルから出て! その後で良いから桜坂君と合流して!」

「ちょっ、皇戯さん…………!」


 光線飛び交うプールの脇での一幕である。〈アイズ・レーザー〉に滅多撃ちにされながらも、皇戯は雪代を奥へ奥へと誘導し、次の行動を指示していた。

 それは皇戯の護衛として責務であり、最善の選択であることは雪白にも理解できる。

 心苦しさを抱えつつ、彼女はホテルを離れようと移動を開始した。その間に風車への連絡を試みるのも忘れない。

 応援が到着するまで一〇分――それまでは一人で生き残る必要がある。

 雪代は混雑状況を加味して裏口からホテルを出た。

 プールの方から聞こえる凄まじい轟音は断続的に聞こえてくる。その内は皇戯が生きている、ということがわかって安心できた。

 その時「なっ――」という驚きの嗚咽が背後から漏れてきた。

 振り向いた先には青年がおり、その腕の中に幼い少女が寝ている。そして、両方から霊力が溢れ出ていた。


「あなたは…………敵? だよね」

「――ゴースト・コントローラー」

「その名を言うってことは確定ね」


 両者の〈霊纏〉が発動し、中間地点が霊力はせめぎ合った。出力は雪代の方が強く、支配範囲は広がっていく。

 その時点で青年――上島は正面戦闘で勝ち目がないことを察した。彼が話に聞いていたよりも遥かに強い力を持っている。


「なら――」


 上島は抱えていた幼女をドッヂボールでもしてるかのように投げつけた。

 飛び込んで来た以上、雪代は反射的に受け止めるしかなかった。避けるなんて選択肢はそもそもない。

 視界が切れた瞬間、上島は身を伏せ〈霊纏〉強化した下段蹴りを雪代の膝関節に叩き込む。

 ピキッ――と、骨が軋んだ。


「がッ、どれだけ硬いんだ!?」


 上島は足を引きずり、距離を取る。

 衝撃で目覚めてないことに胸を撫で下ろした雪代は鋭い目線で男を突き刺した。


「子供をこんな風に扱うなんて最低ね。あなたみたいな人はぶっ飛ばすのが世のためになりそうだし」

「……………………」


 大井町という名の幼女抱えたまま戦うならば、まだ上島に勝機はあった。雪代のような甘い人物なら手放すことはない。かばった戦い方になれば付け入る隙はある。


「〈霊狼〉」


 上島の身体を覆っていたオーラから数十の紫煙を纏った狼が飛び出す。その鋭い牙を雪代と大井町に突き立てた。

 雪代の〈霊纏〉は幼女にまで拡張されているため、無傷。次の瞬間、狼の頭が吹き飛んだ。容赦ない拳撃は迫りくる霊生物を打ち砕いた。

 一分程度で狼の大半は消滅してしまう。

 足を狙って飛び込んできた獣に蹴りを叩き込みながら雪代は首を振る。


「あれ…………逃げた? でも、能力は消えてないから近くにいる」


 狼は時間稼ぎ、上島は逃走を選んだ。

 上島の霊力で狼を生み出す能力は撹乱に長けていた。量と攻撃力と射程という要素を持つ稀に見る強力な異能である。

 ――だが、相手が悪かった。

 上島が立ち向かったのは、稀に見る霊能力の中でも更に希少な才能を持つ者だ。


「異能が解除されてないなら霊力のパスが必ず繋がっている、ということ。私はそれを手繰り寄せることができる!」


 霊狼を通じて目には見えないほどの極細の糸を引っ張り、逃走していた上島を捉える。物凄い勢いで逆行してきた上島はピタリ、と雪代の目の前で停止した。

 更に、彼を取り巻く霊力を固定することであらゆる身動きを封じる。今の上島には代謝することしか許されていない。


「――ぐ、あッ…………」

「ホテルをこんな滅茶苦茶にして、幼い子供を拐って…………こんなことをして許されると思ってるの?」


 絞り出すように上島は答えた。


「っ、どれもこれもお前が原因だろ!? 霊力というエネルギーを巡った争いは拮抗していた。バランスを乱したのはお前だ。〈ゴースト・ハンターズ〉が全てを支配することになれば我々が築き上げてきた平穏が…………」

「だからって他人の犠牲を許しちゃ意味ないよ。犠牲という言葉を使って良いのは自分が犠牲になる人だけ。あなたは違う――本物はもっと尊い」

「綺麗事で世界は平和にならないッ!」

「綺麗事を願わない世界は平和にならない、と思う」


 最後にそれだけ言って上島の顔面に拳を叩きつけた。

 気を失った青年を瓦礫の中に詰まっていた鉄筋を霊力で捻じ曲げて拘束する。猛獣でもここまでされたら身動きは取れないだろう。


「この娘はどうすれば良いんだろう…………皇戯さんを助けに行った方が良いのかな。桜坂君とは連絡取れないし…………」


 風車からの支援が来るのはおよそ五分後、それまでは待機するべきか。

 裏口の前で立ち止まっていると、その扉が開いた。エントランスから避難してきた客かと思った。しかし、そのハワイ帰りのおっさんは霊力を纏っていた。


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